表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徒然メシ  作者: 友好キゲン
30/47

リーズナブルに一人焼肉

今日は休日。

当然学校はなく、用事もない俺は1人最寄りの駅の近くにある商店街にやってきていた。

因みに親父は昼から仕事仲間の人たちとボウリング、お袋はママ友とお茶会なため、家には誰もいない。

皆誰かと食べに行っているのなら俺もプチ贅沢をしちゃおう!…ってことで、商店街まで足を運んだのだ。

近所の方ではなく、駅の近くの商店街に来たのには理由がある。それは…地元ではその商店街にしかない一人焼肉の店で食事するためだ。



とある流行病で大騒ぎになり、マスクが高騰していた時期に出始めた一人焼肉のお店。

様々なセットメニューがあって、価格も比較的リーズナブル、昼ならばご飯もおかわり無料なので、育ち盛りな俺たち学生には最高のメシ屋だ。


早速店に入り、案内された席に座る。

そして、備え付けのタブレットで注文を行う。

俺が頼むものは既に決まっている…『メガセット』だ。

牛カルビ、豚カルビ、牛ホルモンの3種のセット。並サイズでも肉の量は合計で300gもあり、この時間帯はご飯がおかわりし放題なので、俺だけでなくこの店によく行く食べ盛りなクラスメイトは大体このセットを頼んでいる。

俺がメガ盛りを選ぶのは、その量もそうだが、このセットメニューにだけホルモンがあるのが一番の理由だ。

ホルモン好きは珍しいと言われがちだが、俺が通う学校は意外なことにホルモン好きの学生が結構な割合でいる。故に俺がホルモン好きでも何ら問題はない。むしろおじさん臭いと言われがちな印象を変えているまである気がする。



タブレットでの注文を終え、セットが来るのを待つ。

流行病のブームが終わっても、一人焼肉ブームは止まることを知らない。

一人焼肉をリーズナブルな値段でできるなんてことがあまりなかったから、この店のおかげでブームになったんだと思う。



待っている間暇だし、こんな話をしよう。

突然で悪いが、俺は「ホルモン」という名があまり好きではない。

ホルモンは、昔の日本人が内臓系を食べずに捨てていた、所謂「放る物」から付いた名だ。

だがホルモンの旨さを知る現代人の俺からすれば、こんな美味い物を放る物と呼ぶのは相応しくない。

今呼ぶべき名はホウモツだ。捨てる物から宝物(たからもの)に、そしてモツとホルモンは地方で呼び名が違うだけで物は同じ。だからホウモツと呼んでも問題ないはずだ。


「お待たせしました。メガセットです!」


っと、そんな話をしている間にもう来ちゃったよ。まだまだ話したいことはあるのに。

まあ、いっか。今はこの肉たちとの時間を大切にしよう。


まずはセットで付いてきたわかめスープを飲む。わかめと胡麻の香りが胃に沁み、食欲が湧いてくる。

焼き肉屋で出されるわかめスープって、なんか、こう…食欲がない人間も食いしん坊にしてしまうくらいの食欲増進効果がある気がするんだよね。これを飲めば食欲全開、焼き肉に集中できるってわけだ。


最初に焼くのは牛カルビ。

焼き肉と言ったらこいつというほどの焼き肉の代表格、牛カルビ。やはり一番先に食べたくなるよね。早速こいつを熱くなった網の上に置く。

ジュワ〜っと肉の焼ける音が、耳を伝って胃に響くこの音が空腹感を更に上げてくれる。

牛はそこまで危険性がないので、完全な焼き色になるほんの一瞬手前で取り上げて口に放り込む。

そして噛むことで牛カルビの脂がじゅわりと出てきたところで飯をかき込む。肉の脂と米が絡み合ってモ〜最高ってね。

……コホン…この店のカルビは薄めなので何枚でも食べられてしまいそうだ。



お次は豚カルビ。こいつは豚肉なので牛の時よりもよく火を通す。

そして、充分な焼き色になったらキムチを添えて食べる。

豚肉の優しい旨みを出しつつ、こいつの脂がキムチの辛さを和らげつつもマッチしていて美味。そして肉がまだ口に残っているうちに飯をかき込む!

豚肉を食う時は、肉と米と少しのキムチを口一杯に頬張っている時が一番幸せを感じられる気がする。

そう考えると、豚キムチを発明した料理人は天才なんじゃないかな。



さて、〆は牛ホルモン…いや、牛ホウモツだ。

牛のホウモツといっても色々な部位があるが、この店でのホウモツは「シマチョウ」だ。

シマチョウはプルンとした食感且つとろりと濃厚で甘い脂が楽しめる部位。

お前、やはり宝物ではないか!


俺はシマチョウにはこだわりの焼き方がある。

まずは身…というか脂が少ない面を焼き、それからひっくり返して脂の部分に火を当てる。

そして、脂が落ちていくのを眺めながら待つ。自分好みの脂加減のところで、そいつを掬い出し口の中に放り込む。

内臓系特有のコリックニッとした食感、火の熱でとろりと溶けた脂、噛めば噛むほど出てくる旨味。やはりホウモツは最高のご馳走だ。


唯一残念なことがあるとすれば、その堅さと歯ごたえ故に白飯とは合わせにくいことだ。

ホウモツの旨みと脂身をご飯と共に食べたいと思うが、どうしてもご飯の柔らかさとは上手くマッチしてくれない。

そこがホウモツ食いとして少し悔しいところだ。


だが親父曰く、飯には合わないが酒には合う、「酒の親友」なんだとか。

俺も成人したらその良さが分かるのかな?

そう考えると、俺も早く大人になりたいな…そうしたらきっと、ホウモツの良さを最大限に理解できるのかもな…


───大人になったらすぐにこの店に来よう。そして、ホウモツとお酒で一杯やってみよう。


俺はそんな大人になることを夢見て肉とホウモツを友に、思う存分飯を食らっていった。

今や風情ある大人にならなくとも食べられるようになった一人焼肉。流行病は悪いことばかりでなく、こうして新たな食文化や流行りが生まれるきっかけにもなってくれる。

世の中悪いことばかりではないんですな。ホウモツ食べてスタミナつければ、元気に生きていけるというもの。

一人焼肉、皆さんも是非ご堪能くださいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