7.
あっという間に、護衛任務の当日を迎えた。
せめて少しでも足手まといにならないようにと、女性魔術師にアドバイスをもらい、今日まで走り込みを続けてきた。……とはいえ、もともと運動はあまり得意ではない。この程度の準備しかできなかったことが、不安でたまらない。
今回の任務で指揮を執るのは、第2騎士団副団長のパスカル。
彼が、集まった両団の団員に向けて声を上げた。
「今回、護衛任務が重なった関係で、女性フォローとして魔術第2団および一般職より、イリーナに手伝ってもらうことになった。彼女は本職ではない。なるべくフォローしてやってくれ」
一斉に視線がこちらへ向けられた気がして、私は慌ててぺこりと頭を下げた。
「時間もないので、挨拶はこれで終わり。各自、出立の準備にかかれ」
「イリーナ、大丈夫? 緊張してる?」
そう声をかけてきたのは、走り込みのアドバイスをしてくれた女性魔術師、レイリアであった。私とは違い、背がスラっと高く、頼れるお姉さまオーラがある素敵な女性である。
「一緒に頑張ろうね」
「はい、よろしくお願いします」
そう答えた声は、思ったより小さくて、自分でも驚いた。レイリアは優しく微笑むと、私の肩をポンと叩き、颯爽と自分の持ち場へ向かっていった。
私の担当は、かつて女騎士として名を馳せたというご婦人。結婚を機に、引退されたと聞いた。
「あなたが私の護衛?」
背筋がすっと伸びて、品のある落ち着いた女性だ。
「はい。イリーナと申します。微力ながら、精一杯務めさせていただきます」
頭を下げると、ご婦人はふっと笑った。
「まあ、想像したとおりの子ね。今回は無茶を言ってごめんなさいね?」
「い、いえ……その、報告書を評価して頂き、とても嬉しかったです……」
報告書を読まれていると思うと急に恥ずかしくなり、視線があちこち泳いでしまう。彼女は目を細め、笑みを深める。
「大丈夫よ。王宮までの旅なんて慣れているもの。それに、あなたとお話ができるのをとても楽しみにしていたの」
……それが本音なのかは判断がつかなかったが、少しだけ心は軽くなった。
号令がかかり、一同が馬や馬車のもとへ集まり始める。
いよいよ出立の時。私はご婦人の乗る馬車のそばにつき、荷物を確認し、周囲の警戒に目を向ける。
旅は数日かかる見込み。何も起きなければそれでいい。けれど、国賓級の招待客が集まるこの機会――何かが起こっても不思議ではない。
(絶対、迷惑はかけない)
そう胸の中で誓い、私は馬車の進み出す音に耳を澄ませた。