本編
舞台:中世ヨーロッパ風のファンタジー世界。
シス:リンド王国に仕えていた聖女。剣聖であった兄を帝国の皇帝に殺され、復讐を誓う。皇帝に狙われている。
アデル:シスによって現世に蘇った英雄。自信家で軽い性格に見えるが、実力は本物。
好色家であるが故、女となれば見境がない。
シスを抱くことを目的に旅へと同行する。
デッタイ:帝国の将軍。
1. シス、英雄召喚を決意
・シスの回想(剣聖の死)
・森の奥深くにある教会の地下室にて、シスは『賢者の魔導書』を触媒に、英雄召喚を試みる。
・魔法陣をもとに、儀式を開始。
・召喚は成功したかに見えたが、魔法陣の中心には誰もいない。
・違和感を覚えつつ、頭上て音がしたので1階(教会の礼拝堂)へ向かう。
2. アデルとの出会い
・シスが教会の礼拝堂に行くと、教壇の前に精悍な男─アデルが立っている。
・アデルは「お前が俺を呼んだのか?」と尋ねる。
・シスは驚きつつも、「そうよ」と答える。
3. 召喚の証明と眠りの魔法
・アデルは「召喚した証拠は?」と問う。
・シスは「何を馬鹿な」と呆れながらも反論。
・アデルは「じゃあ、確かめよう」と言い、掌を向ける。
・一瞬にしてシスを昏倒させる。
4. シスの正体を確認
・教会の二階の部屋。
・衣服を脱がされたシスが、下着姿で眠っている。シスの左胸に紋様が浮き出ている。
・アデルはじっくりと観察し、「いい女だ」と匂いを嗅ごうとする。
・危険を感じ、シスが目を覚ます。
・アデルの行動にシスは顔を赤くし、思わずビンタしようとするが、瞬時に手首を掴まれ封じられる。
・シスはアデルを英雄ではないと断定。
・シス「英雄だったら体を差し出しても良かった。私の目的は兄の仇を討つこと」と掻い摘んで話す。
5. 帝国の兵士が襲来
・アデルがシスの目的を聞き始めようとしたところで、教会の扉が叩かれる。「シス様、お迎えにあがりました」と帝国兵の声。
・アデルが扉を開け、「せっかくいいところだったのに邪魔するな。帰れ」と一蹴。
・兵士たちは馬鹿にされたと思い逆上。「誰だ貴様!シス様を出せ!」と叫ぶ。
・その隙にシスは教会の裏から逃げ出す。
・「召喚は失敗した。アデルなんて英雄じゃなかった」と思い、ひとりで戦うことを決意。
・兵士たちはシスが逃げたことに気づき、追いかける。
・アデルはその様子をただ眺め、ため息をつく。
6. 崖の近くでの戦闘
・シスは森を抜けた崖近くで兵士たちを迎え撃とうとするが、召喚の疲労で魔法が思うように使えない。
・兵士たちに囲まれ、絶体絶命の状況に。
・突然、後方からアデルが現れ、一瞬で兵士たちを吹き飛ばす。
7. アデルの介入とシスの決意
・シスは助けてくれたことに対し、素直に「ありがとう」と言う。
・アデルは「へぇ、素直じゃないか」と笑う。
・「で? さっきの話の続きは?」と促す。
・シスは兄の仇討ちを誓っていることを語る。
・兄は王国の『剣聖』と呼ばれた最強の剣士だったが、皇帝が召喚した英雄に殺された。
・自分は復讐のためにアデルを召喚したことを明かす。
・帝国には、アデルと同じように皇帝に召喚された英雄たちがいることが判明。
・アデルは黙って話を聞き、考えを巡らす。
8. 新たな脅威、帝国の将軍登場
・そこへ、再び新たな兵士が現れる。
・兵士は漆黒の鎧を纏った帝国の将軍デッタイ。
・部下がシスを捕まえられなかったことに激怒し、自ら捕縛に乗り出す。
・シスはまだ完全に回復しておらず、戦えない状態。
・アデルがシスの前に立ち、「俺がやる」と戦いを引き受ける。
9. アデルの正体を明かす
