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ショートショート11月〜4回目

ぺったんこのパン

作者: たかさば

ちょっとした用事があったので、久々に都会を訪れた。


普段平凡な田舎の街に暮らしていることもあり、煌びやかな風景が…目に染みる。


うまそうなピザ、テレビで見た10円パン、未だに多くの人が並ぶタピオカ、華やかなフルーツサンドショップ、どでんと肉の盛られたスタミナ丼、肉汁の滴る分厚いハンバーグが挟まったハンバーガー…なんだか食べ物屋ばかりに目が行くのはなぜなんだ。


用事は終わったので、あとはこのまま家に帰るだけなのだけれども…せっかくだし何か買って帰ろうかな。


地下鉄乗り場に向かう道で気になるものを買おう、そう思った私の前に現れたのは……。


「いらっしゃいませー!!焼きたてパンの詰め放題やってまーす!!いかがですかー!!!」


なに!!

元気な声が聞こえてきたので、さりげなく近づくと…うわあ、めっちゃいいにおい!!香ばしくて甘くて、たまにこってりしててやや減り始めた胃袋を本気で刺激してくるんですけど!!


これは…買いだ!!!


喜び勇んでパン屋に乗り込み!

一緒に並んだ見知らぬハイセンスマダムとおしゃべりを楽しみ!

ミニサイズの菓子パンを袋に詰め込み!


戦利品を片手に大都会のビルの谷間をずんずん歩いて帰路に就く私がここに。

ぐふふ、袋いっぱいのパン…これだけあればいつも食いっぱぐれてしまう気の毒な癖のある私も恩恵に与れよう。


上機嫌でぽてぽてと歩く私が見たのは。


ぺっか、ぺっか。ぺっか、ぺっか……


あ、歩行者信号が点滅し始めてる!!


片道5車線もあるウルトラ道路を横断する信号は、待ち時間もかなり長くなるはず。

一刻も早く帰宅して、心行くまでパンを食べたいと願う私は…小走りで駆け抜けることを決断した。


ボスボスとムートンブーツで駆け抜ける私を、スマートなサラリーマンが抜いていく。

だんだんとスピードの落ちてゆく私を、学生服の自転車軍団が抜いていく。

息が上がって背中を丸め始めた私を、お財布を小脇に抱えたOLさんが抜いて…


カッ、コロ、コロ……


げえ!!!


歩行者信号が赤になったのでスピードをあげねばと思ったその時、まさかの…焼きたてパンが!!!


焼き立てなので袋の上部を開けときますという気遣いが!!

袋いっぱいに詰め込んで閉まらなくなったけど開けっぱでもいいですよという優しさが!


まんまるプチフランスパンが…転がって!

あ、あああ…、絶対拾えない位置にイイイ!


横断歩道のやや手前寄りに、パン、パン、パンンンっ!


ああ、なんという誇らしげな、その姿。

白と黒の無機質な横断歩道に映える、黄金色。

すすけた地面を背景に、美しく成形されたフォルムが……


パッポー!パッポー!パッポー…


ごー!


ざずっしゅ!

ガッ!

ぐしゅ!


ああ……、パン、パンさんが……。


あんなにもまんまるを誇っていたパンが、私の目の前で、手の届かない場所で……ペッタンコに!


ごー!


ざ、ざ!

ガー!


ごー!


ああ……、パン、パンさんが……。


厚みをなくしたパンが、地面に吸収されていく……。


………。


あのパンは、私が落としたパンは、この広すぎる道路の横断歩道が…食べたのだ。


食べ物など、まず恵まれない道端だもんね。

さぞかしうまいパンだったでしょうよ……。


私はぐうぐう鳴りはじめたおなかを撫でながら、大都会をあとにしたのだった。

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