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03-03.三周目

「……おい、ユズキ」


 あら? 魔王様がお怒りね。最初のループに付き合わされた直後だからかしら? まだこの時点では興味が上回って大して怒っていなかった筈だけど。



「何故じゃ」


 え?



「ようやっと再会できたというのに何故我を置いて行った」


 ……は? え?



「あの瞬間の我の気持ちがわかるか? ユズキが自ら命を絶ったと悟った時の我の絶望が理解出来るか?」


 そんな……筈……。



「ごめん……なさい……」


「もうよい。我はお主を泣かせる為に追いかけてきたわけではないのじゃ」


「まおう……さま……」


「おいで。ユズキ」


 魔王様が私を優しく抱き締めてくれた。




----------------------




 ……やっぱり違う。あの魔王様は私の魔王様じゃない。



 システムメニューのパーティーメンバー欄に魔王様は表示されていない。今の魔王様は私を恋人だとは思っていない。


 全てが嘘なのか、あくまで引き継いだのが記憶だけで、想いが足りていないからなのかはわからない。ただ少なくともあの魔王様は嘘を付いている。私の為に。


 どうしてそこまでするのだろう。今の魔王様には関係のない事なのに。前の周回だってあんなに私を避けていたのに。記憶を引き継ぐ為の準備を怠っていなかっただなんて。



 魔王様は何を考えているのだろう。好き勝手過去を変えられるのは避けたかったのだろうか。私は警戒されている? 私を制御する為に恋人のフリをしているの?



 ……わからない。やっぱり何もわからない。


 私はいつもこうだ。魔王様のように一瞬で論理を積み重ねて仮説を立てるなんて出来やしない。じっくり考えるしかない。何もかも足りていない。こんな私に魔王様の隣に並び立つ資格なんてありはしない。



 何にせよ、私は失敗したのだ。自ら命を絶ってまで渡ってきたこの世界に、前の周回の魔王様が付いてきてしまった。もう魔王様の記憶をリセットする事は叶わない。まさかたったの一度も成功しないとは思わなかった。どうしてこう何もかも上手くいかないのだろう。尽く選択を誤り続けている。



 魔王様の御力を見くびっていた。過去へ渡る術は完成していないものと思い込んでいた。しかしあの魔王様は違う。私の事を正確に認識している。少なくとも恋人を演じられるだけの知識がある。


 あれはきっと私が自分で伝えた事だけじゃない。あの時リリスさんは私の記憶を抜き取っていたのだろう。それを魔王様に託したのだ。或いは眠っていた私から魔王様自身が直接記憶を吸い上げたのかもしれない。魔王様にならそんな力だってある筈だ。



 しかしそれでもわからない。魔王様は何故私の記憶を覗き見た程度で恋人役を務めようなんて思ったのだろう。


 方法は想像できるが、動機が思いつかない。


 実際今の魔王様は私を恋人だとは思っていない。私への強い愛があるわけじゃない。


 例え記憶を完全に引き継げたとしても、想いはまた別の話しなのだろうか。二周目の魔王様だって本当に私を愛してくれていたのだろうか。今の三周目の魔王様はその記憶に引きずられているだけなのだろうか。時間が経てば自然に私を愛してくれるのだろうか。



 情報が足りていない筈はない。魔王様の思惑が読み解けないのは私の想像力不足だ。私の記憶には魔王様を動かす何かがある筈なのだ。魔王様が演技を始めたのはあの時からだ。


 そして世界がリセットされて尚その演技は続いている。つまりそう難しい事ではない筈だ。三番目の魔王様は迷う素振りを見せなかった。ならば何かたった一つの単純で明確な理由がある筈だ。


 でなければ、流石の魔王様でも、リセット直後の記憶を引き継いだ瞬間から演技を始めるなんて芸当は不可能だ。


 何か大きな理由がある筈だ。そしてそれは間違いなく私自身が知っている事だ。魔王様達が私から抜き出した記憶の中にあったものだ。魔王様が恋人役を演じ始めた理由でもある筈だ。


 それはどの記憶? 私と魔王様が初めて結ばれた時? 恋人になると誓った時? 或いはソルヴァニールに全てを焼き尽くされた時?


 私と魔王様が共に過ごした時間は極わずかだ。そう何度も大きな出来事があったわけじゃない。必ず読み解ける筈だ。焦らず一つ一つ考えていこう。



 一周目、チュートリアルのループを完全に脱してからソルヴァニールに焼き尽くされるまでの間の出来事としよう。


 この間にあった出来事は、魔王様の配下に加わり、ドレスを賜り、愛人となり、人間社会を滅ぼし、平定の為に働き回り、エルフと協力関係を結び、魔王様と結ばれ、ソルヴァニールが現れた。