・アデルは剣を構え、初めて名乗る。
・「オレの名はアデル。かつての英雄様だ」
(本人が真の英雄と思っていない為、少し複雑)
・将軍は驚き、「英雄だと?」と反応。
・アデルは「昔の話だがな」と軽く笑い、戦闘開始。
・アデルは将軍と対峙。攻撃をそんなもんかとあしらい、一瞬で距離を詰める。
・将軍が反応する間もなく、一閃。
・アデルが将軍の体を斬り、一撃で倒す。
・シスは目の前の光景に驚愕し、「……嘘」と呟く。
・アデルは剣を軽く払い、「(実力は)これで満足したか?」と余裕の表情。
10.旅の始まり
・二人は帝国との戦いを決意し、旅を続けることにする。
・シスは改めてアデルの力を頼ることを決意。
・シスとアデルの旅の幕が開く。
【舞台】中世ヨーロッパ風のファンタジー世界
森の奥深く、古びた教会の地下。そこには人目を忍ぶように隠された魔法陣があった。
淡く光るルーン文字が円を描き、その中心にはひとりの神官服姿の人物が佇んでいる。
その人物の名はシス。王国に住む女魔導士であり、兄の敵を討とうとする復讐者だった。
「……賢者の魔導書よ。我が呼び声に応え、封印されし英雄をこの地に喚び覚ませ」
シスは呪文を唱え、魔法陣の中心へ手をかざした。周囲の空気が震え、魔法陣が眩い光を放つ。風が巻き起こり、圧倒的な魔力の奔流が地下室を満たす。
――成功だ。
彼女は確信した。伝説の英雄、アデルが現れるはずだった。
しかし――。
目の前には誰もいない。
「……? そんなはずは……!」
魔法陣の中心を見つめるシスの眉が険しくなる。間違いなく召喚は成功した。
だが、肝心の英雄の姿が見当たらない。
その時、頭上から物音がした。微かに響く、木の床になにか重みが加わったような音。
「まさか……!」
シスは急ぎ地下室を飛び出し、階段を駆け上がった。地上の礼拝堂へと足を踏み入れると、教壇の前にひとりの男が立っていた。
黒髪を短く整え、精悍な顔立ちをした青年。その体には鍛えられた筋肉があり、戦士としての気配を感じさせる。彼の鋭い視線が、まっすぐにシスを捉えた。
「お前が……俺を呼んだのか?」
低く響く声が、教会に満ちる沈黙を破る。
シスは息をのんだ。彼こそが、自分が召喚した英雄――アデルなのか。
◇ ◇ ◇
(なぜ、召喚陣の場所ではなく、講壇に……?)
疑問は尽きないが、今はそれどころではない。シスは深く息を吸い込み、アデルの前へと歩み出た。
「……そうよ。あなたがアデルね」
彼女の言葉に、アデルは目を細め、ゆっくりと周囲を見回した。長い眠りから目覚めたばかりなのか、それとも違う理由があるのか――。
「ここは、リンド王国の領内にある森の教会。あなたを呼び出したのは私」
アデルは、じっとシスを見つめた。教会の薄明かりの中、鎧に身を包んだその姿は、戦士のように見えた。だが、何かが違う――直感がそう告げていた。
「では、聞こうか。……召喚した証拠はあるのか?」
鋭い問いに、シスは一瞬目を見開いた。
「証拠……?」
「ああ。俺は確かにここに現れたが、お前が召喚したとは限らない。第一、目覚めた時、お前は目の前にはいなかった」
アデルは腕を組み、冷静に言い放った。その視線には迷いがない。
シスは苛立ちを隠せなかった。
確かに魔法陣を用いて召喚した。それなのに、何を言っているのか――。
シスは顔に似合わず、少し苛立った様子で舌打ちし、
「えぇ。確かに、召喚した時には、あなたの前にいなかったわ。けれど、それはあなたがこんなところに現れるからで…。それに、もしかしたら、魔法陣が完璧じゃなっかたせいなのかもしれないけど…」
