19.
イリーナは、酒が入ると途端に気が大きくなるタイプだ。理性のブレーキが外れ、普段なら口にしないようなことまで、感情のままに喋ってしまう。
楽しかった賑やかな夜が終わりを告げ、押し寄せる自己嫌悪に胸が押し潰されそうになりながら、イリーナは家路を目指す。
「……穴があったら入りたい……!」
思い出しては身もだえながら、なんとか家にたどり着くことができた。
衝動のまま、彼女はベッドに飛び込み、頭から布団を被る。目をぎゅっと閉じ、さらに心の中で祈る。
「二人にドン引きされてませんように……!」
バタバタとベッドの上を転がるたびに、積み上げていた魔導書の山が揺れ、そのうちの一冊がバサリと顔に落ちた。
「いったあっ……!」
痛みに顔をしかめながら本を手に取る。
「……懐かしい」
それは、イリーナが幼い頃、両親に頼み込んで買ってもらった、初めての魔術書だった。魔術の基礎を、成り立ちから優しく解説してくれている、思い出の一冊。ページの端は少し色あせ、ところどころに幼い字の書き込みもある。
胸の奥に、かすかな懐かしさが広がる。
ページを繰るうちに、ふとある記述に目が留まった。―――見つけたかもしれない。
「……よし。明日、アランさんに相談してみよう」
翌朝。イリーナは出勤するなり、アランのもとを訪ねた。
「アランさん、少しお時間いただけませんか?」
彼は意外そうに眉を上げたが、すぐに柔らかく笑う。
「こちらからも声をかけようと思ってたところだ。ちょうどよかった。会議室が取れたら、そっちに案内するよ」
一見通常どおり業務をこなしているように見えるイリーナだが、なかなか集中できていないようで、そわそわした感じが見て取れる。
「会議室、空いたぞ。行こうか」
待っていました、とばかりに顔をあげたイリーナにアランは思わず苦笑してしまう。
「まずは、イリーナの話を聞こう。何か進展があったような顔だな?」
その言葉に背中を押されるように、イリーナは切り出した。
「以前、アランさんと検証したときに、護衛対象の魔力登録が難しいって話になったじゃないですか。あれ……『血の契約』なら、いけるんじゃないかって思ったんです」
アランは目を細めて、彼女の言葉を吟味するように頷いた。
「護衛対象が人間で、使用者が限定されているなら……理論上、成立するかもしれないな」
アランの反応は悪くない。手ごたえあり、だ。
「次に俺からの報告だ。登録者がお守りから離れた瞬間、お守りを消滅させられそうな魔法を見つけた」
そう言って、彼は一冊の本を差し出す。
「こんな古い魔術書……よく見つけましたね」
思わず感嘆の声が漏れる。アランは照れくさそうに苦笑した。
「俺たちみたいな一般職にも、期待の言葉をかけてくれる人がいるからなあ。無下にはできないよ」
その言葉に、イリーナははっとした。アランの背中に、覚悟を感じた気がした。
――コンコン。
会議室のドアをノックする音が響く。
「アンナです。アランさん、イリーナさん、団長がお呼びです」




