12.
報告書を片手に、第2魔術団の団長室の扉を叩く。
拳に込めた力が、自分が緊張していることを物語っている。パスカルは一度深呼吸し、気持ちを整えてからノブを回した。
――間に合わない。
その瞬間、覚悟したはずの刃が、イリーナの目前でぴたりと静止した。
否、止まったのではない。“弾かれた”のだ。
あの光景が、頭から離れない。
報告用の映像には、かろうじてその瞬間が映り込んでいたが、画面の端でよくわからなかった。だがあれが夢だったとはとても思えない。あの不可解な防御――。だからこそ、確認せずにはいられなかったのだ。
「失礼します。先日は合同任務、お疲れ様でした」
魔術団長室に入るなり、パスカルは頭を下げる。応じた魔術団長はいつも通りの飄々とした態度で、椅子にもたれている。
「早速ですが、賊の襲撃を受けた際の件について……」
報告書を机に置く。言葉を選ぶように、慎重に。
「魔術団長は、イリーナさんに何か……お守りのようなものを渡していませんでしたか?」
沈黙。
魔術団長の口元に浮かぶのは、どこか含みのある笑みだった。
その沈黙は肯定だな、とらえて発言を続ける。
「そのおかげで、令嬢をお守りすることができました。ありがとうございます」
「……どうしてそう思った?」
「襲撃者も、私自身も、驚きで一瞬動けなかった。でも、イリーナさんだけは最初からわかっていたように……もしくは大丈夫だって信じていたのか、動揺があまり見られなかったからです」
「ふふ、さすがパスカル副団長だな。よく見ている」
魔術団長は楽しげにどこか満足そうに笑った。
パスカルは肩をすくめ、しかしすぐ真剣な顔に戻る。
「できれば、事前に知らせておいてほしかったですね。物理攻撃を無効化するのか、それとも悪意あるものだけを弾くのか――その違いで、私たちの対応は変わります」
全員に知らせる必要はない。だが、現場で指揮を執る自分には、知る権利があったはずだ。
少しだけ言葉を選びながら、続ける。
「……それに、あのお守りの効果は強力です。ゆえに、敵に奪われた場合のリスクも大きい。悪用されたら、と思うと、正直怖い」
魔術団長は眉をひそめ、小さく頷いた。
「なるほど。その視点は欠けていた。申し訳ない。それと、騎士団長には事前に話しておいたんだがなあ。……あいつのことだから、面白がって黙っていたんだろう」
パスカルは小さくため息をつく。想像できてしまうところが悲しい。
「改善点も多そうだし……よし、関係者を呼ぶか」
そう言って魔術団長は椅子から立ち上がる。
「優秀なお守りには、もっと活躍してもらわんとな」