シスは言い放つ。自分が彼を呼び出したことに疑いはない。
しかし、アデルは聞き分けのない様子のシスを見て、ふっと薄く笑った。
「なるほど、おまえの言い分は分かった。しかし、それでは埒が明かん。」
そう言うと、彼は片手を持ち上げ、掌をシスに向けた。
「ちょっと、何をするつもり!?」
「なに、俺の考えに少し、付き合ってもらうだけだ」
「……!」
瞬間、シスの身体は硬直し、魔力の流れが一気に変わった。
意識を保とうとするが、抗えないほどの衝撃が襲ってくる。まるで深い水の底へと引きずり込まれるように――。
「くっ……」
視界が暗転し、シスはその場に倒れた。
アデルは、静かに倒れたシスのそばに歩み寄る。そして、彼女の顔をじっと見下ろした。
少しやつれてはいるが、近くで見ると、その容姿は美しく女性的だった。艶やかなブロンド、端正な顔立ち――。
「……ふむ。では拝見させていただくか」
アデルは低く呟き、眠るシスの顔をしばらく眺めていた。
◇ ◇ ◇
教会の二階、静かな一室。そこに置かれた古びた寝台の上で、シスは眠っていた。
衣服は脱がされ、露わになったのは、きめ細やかな肌を露出する下着姿だった。
純白な下着に包まれたしなやかな体つき、戦士らしく鍛えられた筋肉と、女性らしい曲線の調和。
髪が枕に広がり、整った顔立ちには安らかな寝息が漏れる。
ただし、一点不可思議な箇所として、シスのブラは少しずらされ、ちょうど左胸あたりに謎の紋様がはっきりと見える状態になっていたこと。
その横に、アデルが立っていた。
彼は腕を組み、じっくりとシスを観察する。
「……やはり、この女が俺を召喚したか」
そう呟きながら、彼は片膝をつき、寝台に顔を近づけた。
そして――シスの顔に、鼻を寄せる。
クンクン……。
慎重に、何度か匂いを嗅ぐ。
ふわりとした微かな甘さに、ほのかに鉄と汗の香りが混じる。男にしては柔らかく、女にしては戦場の空気を纏っている――。
「それにしても……いい女だな」
彼は小さく頷き、シスの容姿を観察した。
――その時だった。
シスのまつげが微かに揺れ、ゆっくりと瞳が開かれる。
「……っ」
目を覚ましたシスが最初に見た光景は、至近距離にあるアデルの顔だった。しかも、彼は明らかに彼女の顔に顔を寄せている。
「なっ……!」
瞬間、シスの顔が紅潮し、反射的に手を振り上げた。
「何してるのよ、この変態っ!」
鋭い音を立てて、ビンタが振り下ろされようとした――しかし。
パシッ。
その手は、寸前でアデルに捕まれた。
彼は微動だにせず、しっかりとシスの手首を押さえ込んでいた。シスが抵抗しようとしても、その力は鋼のように固く、まるで岩のようにびくともしない。
「おいおい、起きた途端いきなり殴りかかろうとは、随分な目覚めだな」
アデルは軽く笑いながら、余裕の表情で彼女を見つめた。
シスの心臓が、大きく跳ねた。
「……!」
状況を理解するのに数秒かかり、彼女は混乱したまま、目の前の男を睨みつけた。
◇ ◇ ◇
シスの手首を掴んだまま、アデルはじっと彼女の瞳を覗き込んでいた。
その視線に、シスは居心地の悪さを覚えながら、もう片方の手で彼を振り払おうとした。だが、アデルはそれを制するように微笑むと、ふっと手を離した。
「どうやら、お前が俺を召喚したことは事実だったらしい」
アデルはそういつt、自身の左胸に指差し、そこを見るように言った。
シスは息を整えながら、怪訝な顔で彼を見上げる。そして、紋様を確認したところで、
自身が下着だたということに気が付き。慌ててシーツで体を隠す。
「……最初から素直に認めればいいのに」
