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クライアント1:FLINT・AJOITE

つい好奇心~のエレナが石占い師見習いから無事石占い師になった後のお話です。

 この恋に未来はない。

 私の手元にある全ての石が声を揃えてそう言った。

 占いなので当たるか当たらないかはその人次第のような部分ももちろんあるわけだけど、これは当たると思う。

 なぜなら手持ちの石全てが声を揃えてせーので同じことを言っているのだから。こんなこと、なかなかない現象だもの。

 問題は、この結果を目の前の彼女にどう伝えるかだ。

 その男はダメだと言えてしまえば楽なのだが、男との関係に心底悩んでいる彼女にそう言ってしまうと意固地になる可能性がある。

 人というのはダメだと言われると興味が湧いてしまうもの。

 開けてはいけないと言われた箱は開けてみたくなるし、食べてはいけないと言われた物は食べたくなる。そして愛してはいけないと言われれば言われるほど愛しく思ってしまうものなのだ。

 その結果絶対に男とは別れないなんて言い出したらと思うと頭が痛い。

 だって付き合い続けたって未来はないのよ。幸せになれないだとか不幸になるだとかではなく、未来はない。不穏で仕方がない。

 極力穏やかに、しかし絶対にダメだと伝えよう。彼女のためにも。


「……エレナ先生、私は彼と一生を共にすることが出来るのでしょうか?」


 縋るような瞳で問われた。

 精一杯言葉を選ばなければ、と気を引き締める。


「結論から言うと、やめておいたほうがいいと思います」

「どなたに占ってもらっても、そう言われるんです……」


 でしょうねっ!!!!!


「でも、私は彼を愛しているんです」

「彼、結婚していらっしゃるでしょう?」

「……それは、はい」


 要するに不倫。

 だからこそ、この恋に未来はないのだ。


「でも、彼も私を愛していると言ってくれました」


 そりゃいちゃつきたいんだから愛してるくらい言うだろうよ。口ではなんとでも言えるんだよ。


「それに、彼は奥様と離縁をして私と結婚したいって」

「しないと思いますよ」

「え」

「離縁、しないと思います」


 今この場に出ている石が皆声を揃えて離縁しないと言っている。

 おそらくこの男、自分の嫁に飽きている。そんな中出会った若くて綺麗な女の子に手を出したくて仕方がない。

 心地いい言葉でこの子を繋ぎ止めておきたいだけだ。


「でも、でも、私ともっと早く巡り合っていれば私だけを愛してくれたはずで」


 でもでもだって、じゃないのよねぇ。残念だけど。


「そもそもその人、そういう人なんですよねぇ」

「そういう人……?」

「誰にでもそういうことをする人」

「誰に……でも……?」

「万が一あなたの言うようにその男が今結婚している相手と出会うよりも先にあなたと出会っていたとして、あなたと結婚したとしてもその結婚生活の中であなたに飽きて他の女に目が行く。そしてその女に対してもっと早く巡り合っていれば、って言う」

「……そんな」

「それから今本当に離縁してあなたと再婚したとしても、数年もすればあなたに飽きて別の女を探し始めると思います」

「彼はそんな人じゃない……!」


 恋は盲目ってやつなのだろうなぁ。

 現に今、不倫の真っ最中なのにそんな人じゃないと言い切れてしまうなんて。そんな人じゃなかったらあなたとも不倫なんかしていないのよねぇ。

 なんて思いながら、私は魔法陣の上でちらりとも光らないアクアマリンを指でつつく。


「そんな人じゃないんです……彼は、私を愛してくれていて」

「その彼、会うたびに違う時計を身に着けていませんか?」

「……言われてみれば」

「飽き性なんですよね、極度の。欲しい物を手に入れた瞬間冷め始めるみたいな。物を大切にすることも出来てないと思います」


 だからさっきから石がぴりぴりしているのだ。苦手なタイプの人間だと。

 そして彼女も思い当たる節があるのだろう。確かにそうだ、と小さく零している。

 諦めさせるなら今しかない。私はそう思いながら宝石箱から宝石を手に取った。

 そして新しく描いた魔法陣にころころと転がす。


「わたしは、この恋に未来はないと思います」

「……はい」


 彼女は悲し気に俯きながら、小さく頷いた。

 そんな中、一際輝いたのはフリントストーンとアホイト。


「あなたはあなただとフリントストーンが言っています。そしてアホイトは、あなたは深い愛情の人だと言っています。その深い愛情が原因で、あなたは彼のことを思い過ぎてあなたと彼との境界線を見失っている。あなたはあなた。彼ではない」


 私の言葉に、彼女の瞳が揺れた。


「私は、私……」

「彼のことを思い過ぎるあまり、あなたの中心があなたではなく彼になっている。自己犠牲は悪いことではないけれど、あなたの中心はあなたでなくてはいけない」

「……はい」


 彼女は蚊の鳴くような声で零す。意固地になりそうな気配はないようで、少しだけホッとする。


「少しずつ少しずつ、彼とは距離を置いて、彼のところにおいてきた自分自身を取り戻しましょう」

「わかりました……」

「でもね、彼との今までが全て無駄だったわけではありません。今すぐ先に進むのではなく、これまでのことから何を学んだのか、じっくり考えましょうね。……と、石が教えてくれました」


 そう言って微笑めば、彼女の瞳から涙が零れ落ちた。

 そりゃあ泣くよね。好きだった人を諦めろって言われてるんだもん。

 この先に未来がないと分かっていても、好きな人を諦めたくない気持ちだって分かる。

 私も今ロルスと別れて二度と会うなと言われても無理だと思う。あ、私も泣きそう。


「私、この先どうすればいいんでしょう……」


 確かに傷ついた顔をしていた彼女だったけれど、一生懸命前を向こうとしている。

 そんな彼女に必要なアドバイスを、石たちに尋ねる。


「先ほども言いましたが、あなたは深い愛情を内に宿した人なのです。だからそれを最大限に生かせる慈善事業をやってみるのはどうでしょう?」

「慈善事業?」

「なんでもいいです。まずは身近な人をちょっと幸せにすることから始めてみてもいいと思いますよ。お母様とかお姉様とか」


 私がそう言うと、彼女は驚いたように目を瞠った。


「お母様とお姉様が、人一倍あなたのことを心配してるみたいだから」

「はい」


 彼女はこくりと頷いて、また一つ涙をこぼす。


「あなたのその深い愛情を、皆にちょっとずつおすそ分けしてあげてください。そうすれば、そのうちあなただけを愛してくれる人が現れる、と石が教えてくれました」



「ありがとうございました」


 彼女は晴れやかに、しかし少し寂し気に笑いながら帰っていった。

 彼女がこの先どうなるのか、彼女が何を選択するのかまでは占いでは分からない。

 だから、私は彼女の幸せを祈ることしか出来ない。

 幸せになってくれたらいいな。




「はぁぁぁ」


 己の部屋に戻って、大きなため息を零す。


「お疲れ様です」


 絶妙なタイミングで、私の旦那様兼助手であるロルスがお茶を淹れてくれる。


「ありがとう、ロルス」

「……何をにまにましているのですか?」

「ん? ふふ。私だけを愛してくれる旦那様がいるって幸せだなって思ってね」


 なーんちゃって! なんて、冗談っぽく言おうとロルスのほうを見ると、想定以上に真っ赤な顔をしたロルスがそこにいたから、私もつられて真っ赤になってしまったのだった。





 

いつか読者様のお悩みに答えるコーナーとかもやってみたいね。

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