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第2話「祖母の午後」

夕暮れの光が図書館の窓から差し込む。

楓は棚の間を歩きながら、昨日返した一頁の余韻を思い返していた。借りた時間は必ず誰かの心に波紋を残す。自分の失った一日も、どこかでそうやって形を変えているのだろうか――。


「楓さん、今夜も新しい依頼ですよ」

管理人の低い声が背後から響く。楓はうなずき、机の上の申込書を手に取った。依頼人は小柄な老婦人。文字は震え、どこか懐かしさを帯びている。


『一緒に過ごした祖母との午後を、もう一度だけ――』


楓は申込書を握りしめ、そっと息を吸った。祖母との思い出は、自分の中にも微かに残る優しい記憶だ。だが、時間を貸すことで、失われた過去を変えてしまうかもしれない。


儀式の準備を整える。白紙の本を開き、老婦人の名前と願いを書き込む。

「代償を理解していますか?」

楓が尋ねると、老婦人は静かにうなずく。

「ええ、心の片隅の小さな寂しさで構いません」


ペン先が紙に触れると、図書館の空気がわずかに震えた。ページが光を帯び、封印が完了する。

「これで、祖母との午後をもう一度…」


老婦人の目に、一瞬の涙が光った。楓は微笑みながら、静かに手を差し伸べる。小さな奇跡が、誰かの午後に降りたのだ。


しかし、ページを閉じた瞬間、楓は気づいた。封印の光が、棚の奥にある白紙の本の頁と一瞬だけ重なったのだ。自分の失われた一日――あの頁の番号――。


「……また、あの本が反応した」


心臓が少し早鐘を打つ。貸し時間図書館には、まだ自分の知らない秘密がある。

それでも楓は、次の一頁を貸し出すため、ペンを握り直す。誰かの小さな願いを守ることが、自分の欠けた時間を取り戻す鍵になるかもしれないのだから。


図書館の扉の外、街の音が夜の静けさに溶けていく。

楓の影は、古書の間で長く伸び、ページの波紋とともに揺れた――。

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