「確認するのは当然だ。俺を召喚できるのは女だけ……しかも、美しい女に限るからな」
「……は?」
シスは一瞬、言葉の意味を理解できず、ぽかんとした顔をした。
「何よそれ?」
「俺が封印される時に"アイツ"に頼んだ制約だ。召喚者が女でなければならない、しかも美しい者に限る――魔導書の方にもそう記されているはずだが?」
アデルは淡々と語ったが、シスは呆れたように肩をすくめた。
「馬鹿らしい……そんな条件があるなんて。」
「まぁ、それが俺を封印させる条件だったからな」
アデルは愉快そうに笑う。
「あなたって、本当にあの英雄アデルなの?ただの、色情魔の変態にしか見えないのだけど?」
「ん?あぁ、そうそう。言い忘れていた。さっきから、その英雄アデルっていうのはやめてくれ。
お前がいうように、俺は英雄なんかじゃない。アデルって名前はそうだが。
大した力も持ってないし、好きなことは女とヤルこと、いわゆるただの好色漢ってやつだな」
「お前が、どんな理由で俺を召喚してくれたかは知らんが、
俺はヤらせてくれればなんだっていいぜ。
さ、召喚のお礼に今から一発しけこむとしようじゃないか」
シスは唖然とし、ため息をつきながら、俯いた。
「断るわ…」
「は?なんだよ。それ。俺とヤリたいから召喚したんじゃないのかよ」
「違うわよッ!!」
シスの怒号が部屋を包んだ。
「私はあんたみたいな色情魔じゃなくて英雄を召喚したかったの。そして、兄の敵を討つ手伝いをして欲しかっただけなの!!」
「もし仮に、その人が本物の英雄でその対価として、私に体を差し出すように言ってきても。私はそれを呑んだわ!」
シスは身を正し、真剣な眼差しでアデルを見た。
「私は――兄の敵を討ちたい」
そう言いかけた、その瞬間――。
ドンッ、ドンッ!
教会のドアが激しく叩かれた。
「シス様、お迎えにあがりました」
男たちの低い声が響く。帝国の兵士たちだった。
「シス様、お迎えにあがりました」
外の兵士たちの大声に対し、シスは眉をひそめる。
「帝国の兵士……」
シスが警戒する中、アデルはまるで気にする様子もなく、ゆったりと扉へ向かった。
◇ ◇ ◇
そして――勢いよく扉を開くと、目の前には武装した兵士たちがずらりと並んでいた。
「せっかくいいところだったのに、邪魔するな。帰れ」
アデルは気怠そうに言い放った。
兵士たちは一瞬唖然としたが、すぐに怒りの表情を浮かべる。
「なっ……貴様、誰だ!」
「いいからシス様を出せ!」
兵士の一人が声を荒げ要求を告げる。
◇ ◇ ◇
その隙に――シスは背後の通路へと駆け出していた。
(逃げるしかない……!)
シスの心は焦りでいっぱいだった。
(召喚は失敗した……あんな男、私が知ってる英雄アデルなんかじゃない)
彼はただ口が達者なだけの男だ。戦うつもりもないのなら、頼る価値もない。
――ならば、自分がやるしかない。
教会の裏手から森へと駆け込むと、兵士たちがその姿を捉えた。
「逃げたぞ! 追え!」
兵士たちは即座に動き、シスを追いかけ始めた。
だが、その光景をアデルはただ無言で眺めるだけだった。
◇ ◇ ◇
シスは息を切らしながら、森を駆け抜けた。
そして、森が開けた先の崖の近くで足を止める。
(ここで……迎え撃つしかない)
魔法の詠唱を始めようとしたその時、全身に重い疲労がのしかかった。
――召喚の影響か。
思うように魔力を制御できない。
そこへ、兵士たちが次々と現れる。
「もう逃げ場はありませんぞ、シス様!」
シスは歯を食いしばり、魔力を振り絞ろうとした――その瞬間だった。
ドンッ!!
