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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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給料日のフライドチキン

「お先に失礼します。」

「おお、お疲れ様。来週もよろしくね。」

「はい。」


俺は土日の週2日は短時間の早朝アルバイトをしている。理由は、自分の金でもっと美味しい物を見つけるためだ。

そのためには、早朝に起きてスーパーマーケットに行き、開店するまで果物の状態確認、仕分け、品出しをやっている。お陰で最近、果物を見る目が職人の目とまではいかないが、それに近くなってきている気がする。


今日はそのアルバイトの給料日。昨日から既に振り込まれてはいたが、今月貰える分は正規の日に使いたかったから下ろさずにいた。

給料日、俺にはやりたいことがあった。

バイトを終えてお金を下ろし、早速バイト先のスーパーのフードコートへ行く。

この店のフードコートには某フライドチキンのチェーン店があるのだ。

そして、その店の前で既に頭の中で決めていたメニューを頼む。


「すみません、フライドチキンを8ピースとコーラを下さい。コーラはLサイズでお願いします。」


俺のやりたかったこと…それはフライドチキンのバーレル食いだ。

ホールケーキとかオードブルとか、パーティーセットの物を一人で食べるというのは、子どもの頃一度は夢見ることだろう。

今日はそれを実行するのだ。バイトを終えた後なので腹も空いている。8ピースくらいなら食べられるだろう。

飲み物はコーラ。今日はゼロカロリーのものではなく、ちゃんとカロリーがあるものを頼む。

これに関してはフライドチキンに対しての作法だと思っている。

コーラ飲料に合う高カロリーなものに対してゼロコーラを飲むのは、フライドチキンに対して抵抗感を抱いているような気分になるからだ。

ゼロコーラの味が好きならば別にいいが、カロリーを気にしてゼロコーラを頼む輩は、そもそもフライドチキンなんか食わずにサラダチキンでも食ってろと言いたい。


「番号札2番のお客様、2番のお客様〜」


そんな愚痴を頭に過らせているうちに自分の番号が呼ばれた。愚痴はこれで止めにしよう。これ以上の愚痴はフライドチキンの味を損ねてしまうから。


俺はカウンターに行って商品を受け取り、再び席に着く。机の上にはバーレル一杯に入ったフライドチキンと、コーラが置かれている。


ここからは真剣勝負だ。

まずはドラムのピースを取り出して一口、それも大きく口を開けてがぶりと齧り付く。小骨がなく食べやすいドラムは最初の一口にぴったりのピースだ。そいつに食らいついたら、そのまま噛みちぎって咀嚼する。柔らかい鶏肉の弾力と肉汁、衣のカリッとした食感、そして黄金の比率で調合されたであろうスパイスの風味。

全てが調和して、顔がにやけるほど美味い。一口、また一口と齧り付いてはこの調和を楽しむ。

一本食べ終わったところで、すかさずコーラをグビリと飲む。揚げ物、鶏肉、そしてこの味付け…コーラに合わないはずがない。

「うんまあぁぁぁ……」

コーラとフライドチキンのベストマッチにより、口の中が多幸感で満たされる。思わず笑いが溢れるほどだ。


おっと危ない。まだ始めの1ピースだというのに、この多幸感に飲まれて手が止まるところだった。やはり理性を留めておいたままこの調和を受け続けるのは難しいかもしれない。

そう思った俺は、ここで理性ではなく本能で食べることにした。

今この場では、このテーブルにいる時だけは、俺は人間ではなく肉食獣になる。肉食獣のように、本能で食らい、味わい、飲み込むのだ。


本能的になった肉食獣は、キールのピースを取り出して食らいつく。

ドラムとは違い、今度は脂が少なめのあっさりとした胸肉。柔らかく食べ応えがある部位に秘伝のスパイスがあっさりとしているキールにインパクトを与えてくれる。


次はリブ。あばらの部分だ。あばら故に小骨が多く食べにくいが、小骨と小骨の間の肉を口の中で削ぎ落とすように食べるのが醍醐味である。しゃぶりつく様に食べると肉と骨から出てくる旨みのエキスがまた美味い。こいつはキールと同じくらいあっさりしているが、骨から染み出る旨みを味わえる。こんな美味い骨が毎日頂けるなら俺は犬になってもいいと思えるくらいだ。


リブを骨まで味わい尽くしたらウイングをいただく。

こいつは脂とはまた違う、とろりとしたコラーゲン質な部分が味わえる。ウイングは鶏がよく動かす部位だからなのか、肉質もしっかりしている。

リブやキールのように肉質がしっかりしている部位は比較的あっさりした味わいだと思っていたが、ウイングのおかげで見解が変わった。こいつは肉質しっかり系なのに濃厚な味わいとコラーゲン質な部位があって美味い。

実は、家族でこのフライドチキンを食べる時はお袋や姉貴が「コラーゲンは大事」とか言って、俺が誕生日の時であってもウイングを真っ先に取ってしまうので、ほぼ食べたことがない部位だ。

今なら分かる。2人はきっと「コラーゲン」を言い訳にただこの旨さを知っていて、真っ先に食べたいピースだったのだろう。

だからといって、俺が食べたことがなかったことに変わりはないし、今はこいつを独り占めして、ゆっくり味わって食べよう。


ウイングを食べ終えたら、とあるピースだけ最後の楽しみにとっておいて、あとの3ピースを頂こう。

バーレルの中を見ると、ドラムとキールとリブが残っていた。コーラも充分残ってる。まだまだ彼らとの調和を楽しめそうだ。

そう思い、俺はドラムを頬張り、キールにかぶり付き、リブを骨の髄まで味わい、そいつらとコーラの調和をじっくり楽しんだ。


さあ、締めの時が来た。

サイ…脂が多くて食べ応えが抜群の部位だ。店の人が言うには腰の部分だとか。

寿司通ぶる人が最後に大トロを食べようとするように、俺はこいつを最後の楽しみにとっておいたのだ。

こいつの特徴というのが、なんと言ってもあの大きく平たい骨だ。その骨の周りには脂が乗った肉が付いている。こいつを食うのが堪らなく好きなのだ。

ドラムのように食べやすく、キールのように食べ応え抜群で、ウイングよりも脂が乗っていて、骨もリブと同じくらい旨味のエキスが出てくる。各部位の美味いところを寄せ集めているサイは一番好きな部位だ。

しかも、そこにカリッとした衣と絶妙な味付けのスパイスがプラスされると来たもんだ。こいつが嫌いな奴はまず居ないだろう。

俺はこいつを一気果敢に食う。脂で口の周りが潤おうが、肉汁が飛ぼうが、衣がポロポロ溢れようがそいつを真剣に食い尽くした。



バーレルの中のフライドチキンを食べ終え満足した俺はひと息つく。今月のご褒美は大満足だった。これできっと来月までのモチベーションはバッチリだ。

あのフライドチキンの後味を感じながら、そんなことを考え、しばらくまったり過ごしてから帰宅するのだった。


この話を書くために某有名チェーン店に食べに行きました。やっぱりあの店のフライドチキンは美味しいですよね。コーラと合いますし。

このお話の主人公は高2の設定なんですけど、キゲンさんはもうおじさんなので8ピース食べ終わった頃には胸焼けしてました。嗚呼、高校生の頃に戻りたい…( ´-`)

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