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02-06.裏ボス

「光竜ソルヴァニール」


 裏ボスの出現条件は、一度でも魔王を倒してエンディングを迎えたデータかつ、勇者のレベルがカンスト、つまり最大値に達した状態で特定の場所を訪れる事だ。


 女神の化身たるこの輝ける竜は、力を持ちすぎて世界の脅威と断定された勇者を排除する為に姿を現すのだ。



 当然カンスト前提の高難易度ボスだ。全ての育成をやり遂げて尚苦戦を強いられる、規格外の存在だ。


 しかも勝ったところで特に何かがあるわけでもない。最強のチート装備とかが貰えるわけでも、女神が謝罪に現れるわけでもない。別のエンディング条件だとかそういう後々の変化だって存在しない。


 単なる余興だ。ストーリー的にはむしろ蛇足でしかない。所謂やりこみ要素というやつだ。



「それが"うらボス"じゃな」


 一糸纏わぬ魔王様が窓際に寄せた椅子に腰掛けている。美しい脚を組み、片肘を付いて、気分を害したように呟いた。



「気に食わんのう」


 ように、ではなく実際に不機嫌だ。私が絶対に勝てないと言った事を気にしているのだろう。



「ソルヴァニールが扱うのは女神の力そのものよ。彼は代理なの。女神の代わりに天罰を与える執行者。魔物の素材で作られた武器ではダメージを与える事すら出来ない。唯一通用するのは人間達が女神から授かった聖剣だけよ」


 この裏ボスの厄介な点、その一だ。実質的な装備固定。しかも魔術の類いは一切通用しない。


 正確にはダメージ判定自体はあるのだけど、高すぎる耐性が全ての攻撃を打ち消してしまうのだ。まともに通るのは勇者の聖剣による物理攻撃だけだ。


 一応、仲間達にも出来る事が無いわけじゃない。勇者にバフを掛けたり、女神の力に由来する僧侶専用スキルで支援する事も可能だ。何故か聖剣ともども取り上げられたりはしないらしい。ゲーム上の都合って可能性も無くはないけれど。


 それ以外の仲間はもっぱら回復要員だ。勇者を薬漬けにしてひたすらドーピングと回復を繰り返すのだ。所謂ゾンビアタックが唯一の正攻法とさえ言われる理不尽難易度なのだ。



「おそらく魔王様の力も通用しないわ。女神ってそういうものでしょう?」


 勇者がレベルドレインへの対策を施されるイベントだって女神に頼めばチョチョイのちょいだ。少々面倒なお使いイベントはあるけど、それ自体は女神の力と無関係な内容だし。とある特別な泉を管理する村に纏わるゴタゴタでしかない。



「おい、ユズキ。覚えておけ。我の伴侶であるお主が女神の肩を持つ事は決して許さんぞ。金輪際だ。わかったな?」


「別に肩を持っているつもりも伴侶になった事実もないわ」


「そうか。まだ虐められ足りぬと申すか」


「恋人になると言ったのよ。拷問紛いの方法だったけど」


「実質同じじゃろうが」


「過程も大切なのでしょう?」


「お主でなければその言葉にも頷いたのじゃがな」


「あら。私の言葉が信じられないって言うのね」


「もうよい。くだらん問答は終いじゃ」


 流石に辟易しているみたいね。もう何時間もやりあった後だもんね。



「話を戻しましょう」


「要は強くなりたいのじゃな」


「ええ。こちらのタイミングで仕掛けましょう。私達の目論見を邪魔しに現れる可能性だってあるんだから」


 現時点で現れていないって事はその可能性も低いのかもしれないけれど。少なくとも人類社会が滅び去っても知らんぷりだ。或いは気付いてすらいないのだろうか。


 ともかく先にソルヴァニールだけでも倒しておきたい。女神があのゲーム通りの存在であるなら、世界を渡る際にも必ず邪魔をしてくる筈だ。挟み撃ちにされたら最悪だ。それに先にソルヴァニールと戦っておけば良い経験になるだろう。



「私は魔王様を信じるわ」


 とうに賽は投げてしまった。今更ベット先を変えるなんて許される筈もない。後は結果を待つだけだ。



「多分に打算が含まれておる」


「魔王様の事は好きよ?」


「ならば何故ノクスと呼ばん」


「魔王様が妙な顔をするからよ」


「慣れておらんだけじゃ。直に慣れる」


「本当にそれだけかしら?」


 お母様を思い出すんじゃない?



「母上は一度たりとも呼んでおらんぞ。名付けた時を除いてな」


 え? そうなの?



