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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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サバイバルなバレンタイン 後編

「おまたせ〜。」


角山先生の飲み物の購入に同行した後、家庭科室へ行きドアを開ける。

既に家庭科室にはメシ友たちが集まっていて、室内はお菓子の甘い匂いで満たされていた。各々開封はしていたが食べるのは待ってくれていたようで、その分かなり甘い匂いが出てきていた。


「おっ、やっと来た。遅えぞ、マサ!って、角川先生もいるのかよ!?」


「ごめん、授業が5分延びちゃってさ。その責任として先生が角山先生を護衛として呼んでくれたんだ。」


メシ友の1人に怒られてしまった。

昼休みは長いとは言っても40分程度。授業が延びて自販機に寄り道までしたら、合計で約10分のタイムロス。怒られても仕方がない。

因みに、今俺に怒った友人は、過去に俺と共に山梨へ行き、ほうとうを食ったメシ友だ。名は酒巻(さかまき)という。


「ってことは、今年も角山先生は参加する感じ?」


「おう、お前ら今年も美味そうなの持ってきたな!」


「…お菓子、足りるかな?」


先生は去年も俺たちのバレンタインパーティーに飛び入り参加しているので各々の持ってくるお菓子のレベルを知っている。故に今年のパーティーでも美味しい菓子に出逢えると張り切っていた。

そんな様子を見たもう1人のメシ友こと神崎(かんざき)さんは、徐ろに自分が持ってきたであろうクッキーの枚数を数え始めた。

別に数えなくても問題ないはずだ。甘い物好きで体育会系特有の大食らいな先生だけど、俺たちの他にもまだ参加者は来るはずだし。


「数えなくても大丈夫でしょ。参加者は俺たち3人だけじゃないんだし。あれ、他のやつらは?」


「捕まった。」


「え?」


「他の人たちは皆運動部に捕まっちゃった…」


「マジか…」


俺は神崎さんからの返答に耳を疑った。

本来ならば、俺と既に待っていたこの2人以外にも5人ほどメシ友が来るはずだったからだ。

そして計8人でそれぞれ持ってきたお菓子を分け合い、その味を楽しむ…そういう行事になるはずだった。

だが今年は俺を含めて3人しか生き残れなかったのだ。


「俺、捕まった瞬間を見ちまったけど、結構ホラーだったぞ。なんというか、ゾンビパニックで逃げている市民が、足を挫いて転けたところにゾンビ共が群がってきた…みたいな感じだった。

そいつ、悲鳴を上げてたよ。『やめてくれ!これはあの子にあげる分なんだ、取らないでくれ!』ってさ。飢えた運動部がそんな願いを聞くはずもないのにさ。それで一欠片も残らず菓子を食われちまった。」


「うわあ…」


表現がだいぶ物騒だと思うが、この日に限ってはその表現通り、捕まったが最後だからな。

捕まった皆にはドンマイと思いながら合掌しよう。


「その点、マサくんは凄いよね。角山先生を味方に付けて来るなんて。おかげで無事に来れたみたいだし。」


「そりゃあ、ネ○シスを味方に招き入れたようなもんだしな。代償としてマサだけじゃなく俺らの持ってきた菓子も3割くらい持っていかれそうだけどさ。」


「聞こえているぞ、酒巻。誰がネメ○スだって?」


「先生がですよ。どこの高校に、専門じゃないスポーツでそのスポーツ一筋の部員に圧勝する化け物じみた先生がいるんすか!?」


「ここにいるが?」


「まあまあ、いいじゃないか酒巻。先生がいなかったら俺もあいつらみたいに食われてただろうし、3割くらいなら安いもんだろ。」


「そうだぞ、しかもその3割のうちの殆どを午岩で満たす予定だ。お前たち2人には何もしてないわけだしな。」


「なんだ、そういうことならいい話は別っすよ。ささっ、パーティーをしましょうか!」


角山先生が貰うお菓子の殆どが俺の分だと分かるや否や、酒巻は掌を返すようにパーティーを始めようと言い出した。

まあいいか、タッパーが一杯になるくらいに作ってきたわけだし、多少取られたところで問題はないだろう。


そうして俺たちはようやく席につき、バレンタインパーティーが始まった。



「各自飲み物は持ったな?それじゃあ、かんぱ〜い!」


「「かんぱーい」」


各自持ってきた飲み物を持ち、音頭に合わせて乾杯をする。

俺も持ってきたカフェオレで乾杯をする。


「さて、まずは俺のから食べてもらおうか。」


酒巻が持参した小さなプラスチックのパックを出す。中にはチョコレート色のキューブがごろごろと入っていた。


「俺のは、簡単な生チョコだ。急ぎで作ったし、手の込んだやつはマサが作ると思ったからな。簡単なやつにしたぜ。」


溶かして固める超簡単チョコではなく多少手を加えた生チョコを持って来るあたり、急いで作ったという割には意外と余裕があったみたいだ。

早速1つ楊枝で刺して口に放り込む。

ココアパウダーのほろ苦さが、濃厚な生チョコのとろける甘さを引き立てていて美味い。

生チョコが纏ったココアに苦みを感じるあたり、結構お高いココアを使っているな。


「どうだ、結構イケるだろ?これでもテンパしてないんだぜ?」


「テンパなしでこんなに美味いのか。やるな、お前。」


「そんな褒めるなよ。どうです、先生?」


「美味いな、でも天パするってどういうことだ?作る時点でそれは天パじゃなくてただのパーマだろ。」


「あー、違うんすよ。テンパっていうのはテンパリングを略したやつで、それをやるともっと口どけが良くなるんすよ。まあ面倒臭いんで俺は生クリーム入れて作ったんすけどね。」


