24.
「前回は走り込みしかしなかったけど、今回はさすがに筋トレとかしたほうがいいのかな……」
イリーナはぼんやりと考えながら、第二騎士団の建物を外周するコースを黙々と走っている。朝の空気はまだ冷たく、吐く息が白い。頬に当たる風の冷たさは、考えごとにはちょうどいい。
ふと、視界の端を誰かがすり抜けた。思わずその背を目で追う。濃紺の制服は着ておらず、軽装だったが――その走りの速さ、安定したフォーム。あれは、騎士団員か、それとも魔術師? イリーナが一周する間に、すでに何度もその人物に抜かされた気がする。
「……いや、あれはきっと騎士団員だよね。速すぎる……」
思わず苦笑がこぼれる。自分の足音がやけに重たく聞こえるのは、その人物の身のこなしが軽やかすぎるせいだろうか。
ようやくノルマの三周を走り終え、イリーナはその場に立ち止まって息を整えた。肩で息をしながら、心臓がまだ早鐘を打っているのを感じる。
そのとき、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「イリーナ。これで終わりか?」
振り返ると、思わず目を見張る。
「パスカル副団長! 一緒に外周を走っていたの、パスカル副団長だったんですね!」
――そりゃ速いわけだ、と心の中で呟く。納得は、言葉にせず胸に残す。
「トレーニングは毎日行うのか?」
彼の問いに、イリーナはこくりと頷く。
「そのつもりです」
少しの間を置いて、思い切って尋ねてみた。
「――あの、パスカル副団長。走る以外で、私にできそうなトレーニングってありますか?」
彼は顎に手を当て、少しの間考える素振りを見せる。
「そうだな……。イリーナは筋力が足りていないと思う。でも、筋肉は急に付くものではないからな。まずはスクワットで、大きな筋肉を動かすのがいいだろう」
その声は優しく、イリーナのトレーニングについて思いのほか真剣に考えているようだ。
「一日15回を3セット。それを続けてみろ」
これならできそう、とイリーナは心の中で安堵した。
「はい、やってみます!」
パスカル副団長は小さくうなずき、再び走り出していった。
思えば、最初はパスカルの怪我の多さが気になって、お守りをアランに提案したのがきっかけだった。
あれから随分時間が経ったような、そうでもないような不思議な気持ちで、彼の背中を見送る。