「母上は我を生み出してすぐに魔王を退位した。我の事は魔王と呼んでおったのじゃ」


 複雑なのね。



「魔王様って産まれた時からその姿なの?」


「んなわけあるか」


「なら玉座はどうしていたの?」


「我の揺り籠じゃった」


 豪華ねぇ。



「そうじゃなくて」


「一時魔王が不在であろうとなんら問題は無い。我が国の統率力を舐めるでない」


 確かにその辺は称賛に値するのよね。人手不足だなんだと言っているのも今だけだ。逆に言えばその程度で済んでいるのだ。突発的に全ての人間達を支配下に収めたというのに、支配を維持できているのだ。


 いくら多くの人間達が力を失ったとはいえ、一人も逃さないどころか飢えさせてすらいないのだ。しかも中には女神由来の力を持つ者達だっていないわけじゃない。そんな者達ですら生け捕りにしてあるのだ。


 そもそも人間達が魔王軍に勝てる筈など最初から無かったのだろう。それだけ組織としての練度が違いすぎる。例え魔王様が勇者に討ち果たされていたとしても、それだけで勝てたとは到底思えない。



 あのゲーム世界ってどのみち詰んでいたのではなかろうか。勇者が魔物達を倒し続ければ、他ならぬ女神によって勇者の命が断たれてしまうのだ。そしてまた勢いを盛り返した魔族達の中から新たな魔王が誕生するのだろう。後は繰り返しだ。再び勇者は選定されるだろう。世界が滅びるその時まで。



「お母様は」


「おい。本気でその話を続けるつもりか?」


 流石の魔王様でも触れられたくない事はあるのね。



「先ずは私のレベルを上げましょう」


 今のレベルを確認する為にシステムメニューを開いた。



「あら? 魔王様がパーティーに加わってるわ」


 今まで表示されていたのは私一人だったのに。何が切っ掛けかしら? まさか私が魔王様の恋人になったから? それしか考えられないわね。毎日確認はしてたんだし。



「どれ。見せてみよ」


 魔王様が私の脚を開かせて間に座ってきた。やわやわ。



 うわすっご。レベルもステータスもオールカンストだ。しかも数字の横にプラスマークまで付いている。これってきっと上限値で収まらないって意味よね。ワンチャン裏ボスも殴り倒せないかしら。



「ふむふむ」


「流石は魔王様ね」


「当然じゃ。ユズキの方も見せてみよ」


「はい。魔王様」


 私のレベルは当然一だ。ステータスも初期値。最弱だ。



「少し試してみるか」


 魔王様が私の手を取り、指を絡めて、何やら力を流し込み始めた。



「ほれ。見てみろ」


「あら。こんなあっさり」


 私のレベルがもの凄い速度で上がっていく。ステータスも同様だ。ものの一分もしない内にレベルがカンストしてしまった。


 それでも魔王様は止めるつもりがないようだ。レベルの変化は止まっても、ステータスは未だに上がり続けている。


 そうして全ての値が上限に到達した。それでも魔王様は力を流し込み続けた。私の数字にもプラスマークが表示され、表示上の限界を突破した事を示していた。



「こんなもんかのう」


「いいの?」


「裏切りなんぞ警戒するわけがなかろう」


 正直これでも全然勝てる気がしないのよね。魔王様の数値も変わらずカンストプラスのままだし。



「ふむ。仮にも勇者の肉体か。潜在能力だけは申し分無いのじゃろう」


「思っていたより注ぎ込めた?」


「うむ。じゃからくれぐれも気をつけよ。急激に力を与えすぎたのでな。少々興が乗りすぎてしまった。決して我の下を離れるでないぞ。お主には到底制御なんぞ出来はすまい」


 そりゃそうだ。おっかない。



「どうじゃ? これでもまだ勝てぬと申すか?」


「ううん。魔王様の力は私の想像を遥かに越えていたわ」


「そうじゃろう♪ そうじゃろう♪」


「ありがとう、魔王様。私を信じてくれて」


「よい。お主は我の伴侶じゃ。いずれ並び立ってもらわねば困るじゃろ」


「ここからまだ強くなれるの?」


「当然じゃろ。力は扱えなければ意味が無い」


「それもそうね」


「みっちり鍛えてやる♪ 覚悟するのじゃな♪」


 火が付いたようだ。再び押し倒されてしまった。



「さっき散々やったじゃない」


「勘違いするでない♪ これはレッスンじゃ♪ 嫌なら我を跳ね除けてみせよ♪」


「そんな気分にはなれないわ」


 今とっても良い気分なんだから。跳ね除けるなんて出来る筈ないじゃない。


「♪」

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