「ほーん、まあこれで美味いならわざわざそのテンパ?をする必要もないよな。」


「そうでしょう?」


酒巻の言葉を理解したようにそう呟く先生。

知らないから良いけど、もし先生がテンパリングしたチョコの滑らかさを知ってしまうと、生クリームチョコでは物足りなくなりそうだ。そうなると作らされる身になりそうだし黙っておこう。



「次、私ね。」


お次は神崎さんが持ってきたクッキーだ。

サクッとした食感と口の中でほろほろと崩れる感覚がたまらない。そして噛むたびに感じるこの香ばしさは、アーモンドを使っているのだろうか、ナッツのような香ばしさが味わえる。だがクッキーのどこを見てもアーモンドのようなナッツは見当たらない。粉末にして混ぜたのだろうか…?


「神崎さん、アーモンドの粉末とか使ったの?」


「ううん、使ってないよ。薄力粉とバターとお砂糖、あと隠し味に白だしをほんのちょっと入れただけ。」


ということは、この香ばしさは白だしが生み出したのか…!

出汁って凄いんだな。まさかお菓子にも使えるなんて…これは新たな発見といえよう。


「へー、出汁って菓子にも使えるんだな。上手くやれば出汁プリンとか出汁ケーキとかも出来そうだな!」


「…先生、それだと伊達巻きや茶碗蒸しになります。」


「あ、そうか。にしても出汁とコーヒーって意外と合うもんだな。今度茶碗蒸しにも合うか試してみるか…」


なんか先生が良からぬことを考え始めたが、突っ込まないでおこう。俺も茶碗蒸しにコーヒーは合いそうだと思うし。


「さて、最後は俺の番だね。」


そう言って大きなタッパーを開ける。

タッパーの中には3種類のマカロンをずらりと並べて詰めていた。味はそれぞれ抹茶,チョコレート,バナナだ。

ぎっしり詰めていたのと、休憩時間はそれを持ちながら逃げ隠れしていたせいで生地の表面が少し割れたかもしれないが、そこはご愛嬌で許してくれ、メシ友よ。


「おお、若干ヒビがあるけど、それでも表面に光沢がある…お前、アレやったな?何だっけ、マカロニポタージュっぽいやつ。」


「マカロナージュ?」


「そう、それ。それのおかげで軽い食感なのに外側は飴みたいにパリッサクッとしていて美味いな。バナナは優しい甘さで、チョコは濃厚な甘さ…抹茶も甘いんだが他のとは違い抹茶特有の苦みがある。」


「食レポどうも。その工程が結構面倒だったけど、そのおかげで逃走劇を繰り広げたのにその程度のヒビで済んだよ。」


「それやってなかったらヒビじゃ済まなかったな。…にしても、結構作ったな。食い切れる自信がねえぞ。」


「まあ、1人6個ずつで8人分作ってきたからね…おっと、俺も口の中甘ったるくなってきた…」


「私も限界かな。抹茶で苦みがあると言っても流石に食べられない…」


「2人とももうギブ?俺もギブアップ、抹茶があと1つで限界だ…」


参加者全員で食べることを想定して大量に作ったせいか、マカロンがだいぶ余ってしまった。抹茶の方は程よい苦みのおかげか結構人気でほとんど残っていないが、バナナとチョコレートは甘さが強いせいかだいぶ残ってしまう。

生チョコやクッキーは良い具合の甘さだったから食べられたが、マカロンは1人3個ずつぐらいの量が限界なのかもしれない。次作る時は考慮しよう。


「……」


おっと、いくら甘いもの好きの先生でももう限界なのか腕を組んで悩んでいるし、残りは持って帰って腐らないうちに頑張って食べ切るか。

そう思いタッパーの蓋を閉じようとした時、悩んでいた先生が口を開いた。


「なあ午岩、このマカロン、もし残ったら貰ってもいいか?」


「え?…まあ、良いですよ。でも期限短いんですけど、食べきれます?」


「俺が食うんじゃねえよ。今日の放課後、バレー部の部活があるからな。そいつらの褒美に使いたいんだよ。だからいいか?」


と、先生から提案をされた。

こちらとしても家では家用に残しているし、更にこれらを食べるのは流石にキツいので、ありがたい話なので、タッパーの蓋を閉めて先生に渡した。これでスイーツの件は安心だな。


キンコンカンコーン…


口も胃の中も甘さで満たされながらぼーっとしていると、5限目が始まる5分前の予鈴が鳴った。


「よし、お茶会はお開きだ!午岩、酒巻、神崎はすぐに教室に向かえ!余韻に浸るのはそれからにしろ!いいな!?」


「「はーい。」」


こうして俺達のサバイバルなバレンタインは幕を降ろし、ゾンビどもは俺たちを襲うことはなくなった。


───ラブコメのような甘いバレンタインではないが、これも青春なのかもしれないな。


これも青春の1つ…そんなことを考えながらのんびりと教室へ向かうのだった。

ちなみに、後日先生から聞いた話だが、その日の放課後のバレー部員たちは目を血走らせながら特訓していたらしい。甘味って恐ろしいね。

はい、ということで今回でバレンタイン編終了!

もうすぐホワイトデーになるというのに、ようやくバレンタインが終わりました。

思い出に耽りながら書いていると長くなってしまい、添削するのに時間が掛かってしまったのはトップシークレット…

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