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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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熱い御輿と冷たいトマト


「ソイヤッ!」

「「「ソイヤッ!!」」」

「ワッショイ!」

「「「ワッショイ!!」」」


青い空…照りつける太陽…アスファルトからの熱で歪む景色…本当なら暑さで外も出たくない日。

今日、俺は町内会の御輿に参加していた。

暑くて外出したくなくても、御輿に限っては別の話だ。そもそも町内会の御輿は、力のある男子学生は半ば強制参加だから拒否権はないけど。

だがその強制参加も良いと思えることがある。それは……


「ほらっ、頑張れ若いのっ!」


バシャアァァンッ

プシュウゥゥゥッ

ブシャアァァァァッ


御輿中に浴びる冷水!

町内会の御輿は民家ばかりの道を通るため、そこに住んでる人達がホースで、バケツで、水鉄砲で、シャワーで…色々な方法で俺たち担ぎ手に冷水を浴びせてくる。

2階の窓からは子供達が水風船を投げてくるおかげが、地面で弾けて下からも冷水の爆撃が飛んでくる。


これが結構気持ちいいのだ。

アスファルトから発する熱すらも冷めるほどの冷水の嵐は、真夏の暑さを涼しく感じさせてくれる。

中には冷水のシャワーを担ぎ手の顔面目掛けて当てて呼吸をしづらくさせてくる刺客みたいな人もいるが、熱気で火照った頭を覚ましてくれるので担ぎ手にはノーダメージどころかサポートだ。

町内会からこの日のために配られた青い法被が濡れて多少動きにくくなってしまうが、これだけの冷水を浴びられるのなら、この程度の代償は苦ではない。



2時間ほど担いだだろうか。

御輿は休憩ポイントに到着して、担ぎ手達は昼休憩の時間になった。

休憩ポイントでは町内会で配られるお握りの他に、おばちゃん達が料理や飲み物を振る舞ってくれる。

大人が飲めるビールやサワーのようなアルコールから、子供でも飲めるソフトドリンクまで何でも揃っており、クーラーボックスに入った氷水の中をプカプカと泳いでいた。

各々が好きな飲み物を手に取り、それを飲みながら料理を食べてエネルギーを補給する。

たった2時間といえど、水を浴びながら御輿を担ぐのはかなりエネルギーを使う。プールから上がるとどっと疲れが来る感覚と似たようなものだ。

だから大人も子どもも、また御輿を担いでゴール地点に向かう為に、大いに食べ、大いに飲み、その疲れを癒すのだ。


俺も遅れをとるまいと、クーラーボックスからサイダーを取り出して栓を開ける。

プシュッと爽やかな音を聞き、それから口を近づけてサイダーをラッパ飲みする。

冷水を浴びていても喉は渇いていたのか、冷たいサイダーが喉に心地良い刺激を与えながら流れていく。よく冷えた炭酸に涙が零れる。


「おばちゃん、トマト貰っていい?」


ソーダの喉越しと余韻を楽しみながら、バケツの中に入っているトマトが目に止まり、指をさして頼む。

「好きに食べて良い」ということでトマトを一個貰うことにした。


冷たい。

さっきまで冷水に浸かっていたトマトは、冷えたサイダーが温く感じてしまう程にキンキンに冷えていた。

一口齧る。果肉と果汁がぎっしり詰まっているであろうハリのある皮を噛んだ瞬間、トマトの甘い汁が、爆発した水風船のように溢れ出てくる。冷たく甘いトマトの果汁をこぼさぬよう、ズズズと吸いながら果汁と果肉を味わい、飲み込む。

美味い。

特に真っ赤なトマト特有のほんのり青臭い感じがまた良いアクセントになっている。

大地の栄養と水分をこれでもかと吸ったトマト。そいつを体に取り込んだ時の感覚がより味わい深くしていて格別に美味い。

今度はそこにひとつまみの塩をかけて齧る。

瑞々しく甘いトマトが、塩によって更に甘く感じる。最早これはフルーツだ。トマトをフルーツだと言い張る人の言葉も頷ける。運動後で身体が塩を求めていたのも相まってめちゃくちゃ美味い。


「あと30分で出発しますよ〜!」

「おうっ!!」「おっしゃあっ!!」「はーい!」


残り30分で休憩が終わり、また担ぎが始まるという呼びかけに俺たちは返事をする。

ビールを飲んでほんのり顔が赤くなり、上機嫌になったおじさんが気合いの入った返事をする。午前中は学生の方が、午後はおじさん達の方がテンションが高い。これがアルコールの力なのか、祭りの力なのかは分からないが、午後もきっと熱い御輿になるだろう。

そしてまた気持ちのいい冷水はガッツリ浴びられるのだろう。

そんなことを楽しみにしながら、俺はまたトマトを頬張るのだった。


御輿に浴びる冷水ってなんか良いんですよね〜。

暑さが吹き飛ぶというか、サウナ後の水風呂みたいに何か整う感じがするというか…とにかく、御輿はいい物です。

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