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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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ネコヤナギとポップコーン

フツフツ…グツグツ……


春休みに入った俺は、ただ静かに、蓋越しにフライパンの中で熱いバターの湯船ならぬ()船に浸かるコーン達を眺めていた。

春になるとこいつが無性に食べたくなる。

普段食べている甘味種で作るバターコーンも良いけれど、爆裂種と呼ばれるトウモロコシでつくるコイツもまた素晴らしい。


……パンッ……ポンッ……パポポパンッ…


コーン達はのぼせて熱さに耐えきれなくなったのか、ぐらぐらと動き出し、パンッと心が踊るような破裂音を鳴らしながら硬い皮を脱ぎ捨てていく。

ネコヤナギの芽が冬の外套を脱いだように、コーン達は温まるフライパンの上で白い花を咲かせていた。


しばらくすると、破裂音が鳴り止んだ。

きっと満開に咲いたのだろう。

蓋をとると、バターの芳しい香りがほわんと溢れ出し、この空間を満たしていく。

蜂や蝶だけでなく人間の鼻腔もくすぐる、まろやかなバターの香り。


我慢出来ずに熱々のポップコーンを1つ摘み、口に放り込む。

サクッと軽やかな音を鳴らし、そしてスッと消えるように溶けていく。溶けながらも、バターの香りを口に残していく。

雪が溶けて花が咲くように、口の中に春がやってくる。


次は塩をぱらりと掛けてから、まだ熱いうちに口に放り込む。

ふわりと香るバターと後から来るキリッと締まりを与える塩味。

それはまるで、春が来ても油断できぬ寒風。また一口食べれば暖かい春がやってきて、風が吹く。春の始まりはその繰り返しだ。


───ポップコーンは春を表現する芸術的な料理なのかもしれない。


ふと、そんな考えを過ぎらせながら、バターのコクと香ばしいコーンの余韻に浸る。

春休みだからこそできる、ゆったりとした春のひととき。フライパンから直で取るちょっと贅沢なポップコーンを摘み、時折炭酸を飲む。


「あー、春だなぁ…」


おじさん臭い一人言を呟きながら、俺はゆっくりと春の始まりを楽しんでいた。


一年前の春にネコヤナギを見て思いつき、そこから一年間熟成させていた表現を、今ようやく使うことができました!

ポップコーンに旬は無いと言いますが、私はあの食感と作っている工程を見て、春が旬だと改めて思いましたよ。

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