 二周目、再びループ脱出後に戻された私は、魔王様に全てを明かし、メイドとして働かせてもらった。


 戸惑う魔王様に手間取りながらも、どうにか関係を進めようとしていた。


 結局はリリスさんの介入で記憶を補完した魔王様が演技を始めた為、失敗を悟った私は再びやり直す事を決意した。



 三周目。今回の周回では始めから魔王様が記憶を持っていた。私をユズキと呼び、自分は私の探し求める魔王であると口にした。



 考えるべきは一周目だ。一周目の記憶が補完された事によって魔王様の演技が始まったのだ。それも私視点で視えるものだ。


 おそらく内容は、私への想いが掻き立てられる類のものではない。今の魔王様は私に恋をしていない。何か実利があるから演じているに他ならない。


 魔王様にとっての利益ってなんだろう。魔王様は全てを持っている。力も権力も富も名声も。無いのは伴侶だけ。私の想いが本物だから側に置こうと決めたのだろうか。


 魔王様を慕う者は大勢いる。リリスさんとだって互いが本気で望むのなら上手くいくのではないだろうか。



 ……何故リリスさんは名前を持っているのだろう。通常魔物に個別の名前が与えられる事はない。名がつくのは魔族からだ。サキュバスであるリリスさんは、厳密には魔族ではなく魔物だ。それなのに魔王様から名前を認知されている。


 四天王だから? それともサキュバスは人間に近い容姿をしているから、元々名前を持っているものなの? 人間を餌とするなら名前があった方が便利なのだろうか。


 或いは魔王様と浅からぬ縁があるようだし、魔王様自身によって名付けられたとか? 本人は否定していたけど、本当はかつての恋仲だった?


 いや。たぶん違う。魔王様とリリスさんの関係は恋人なんかじゃない。あれはもっと別の何かだ。魔王様には負い目がある。けどあれはリリスさんを恐れているんじゃない。リリスさんへの接し方を恐れているのだ。


 魔王様はリリスさんを特別に想っている。それはきっと今も尚続いているものだ。もしかして二人は親子なの? リリスさんがお母さん? いいや違う。魔王様がリリスさんを育てたのね。


 もしかして喧嘩でもしたのだろうか。リリスさん本人は特段気にしている様子はない。けれど母である魔王様にとっては違うのかもしれない。それが負い目となって現れているのかもしれない。妙に弱気なのもそれが理由と考えれば説明もつく。魔王様が何かやらかしたのかもしれない。


 魔王様はあれで結構惚れやすい。私ともたった一度身体を重ねただけで全力で愛してくれた。


 自分で育てたリリスさんにも手を出そうとしたのかも。それで振られて今に至るのかも。あの魔王様ならあり得る話しだ。むしろあの魔王様がいつまでも引きずるとしたらそんな理由しか考えられない。


 流石の魔王様でも自分の娘相手にゴリ押しは出来なかったのだろう。私みたいに押せば崩せそうなんて要素は一ミリも無かったのだろう。母と慕うリリスさんの姿に罪悪感が掻き立てられたのだろう。



 ダメだ。思考が脱線しすぎてしまった。今は二人の関係に思いを馳せている場合じゃない。



「オイマダカ。早クシロ。魔王サマ首ヲ長クシテ待ッテル」


 そうね。長風呂が過ぎたわね。残念だけどここまでね。



「ヤット出テキタカ。コレ着ロデス」


「ありがとう。メイちゃん先輩」


「……」


 あら? あ、間違えた。



「……ユズキ」


 え?



「先輩イラナイ」


「う、うん」


 メイちゃんって呼んでいいの?



「早クシロ。手ヲ止メルナ。魔王サマ待タセルナ」


「うん」


 受け取ったのは漆黒のドレスだ。サキュバスの服でもメイド服でもない。


 これは元々誰に着せるものだったのかしら。私に誂えたようにぴったりだ。リリスさんでは胸元がキツイだろう。


 当然魔王様の身長では足りていない。なんなら魔王様だって胸元はキツイかもしれない。ギリいけるか? 魔王様はそもそもの身長が小さいし。見た目は子供そのものだし。


 消えた四天王の一人である吸血鬼のものだろうか。魔王様は後生大事に服だけを残していたのだろうか。わからない事ばかりだ。




「ようやっと戻ったのう」


「お待たせして申し訳ございません。魔王様」


「よい。少し顔色が良くなった。色々と考える事も出来たようじゃな」


「お陰様で」


「さあ、ユズキ。ここに座っておくれ」


 魔王様は私を座らせて、いつかのように髪を整え始めた。



「……魔王様って手慣れているわよね」


「まあな」


「リリスさんが小さい頃にも?」


「……そうじゃな」


 あっさり認めるのね。



「魔王様にとって私は」


「伴侶じゃ。子ではない」


 先回りされてしまった。まあ流石にないか。


 それにしても魔王様、私の考えなんてお見通しみたいだ。別に思考を直接読み取っているわけでもないだろうに。やろうと思えば出来るんだろうけど。



「魔王様」


「安心しろ。我はここにいる」


「……はい。魔王様。愛しています」


「我もじゃ。ユズキ。二度と逃がしはせん。改めてそう誓おう」


「ありがとうございます。魔王様」


 私もよ。魔王様。決して逃がしたりしないわ。必ず追いついて捕まえてみせる。私の本当の魔王様を。

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