表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第5話「白紙の本と忘れた一日」

深夜の図書館は、静寂に包まれていた。

楓は棚の奥にある白紙の本をそっと取り出す。ずっと気になっていた頁番号が、かすかな光を帯びて浮かび上がっている。指先が震える。ここに、自分の失った一日が隠されている――そんな予感がした。


「……やっぱり、これなのかな」

独り言のように呟く。ページをめくると、そこには小さく楓の名前が記され、消えた日の番号が示されていた。記憶の断片が微かに胸に浮かぶ。


その時、扉が静かに開いた。

「楓……?」

颯太の声。彼は少し心配そうにこちらを見ていた。


「颯太……」

楓は本を抱え、胸の奥のもやもやを整理するように息をつく。

「この本……私の、忘れた一日を知る手掛かりかもしれない」


颯太は黙ってうなずき、そっと隣に座った。

「一緒に見てみようか」

その言葉に、楓の胸が少しだけ軽くなる。孤独ではない――誰かがそばにいることで、失った時間を取り戻す勇気が生まれる。


楓は白紙の本を開き、光を頼りに頁をめくる。ページには、一瞬の出来事や小さな笑い声、見慣れた景色の描写が浮かんでは消える。まるで時間そのものが息づいているようだ。


「これ……私の記憶……」

涙が頬を伝う。失ったと思っていた一日が、確かにここにあった。だが、それは完全ではない。何かが欠け、誰かの願いと交差することで形を変えてしまったのだ。


「楓、無理に取り戻そうとしなくていいんだ。大切なのは、今を生きること」

颯太がそっと手を握る。温かさが心に染みる。楓はその手を握り返し、少し微笑んだ。


白紙の本は閉じられ、図書館の空気が元の静けさに戻る。

しかし楓の胸には、確かな希望と決意が芽生えていた。

失った一日をただ取り戻すのではなく、誰かの未来を守りながら、自分の時間も少しずつ取り戻す――。


扉の外、夜風が街灯を揺らす。

楓はペンを握り直す。今日も、貸し時間の一頁が、誰かの未来にそっと落ちる――。


そして、次の願いが図書館に届くのを、彼女は静かに待った。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