01-02.詰みポイント更新
「え!? うそ!? 終わってない!? まさか!?」
「ふむ。なるほどのう。今度は覚えておるようじゃな」
「な~ぁにしてくれてんのよぉ!?!?!」
「やかましい!」
ちょっ!? またぁ!?
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「お願いします。もう撃たないでください」
「この我は一度も貴様を撃ってなどおらんじゃろうが」
ちくせう。自覚あるくせに。
「システムメニューを開かせてください」
「ダメじゃ。お主、それで逃げるつもりであろう」
どうやらログアウトのタイミングが悪かったらしく、セーブ地点はあの瞬間に更新されたようだ。幸い即死ビームが当たっている最中ではなかったものの、魔王は私の行動を正確に覚えているらしい。お陰でメニュー画面を開く度に即死ビームが飛んでくるようになってしまった。これじゃあ単に詰みポイントが更新されただけだ。ちくしょう。
「私は帰りたいの。私が帰った後は勇者とよろしくやってもらって構わないから」
「我は勇者なんぞよりお主に興味があるのじゃ」
「……貴女そっちの趣味なの?」
「なんじゃそっちの趣味って」
違うっぽい。
「いえ。その興味を解消したら解放してくださるかしら?」
「そうじゃのう。我の興味が失われるまでは側に置いてやろう。まあ、その時は始末するがな。我の手で」
「それじゃあダメなのよ。貴女だって何度も繰り返す事になるのよ?」
「その時はまた楽しめるのじゃな♪」
そうだった。魔王はこの瞬間に引き戻されるんだった。多少の記憶は引き継げるようだけど、私に興味を抱いた時点に戻るのは間違いない。まさに無限ループ。さっきのループみたいに極短期間なら嫌気も差すだろうけど、ここから長い時間を過ごした後ではどうなるかもわからない。なんなら今度はループに気付く事すら無いのかもしれない。
というか魔王様理解力が凄まじいわね。どうしてそういう所ばかり力を入れてしまうのか、このゲームの開発会社は。
よく見ると魔王様のディテールにはやたらと力が入っている気もする。なにこの美少女。魔王ってこんなんだっけ?
「おい。不躾に覗き込むでない。焼き尽くすぞ」
「あら。魔王様は他者から見られるのなんて慣れっこでしょう? この美しい容姿に注目が集まらない筈はないわ」
「う、うむ。そうじゃな。我は美しい。うむ。わかっておるではないか。お主、中々見どころがあるではないか」
あかん。気に入られてしまった。それじゃダメだ。完全に失望されない範囲で興味を失わせなければならない。メニュー画面を開いてログアウトボタンを押すにはそれしかない。私から目を離すように誘導しなくちゃだ。
大丈夫。さっきよりは簡単だ。時間は十分にある。三十秒に一度即死ビームが飛んでくるわけじゃない。魔王様にだって睡眠は必要な筈だ。必ず隙はある。まだ慌てる時じゃない。
……本当にあるか? これゲームだよ? 魔王の寝込みを襲うシーンなんて無かったよ? そもそも生理現象とは無縁なのでは? だいたい魔王様は人間ですらないんだし。
「また何ぞ考えておるのじゃな。そんな事より我の問に答えるのじゃ。焼き尽くすぞ」
「……なんだったかしら?」
「まったく。仕方のないやつじゃのう」
あら優しい。即死ビームが飛んでくるかと思って恐る恐る聞いてみたのだけど。
「お主は何故我の名を知っておる。その名は人間どころか魔族にすら知られておらぬのじゃ」
ああ。そっか。そうよね。確か魔王の名前って取説に書いてあっただけの設定だものね。作中で魔王の名を語る者は誰もいなかったものね。当の魔王本人でさえ名乗りはしなかった筈だ。
「私のいた世界では貴女って有名人なの」
「なんじゃと?」
「多くの人々が貴女の名を知っているわ」
今は特にね。リメイク発売に一部界隈が盛り上がっていたもの。何を隠そう私もその一人だ。ネットの同志達と語り合ったものだ。早く語りたい。このクソゲーについて。それはそれで盛り上がる事間違いなしだ。
「……お主は未来から来たのか?」
「さあ? どうかしらね」
ここは適当にはぐらかしておこう。真実を語っても信じてはくれないだろうし。なんなら即死ビームが飛んでくるだろうさ。自分が人間に作られた仮想の存在だなんて聞かされれば当然だ。
「……まあよい。ともかく人間であるお主が我を敬う理由もそこにあるのじゃな」
言う程敬ってたかしら?
