29.
再び視聴覚室に集められた参加者たちは、少しの緊張と疲れの入り混じる空気の中にいる。
やがて、重い扉が開かれ、騎士団長と魔術団長のふたりが姿を現す。
「まずはみんな、お疲れ。積極的に参加してくれたことを嬉しく思う」
静まり返る室内に、凛とした声が響いた。
「筆記テストの結果発表から行う。なお、不正や違反行為は一切なかった。これは誇っていいことだ」
その一言に、どこか張り詰めていた空気がわずかに和らぐ。だが次の瞬間、各席に備え付けてある魔導板に結果が表示されると、ざわめきが広がった。
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筆記テスト 順位と得点
1位 イリーナ 98点
2位 アンナ 93点
3位 シモーネ 82点
4位 キキ 79点
5位 マリー 78点
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表示された自分の名前と点数を見て、イリーナは小さく息を吐いた。胸の内に潜んでいた不安が、ふっとほどけていく。高得点。しかも一位。
隣を見ると、アンナも同じように結果を見ていた。彼女は声を上げはしなかったが、唇の端がわずかに緩んでいる。イリーナには、それが何より安心の証に見えた。
「次に、体力テストの結果を発表する」
再び板が切り替わる。
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体力テスト 順位
1位 アンナ
2位 マリー
3位 イリーナ
4位 エレン
5位 シモーネ
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上位五名には入っている。とはいえ、周りを大きく引き離すほどの実力は示せていない。
しかし、そのときだった。順位表に、一人の名前がないことに気づく。――キキ。あの、鮮やかな赤髪をなびかせ、トップでゴールへ駆け込んだはずの彼女の名が、どこにも見当たらない。
不審に思う間もなく、騎士団長が淡々とした口調で続けた。
「見学者とも協議した上で、キキを失格とする。俺は最初に言ったはずだぞ。これは“護衛任務”のテストだとな」
室内がざわめく。キキが驚愕の声を上げる。
「そんな! わざとじゃありません!」
だが、騎士団長は首を振るだけだった。
「素直に認めてくれればよかったんだがな……映像、出せるか」
魔導板に映し出されたのは、試験中の一場面。画面には、キキが序盤に他の参加者を突き飛ばしているシーン、アンナの走行を妨害しようとするシーンが再生される。
「どう見ても言い逃れできないと思うんだがなあ。ついでに、このまま再生しておけよ。1位をアンナにした理由も説明しておこう」
映像は試験の終盤へと移る。ゴール直後、アンナは体を起こして周囲を見渡し、立ったまま。一方で、マリーは座り込んで呼吸を整えている。
「ゴールしたあとの場面だな。アンナは立っている。マリーは座り込んでいる。何かあったとき、すぐに対応できるのはどちらか……そういうことだ」
映像が止まると、場には重い沈黙が流れた。
「本日のテスト結果を踏まえて、明日の最終試験に進む者を発表する」
イリーナの心臓が、トン、と強く脈打った。
「アンナ、イリーナ、シモーネ、マリー。以上、四名だ」
名前を呼ばれた瞬間、イリーナは胸の奥に広がる安堵を感じた。ほっと息を吐くと、張りつめていたものが、するすると解けていく。
隣に立つアンナも、どこか緊張の糸がほどけたような表情で、小さく目を細めていた。
「明日の最終試験は、見学者を部隊長以上に限定する。午前八時、会議室に集合。以上、解散」
そう言い残して、団長たちは壇上を後にした。
視聴覚室には、勝者の安堵と、敗者の落胆と、後悔や不安など言葉にできない感情が静かに流れていた。




