「空に龍がいない日」
「空に龍がいない日」
著者:パティパット・ピンラット
ヒリュウとは、空を飛ぶ龍のことだ。
今日は雲一つない晴天で、空は澄んだ青色をしているが、陽射しは強くない。宿舎の窓から外を見ると、美しい青い海と打ち寄せる波、誰もいない砂浜、並んだヤシの木が見える。ここが軍の基地だとは、とても信じられないだろう。本当に美しい場所だ。
ヒリュウが海に沈んでから、何日も経った。しかし、僕はまだその事実を受け入れられない。全く受け入れられないんだ。海岸を見るたびに、ヒリュウがいつも任務に備えて立っている姿が思い浮かぶ。今はもう、そんな光景はない。
「手紙です。紙飛行機みたいに投げちゃダメですか?まあ、いいですけど。」ヒリュウが手紙を届ける時、いつもこう言って紙を投げて渡してくる。今はもう、自分のことを「僕」と呼ぶトムボーイのウサギ耳少女が、手紙を投げてくれることはない。
「任務ですか?どんなに難しくても、いつでも準備はできていますよ。」あのトムボーイのウサギ耳少女は、任務を受けるたびにそう言っていた。今、仕事場では、誰も任務を受け取りに来ない。ヒリュウはもういない。あの言葉をもう聞くことはできない。また聞きたい。ヒリュウの声が聞きたい。
「任務の報酬です。確認をお願いします。」任務が完了するたびに、ヒリュウはそう言っていた。今では任務もなく、部屋は空っぽだ。ヒリュウも、あの言葉もない。
「戦闘報告です。評価をお願いします。」ヒリュウは基地に戻るたびにそう言っていた。今では基地は空っぽだ。ヒリュウがいないと、何もないように感じる。
時々、彼女にぶつかって手が当たると、「気をつけてください。これ以上近づくと、怪我しますよ。」とか、「指揮官、ちょっと質問いいですか?僕のこと、女の子だと思ってないですよね?」なんて言われた。今ではヒリュウにぶつかることもない。もうヒリュウはいないからだ。トムボーイのウサギ耳少女はいない。空気だけが漂っている。
時々、ヒリュウが目の前にいる幻覚が見える。彼女の言葉も聞こえる。話しかけて、手を伸ばして触れようとすると、彼女は空気と共に消えてしまう。僕はいつもヒリュウを呼び続けている。そんな時、ホウショウ――紫の髪と瞳を持つ少女――が時々現れて、「ヒリュウはもう海に沈んだ」と教えてくれる。話している相手は幻影でしかないのだと。
この基地には、空気しか残っていない。
空気?
そう、空気だけだ。
ここには何もない。ただ空気があるだけだ。もうヒリュウはいない。
ヒリュウとは、空を飛ぶ龍のことだ。
中国の伝説に登場する龍は、天候を司る存在だという。今、この瞬間に全ての天気が同時に起こっているかもしれない。雹、雷、稲妻、嵐、津波、干ばつ、洪水が、一つの場所で一瞬にして起こっているのかもしれない。ヒリュウがいなくなった今、空にはもう龍がいないのだから。
もう空には龍がいない。君はいない。ヒリュウはもう空にいない。
もしまた会えるなら、僕は君と一緒に永遠に空を飛びたい。
もしまた会えるなら、僕はヒリュウと共に永遠に空を飛び続けたい。
【提督ヤクガネの記録】




