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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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和洋の共演、コーヒー善哉

今日、俺は私用で東京駅に来ていた。といっても、東京に来た理由は帰り道のついでだ。乗り換えする駅がここだからだ。


東京駅の近くは美味しそうな物が多い。

だが、やはり東京…高校生が簡単に手を伸ばせるような額ではないのが多い。

ラーメンでもカレーでも並の量で1000円は余裕で越える。俺たちのような学生の手が届くのは駅中にありそうなチェーンのファストフード店か立ち食いそば屋くらいだ。

『東京は物価が高い』と聞くが、こうして見ると改めて実感できる。でも贅沢をしたい時はここに来れば確実に満足できるだろう。


それはそれとして、せっかく東京駅にいるのだから何か食べたい。出来ればチェーンではない食事処で。だが、東京はどこの店も高くて入る勇気が出なかった。仕方なくこのまま帰ろうと改札へ向かう。

向かっている最中、ふとお土産コーナーが目に入る。お土産コーナーの物は小包装されて売られている物も多い。箱売りでなければ学生でも手が届く額だ。


─── せっかく美食が集まる東京に降りたんだし、何か土産になりそうなものでも探そう。


そう思い、俺は駅のお土産コーナーに足を運んだ。

お土産コーナーは最寄駅にある駅ナカの惣菜コーナーよりも広く、色んなお店が常設されていた。弁当、おにぎり、洋菓子、和菓子など色々な店が並んでいる。

どの店のショーケースも、見たことのない食べ物やサンプルが並べられていた。そのどれもが、宝石店に並べられた装飾品みたいに美しく見えていた。これが東京のチカラなのかもしれない。


頭の中で菓子を買うのは確定した。だがそこからが問題だ。「菓子」と絞り込んだだけではまだ目移りする物が多すぎる。四方八方から菓子達が自分を選んでくれとばかりに誘惑してくる。


─── もう少し選択肢を絞らなければ…このままでは誘惑に負けてしまう。


俺はもう一つ絞り込むために条件を作った。そうじゃないと、財布の中身が空っぽになりかねない。

季節は夏、暑さで項垂れるような季節だ。だから夏季限定の涼しげなものを選ぶことにした。

涼しげなものといえば、透明感のあるもの。例えば、ゼリーとか水ようかんとか。体を冷やすという意味ではコーヒーなんかもいいかもしれない。

よし、この条件で見ていこう。

俺は2つの制限をもとに他の菓子からの誘惑や魅了に抗いながらお土産コーナーを回った。


改札口の手前まで来た時、俺は運命的な出逢いをした。見つけたのだ、ゼリーでもありようかん要素もあり、コーヒーも使われたお菓子…その名も「コーヒー善哉」。

置かれていたのはいちご大福を売りにしている和菓子屋さんだった。その和菓子屋で期間限定としてコーヒー善哉が売られていた。

他にも竹に入った水羊羹とか麩饅頭とかも売られていたが、俺の目を虜にしてきたのはコーヒー善哉だった。和の小豆と洋のコーヒー…豆と呼ばれる共通点でのコラボレーションに面白みを感じて、気付けば俺はこいつを3つ購入していた。3つ買っても袋と合わせて1000円以内と東京にしてはお手頃価格だ。


お土産コーナー故にイートインのスペースは無いので、こいつを食べずに持ち帰るために店員さんに保冷剤も入れてもらった。

改札を通り、電車の中で揺られている中で、俺は袋の中身を見てはこいつを食べる瞬間を想像して心を躍らせていた。

電車に揺られて数十分、漸く最寄駅に着いた。あとは歩いて家に帰るだけだ。歩いている間も期待と興奮で心を踊らせながら帰った。



「ただいま」

家に着いてすぐ、善哉が入った袋を冷蔵庫に入れる。こいつを最大限に楽しむには、冷えた状態にした方がいいと思ったからだ。

俺は冷やしている間に、手洗いうがい、そして風呂が空いてたのでサッと入浴を済ませる。

帰り道で食べる買い食いとは違い、今日は東京で買ったスイーツ…しっかり身を清めなければいけない気がした。

身を清めたら、干したての寝間着を着ていざ御対面だ。



まずは目で味わう。

蓋を外してまず気づいたのは、コーヒー善哉の上に金箔の飾りが付いていたことだ。

東京はお菓子までお洒落をするんだな。

そして透明の容器の底からうっすら見えたのは、小豆だった。しかもこれは中々の大粒だ。店員さん曰く、甘く炊いた小豆を敷き詰めているとのこと。これは楽しみだ。


目でよく味わったら、次は口の中で味わう。

まずはコーヒーゼリーだけを一口いただく。

美味い。コンビニで売られているコーヒーゼリーとは次元が違う。コーヒーの香りがしっかりあることもそうだが、コーヒーとしての苦みも感じられる。そしてゼリーの滑らかさも至高。

喉をつるりと滑らかに通っていく。喉越しまで美味しい。


次は小豆だ。匙で2、3粒掬い口に運んでみる。おお、小豆も美味い。ふっくらと柔らかく炊かれた小豆の食感がたまらない。

甘く炊いたというから、汁粉のようなまったりとほんのり舌に残る甘さが来るかと思っていた。だが実際は、かき氷に掛けられる「すい」のようにあっさりとしていてしつこくない甘さだ。ガムシロップとはまた少し違う透明感のある甘さが、口の中でほっとする和みを生み出してくれる。


次はコーヒーゼリーと小豆を一緒にいただく。

コーヒーの苦味をすいのように甘い小豆が和らげながらも、コーヒーの旨みを高めている。

小豆の食感もコーヒーゼリーの滑らかさと上手く調和していて美味。


最後に3分の1くらい残ったところで、一緒に付けてくれたコーヒーフレッシュを掛けて食べる。コーヒーフレッシュのミルキーさが、コーヒーの苦みと小豆の甘みを包み込み、より一体感を出していた。コーヒーと小豆はミルクによって更なる演出を醸して出してくれたのだ。

コーヒー善哉はコーヒーフレッシュによって完成形を越えたのだ。



コーヒー善哉…

「善哉」という名だけで和のお嬢さんかと思っていたが、どうやら「コーヒー」という洋の美も兼ね備えた外交的な貴婦人だったようだ。

期間限定となっていたが、是非ともまたお逢いしたいものだ。

食べ終えた俺は、そんな東京にいそうな紳士っぽいことを思いながら、次に東京に行った時何を食べようか考えるのだった。


東京駅のお土産コーナーって色々な美味しいものがずらりと並べられていて、誘惑に耐えないとすぐに財布が空っぽになっちゃうよね。

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