突如、兵士たちが宙を舞う。
次の瞬間、数人の兵士が空に打ちあがれられ、呻き声を上げた。
シスが驚き、奥を見ると――そこには、アデルがいた。
「やれやれ……勝手に逃げるなよ」
アデルは余裕の笑みを浮かべながら、シスを見つめていた。
◇ ◇ ◇
シスは息を整えながら、目の前のアデルを見上げた。
兵士たちは全員いなくなり、辺りは静寂に包まれている。
アデルは特に疲れた様子もなく、余裕の表情を浮かべていた。
シスは少し躊躇したが、素直に口を開く。
「……助けてくれて、ありがとう」
アデルはその言葉にわずかに眉を上げ、口元に微かな笑みを浮かべた。
「へぇ、素直じゃないか」
「……調子に乗らないで」
シスはそっぽを向きながらも、アデルへの見方を少し改めた。
彼は少なくとも、逃げる自分を見捨てるような男ではなかった。
アデルは、軽く首を回す。
「で? さっきの話の続きは?
残念ながら俺は、お前のいう英雄アデルじゃないが、
それでも少しくらいはお前の手助けをしてやれるぞ?」
「……」
シスは少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「――私は、兄の敵を討ちたい」
アデルは黙って聞いている。
「私の兄は、王国最強の剣士だった。『剣聖』と呼ばれるほどの凄腕の剣士だった……。だけど、皇帝の手によって殺された」
シスの手がぎゅっと拳を握りしめる。
「皇帝は、兄をただの駒として扱い、騙し、殺した……私は、そんなこと許せない」
その瞳には、強い怒りと悲しみが宿っていた。
アデルは腕を組み、静かにその言葉を受け止める。
「なるほどな」
「……」
「そいつを倒すために、藁にも縋る思いで俺を召喚したわけか」
シスは小さく頷いた。
「そうよ……」
アデルはしばらく考えるように目を閉じ、そして――ゆっくりとシスを見た。
「話はわかった」
そう言って、彼はニヤリと笑った。
「さて――どうするか、だな」
◇ ◇ ◇
シスとアデルが話を終えたその時――。
ザッ、ザッ、ザッ……
重厚な足音が森の静寂を破った。
二人が視線を向けると、そこには漆黒の鎧を纏った男が立っていた。
「……やれやれ、お前たち、本当に手間をかけさせてくれる。
され、聖女様。帝国の将軍である、この私デッタイが無事お連れ致しますぞ」
「……帝国の将軍」
シスが低く呟くと、男は冷笑を浮かべた。
「ふん、逃げ回るのは得意なようですが、もう終わりですぞ。あなた様はここで捕らえられる」
シスは身構えるが、召喚の疲労がまだ完全に抜けていない。
「くっ……」
すると、横にいたアデルが一歩前に出た。
「そこまでだな。気色悪いおっさん」
「貴様は……?」
デッザイの問いにアデルはゆっくりと剣を肩に担ぎ、冷笑を浮かべた。
「オレの名はアデル。女とわかれば、すぐにヤルただの好色漢さ。」
「アデル…?その名前はたしか…」
「ああ。俺は、お前らがいうところの、かつての英雄様なのかもしれねぇ。
けどな、当時の俺は、英雄なんて呼ばれるほど大したコトはしてねぇぞ?」
将軍の顔が険しくなる。
「……英雄アデル、だと?」
「まあ、昔の話だがな。今はそこにいる聖女様を守護する騎士様さ。」
アデルが剣を構えると、空気が変わった。
まるで、その場の重力さえ歪めるような、圧倒的な威圧感。
将軍は動揺しながらも剣を構えた。
「貴様ごときに負けると思うなよ!」
ゼッタイの攻撃を何度か防いだ後、アデルが動いた。
――ドン!
まるで瞬間移動したかのように、アデルの姿が消えた。
「なっ……」
将軍が反応するよりも早く、アデルの剣が一閃した。
ズバァン!
将軍の剣が真っ二つに割れ、次の瞬間にはその巨体が吹き飛ばされていた。
「ぐあっ……!」
重い鎧ごと、将軍は地面を転がる。
そのまま意識を失い、動かなくなった。
シスは呆然とその光景を見つめた。
「……嘘、でしょ」
たった一撃。
それだけで、帝国の将軍を葬ったのだ。
アデルは剣を軽く払うと、振り返ってシスに笑いかけた。
「これで満足したか?」
シスは息を呑みながらも、やっとアデルのことを理解した。