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11.

 まさか、やり直す前の日々よりも今の方が居心地が悪くなるなんて、誰が想像しただろう。

 任務に赴く前は、順調そのものだった。目立たず、さりげなくみんなの役に立つ行動はやり直しの功績だったはず。

 それが今や、表面上の静けさの裏に潜む視線や噂が、じわじわと胸の奥を締めつける。

 今まで通りにしていればよかった。ただ指示通りに動き、何も見なかったふりをしていれば、誰にも恨まれずにすんだのかもしれない。

 あの日、ほんの一瞬でも――なんとかしたい、そう思ってしまった自分を、今さら責めても仕方がないのに。余計なことをしたのではなかったかと、問いかける声が、胸の奥で繰り返される。


 それでも。ふと浮かんだのは、騎士団長がくれた「ありがとう」のひと言。

 伯爵夫人の、優しい微笑みと、震える声で告げられた感謝の言葉だった。

 あのときの私の行動には意味があったのだと。誰かの命を守るために、心を守るために、私は動いた。

 それは、過去の私と今の私によって手に入れた、学びだ。


 仕事というものが、努力や勇気に正当な光があたる世界であってほしいと思っている。

 そしてもし、あの判断が、ほんの少しでもその理想に近づく一歩だったのなら――この程度の摩擦なんて、甘んじて受けよう。痛いけれど、怖いけれど。


 それに、わかってくれる人はいたのだ。

 表面的な噂や空気に惑わされず、見ようとしてくれた人が、ここにいる。

 それだけで、少しだけ背筋が伸びる気がした。



 化粧室の件を立ち聞きしてしまったこと、嬉しかったことを、アンナさんに伝えると思いもよらない言葉が返ってきた。

「私は任務に行ったわけじゃないし、あなたが何をしたかもすべては知らない。ただ、報告書を読んで空気を察せないような人間が“優秀”だとは思えないだけよ」

 彼女は椅子にもたれ、淡々と続ける。


「報告書が正しいことだけでないことは、あなたもご存じでしょう。黙っているのが正しい時もあるし、言うべきことを言わなければならない時もある。あなたが書いた報告書を読んで、私も学んだのよ」

 その言葉が胸に染みる。この瞬間をずっと忘れないように、記録して宝箱に閉じこめておきたいぐらい、でも大声で叫びたいぐらい嬉しい。

 信頼とは、こういう小さな積み重ねで育っていくものなのだなと、そのとき初めて知った。


 ふと、エライザはこの小さな積み重ねを、補充や雑用というかたちで手に入れていたのかもしれない、と思った。私は、忙しければ後回しにしていたし、率先してやるエライザを内心うざいと思っていた。いい子アピールだ、とも。

 アンナさんに伝えてもらえてようやくわかった。私も、学んでいる。


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