「ええ。貴女は偉大な魔王様だもの。こうしてお会いできて光栄よ」
正直これは半分本音だ。魔王ノクスクレムは私のお気に入りでもある。不幸なすれ違いさえなければ素直にキャーキャー言っていた事だろう。本当に残念だ。
「ふむふむ♪ よいぞよいぞ♪ そこまで申すのであれば我の側に仕える栄誉を授けようぞ♪」
「遠慮するわ」
「なんじゃと!?」
「その栄誉は身に余るもの。私には務まらないわ」
「たわけ。このような場面でくだらぬ遠慮なんぞするもんではない。それとも何か? 我が目を節穴と愚弄するつもりか?」
「……失礼致しました。魔王様」
「うむ。それでよい」
仕方ない。もう暫く話を合わせるしかない。
「そうと決まれば相応しい装いを用意せねばなるまいな♪」
え? ちょっと?
「連れて行け」
「御意」
二体のメイドゴーレムに羽交い締めにされ、そのまま謁見の間を連れ出されてしまった。
早速のチャンスだ。
『先に言っておくが今も見ておるぞ。余計な事は考えるな』
……マジかよ。
「着替えを覗かれるおつもりですか、陛下」
『何の問題がある。お主は我に忠誠を誓ったのだ。その身全てを我に捧げるくらいの気概は持つがよい』
やっぱりそういう……。まさか夜の相手を求められたりとか……。いや、流石に無いか。このゲーム全年齢対象だし。
「ハイ、バンザイ」
手慣れてるわね、このゴーレムメイド達……って、え? あれ? 私裸になってる? どういう事? 全年齢対象のゲームってそういうの規制掛かるんじゃないの? 自分の裸だって普通は見えないものでしょう? 服が脱げなかったり謎の光が被さったりするものじゃないの?
魔王様が生み出した特別なアバターだからかしら? もしかしてこれもバグ? 本来なら勇者アバターから変わる事ってあり得ないものね。想定されていない挙動なのかも。
まったく。つくづく作りの粗いゲームだ。そのくせこのメイドゴーレム達や用意された衣装なんかはよくよく作り込まれている。なんで女性用下着なんてものまであるのさ。そのアイテム必要ないでしょ。まさか勇者に装備する気かしら?
……いや、おかしい。私は何故今、ゴーレムメイド達に風呂に入れられているのかしら。いくら最新のフルダイブゲームだからってそんな自由度がある筈はない。これが生活を主軸としたゲームならともかく、あくまで魔王討伐を目的としたロールプレイングゲームだ。どう考えても容量の無駄だ。他の杜撰さを見る限り、開発チームにそれだけの余裕があったとは思えない。だからこそって可能性も無いではないけれど。
ただ風呂に入るだけならともかく、触れられている感触がリアル過ぎる。雫の一滴一滴までもが繊細に描写され過ぎている。ありえない。妙な拘りだけでは説明がつかない。
「流シマス。目ヲ瞑リナサイ」
痛っ……。シャンプーが目に染みた……。
いったいいつからだ……。
いつから私は痛みを感じていた?
……おかしい。痛みなんて感じる筈がない。少なくとも最初は感じていなかった。今はどうだ? 私は魔王の攻撃で痛みを感じていたのか? ……わからない。即死しているせいだろうか。痛みの許容量の問題だろうか。些細な痛みであれば没入感の為に必要と判断されたのだろうか。
「なんでドライヤーなのよ」
「ナニカ?」
「……なんでもないわ」
考えすぎか。仮にここが別の世界だって言うなら、メイドゴーレムがドライヤーなんて持っている筈がないものね。それもコンセントに繋がったやつだ。どうやら魔王城には電気が通っているらしい。思い返してみるとシャワーヘッドなんかもよく知るものと変わらなかった。世界間ぶち壊しだ。このシュールさはゲームならではと考えて間違いあるまい。
たぶんこれも横着の所為なのだろう。きっと他のゲームエンジンやオブジェクトを流用したのだ。そうに違いない。
「本当にこれ着るの?」
「着ロ。魔王サマノ命令ダ」
……ちくしょう。




