5.
魔術団に就職してもうすぐ1年、私のやり直し期間も1年となった。今のところ順調である。
上司に少しだけ仕事の進め方を提案してみた。角が立たないように、先回りして資料も用意して。
「おお、これはいい案かもしれないな」
満足そうな笑みを見せた上司に、私も内心でガッツポーズだ。
職場での評価は着実に上がっている、と思う。同僚から質問されることも増え、周囲からの信頼も厚くなったように感じる。
前は、こんなふうに人から頼られたこと、ほとんどなかった。
鏡を見る。メイクの仕方も、服の選び方も、もう酷い失敗はしない。
どれだけ自分が足りていなかったか、過去の私で思い知らされる。今まで気付けなかったことが多すぎて、泣きたくなる日も多い。
それでも今の私を良くするために、生きていくのだ。
*
「今回の護衛任務に、私も同行するのですか?」
上司に呼び出されて向かった先は、なんと魔術団長室。
「ああ。今度、国をあげた式典があるだろう? 国賓級の招待客には護衛がつくことになっている。しかし2団には、騎士も魔術師も女性が少ない。女性でないと立ち入れない場所もあるから、申し訳ないが――」
魔術団長の説明に、上司も私も驚きのあまりうまく返答できなかった。
「……彼女はまだ、入団して一年少々と、経験が浅いのですが」
恐る恐るといった様子で、上司が団長に進言してくれる。その姿に、私は胸があたたかくなった。過去では気づけなかったが、上司はいつもこうして私たち部下を守ってくれていたのだろう。
「それがなぁ。実は、伯爵家からの直々の指名なんだ」
口を挟んだのは、第2騎士団長。
話を整理するとこうだ。
第2騎士副団長は、任務に身を挺して尽くす姿勢から、護衛対象となる人々――老若男女問わずに非常に人気があるという。
しかし、公式な報告書にはそうした功績が記載されることは稀であり、感謝を公に伝えることができず、もどかしい思いを抱える者も多かった。ところが最近、一部の報告書に騎士副団長の活躍ぶりが記されるようになった。
調べたところ、それらの報告書の作成者は、すべて「イリーナ」だったと判明した。これが発覚した結果、副団長を熱狂的に支持する面々の間で、「イリーナ」への信頼が爆発的に高まったらしい。
「――というわけでな。本来なら一般職の娘さんに頼むのは心苦しいのだが……お願いできるか?」
騎士団長の問いかけに、上司は少しだけ考えた後、「承知しました」と静かに頷く。それから、ふと思い出したように私のほうを見て、にっこりと笑う。
そして、ふたりの団長に向き直り、こう提案した。
「ひとつ、ご提案なのですが――」