ねぐらさがし
「結局僕なんすね…」
「よろしくなぁ。流石に老人は労われよ。」
「お前なら大丈夫だ。なんせ、経験済みだろ?懸垂降下!というか、体力あって軽いからお前が良いだろう。」
「ごめんね~倉上くん~。ハーネス小さいサイズ持ってきちゃった。」
「まぁ倉上さんが一番、この山歩いてますし、よろしくお願いします。途中までは私も15番地点に居ますので、何かあったら連絡ください。東君、現地確認よろしくね。」
「はい!」
「いえ、大丈夫です…。」
溜息を着きつつ、また踏査かと内心愚痴をこぼした。天気は快晴…とまではいかずとも雲も殆どなく良く晴れており、南向きの風が生ぬるくもあるが、十分に涼しさを感じられる。夏の踏査に比べれば快適さは段違いである。
「まぁまぁ。倉上くんは、荷物少な目だからぁ。俺なんて、ドローンも背負っていかないといけないからさぁ。」
「それは、助かります。正直ポーターまがいのことはやりたくないですよ。それ何キロあるんですか…?」
愛車の後部席を覗けば、ザックではなく、大型の背負子にいくつかの荷物をバックル付きベルトで固定している。その中で目立つのは黒いプラ製のいかついケースである。
「あーこのケース?気になる?今回は西田さんとこでドローンをレンタルしてもらったからデッカくなってさぁ。中身はスカスカだよ?」
どうやらドローンはレンタルを使うようである。
「しかし、それだけ装備を固めてるとカッチョイイですね…プロっぽいですよ。」
「一応プロだからぁ!」
「ほら、山下も倉上もジャレておらんでとっと行けよー。俺は上からちゃんと監視しといてやるからな!」
「いや、定点なんだから見えないでしょう…」
「ドローンの写真は撮ってやるよ!」
「まぁそうですけど、これ終わったら今度こそラーメン食いたいです。」
「OKOK!早く行け!」
「絶対ですよ!前みたいに宅飲みで誤魔化されないですからね!…っとそれじゃあ、こっちの林道から入るんで、お願いします。東さん、オンボロで申し訳ないですが…運転席の後ろはシエラ(普通車規格のジムニー)のシート着けてますので多少はマシなハズです…!」
運転席のシートを前方へずらし、東さんを席へ招くとおっかなびっくりといった体で後部座席に乗り込む。シートを戻し、運転席に乗り込むと山下さんも助手席に乗り込む。
「へー。すごいですね。結構改造しているんですね…」
感心したように東さんが口を開けるも、残念ながらカスタムしたのは私ではない。
「いえ、これ学生時代にマシタさんから貰ったんですよ。なんで、残念ながらそのシートの交換もマシタさんがやったヤツですね。純正だと、パイプ椅子みたいなシートが付いてて荷物載せると人が乗らず、人を乗せると荷物が乗らないって車だったんで、こう言うとき役に立つんですよ。」
エンジンを掛けるともはや特徴的としか言えない程喧しいエンジン音が車内に響く。
「音凄いですね!えーとシート交換をDIYって大丈夫なんですか!?」
「だいじょう~ぶ!板金屋の息子と一緒に溶接したから!車検も通ってるはずだぞ?エンジンも交換してるから!快適性以外は問題ないはずだよ~!」
「多分、揺れが酷いと思うんで、頭ぶつけないよう気をつけてください!」
「倉上さん!聞こえてないですね!もういいですから、安全運転で…!お願いしますね!」
「いやー先月末にドライブシャフトも交換したんで、弱ってた駆動系も復活してますよ!」
「いや、倉上君!話が通じてないよ~。」
「?とりあえず、出発しますね!」
「あ~もう。お願いします‼」
騒音で声がかき消され、怒鳴るように話続ける3人の、10m程後方で眉間に皺を寄せた男が口を開く。
「田辺さん、あの組み合せ大丈夫ですかね?」
「うーん。倉上はなぁ。まぁ山下はあれで、やるときはやるやつだから大丈夫だろう。ほら、昨日とかシャキッとしてただろ?」
「東君もまぁ、最低限の判断は出来ると思うので、大丈夫だと思いますが…。」
「まぁ、心配してもしょうがない。とりあえず、俺たちも現場入りましょうかぁ。」
「そうですね。とっとと入らないと、西田さんもタイムリミットありますし。」
「時間的には余裕がありますが、そうですね。先に状況確認したいので、行きましょうか。」
林道に残された男3人もそれぞれ車に乗り、調査現場へ向かった。