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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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深秋の味、煎り銀杏

ギンナンもイチョウも漢字が「銀杏」なので、

植物の方をカタカナ、食材の方を漢字で表記しております。


11月…漸く涼しくなり、イチョウの木の葉が黄色く染まり出す。今やもう並木道には黄色く色づくイチョウの木が並び、通りは彼らの落葉で黄色の絨毯になっていた。

すうっと鼻で思いっきり息を吸う。


「…臭い。」


道にポツポツと落ちているイチョウの熟れた果実から発する匂いが鼻を刺激する。得意な匂いではないが、この時期にしか感じられぬ深秋の香りだ。

ふと周りを見る。イチョウの並木道を通る人々の他に、落ちたイチョウの果実から器用に種を抜き取って袋に集める人がちらほらと見えた。


「そうか、もう銀杏(ぎんなん)の季節か。」


ふとそんなことを呟く。

銀杏は秋から冬にかけてが旬の食材。それが実り、落ちていくということは、もう冬も近いということだ。


───涼しくなったと思いきや、もう寒くなるのか。


暑い夏から残暑の秋へ、漸く涼しい秋になったと思えば、一瞬で寒い冬へ…この年の秋はもう無いようなもの。ならば「食」だけでも涼しい秋を味わいたいものだ。

イチョウが実らせるこの黄色い果実は食えたものではないが、中の種は火を通すと美味い銀杏(ぎんなん)になる。こいつは秋にしか味わえない、「涼しい秋」の味だ。


───なんか無性に食いたくなってきたな。


俺はそう思い、地元で銀杏が食べられる店にやってきた。

それが、焼き栗の屋台だ。

焼き栗に銀杏?と思うかもしれないが、うちの近くの神社にある焼き栗屋の屋台では、この季節になると煎り銀杏を出すのだ。

まあ、そのおかげでこの時期になると、神社内に呑兵衛が集まるのだけど…


「おっちゃん、銀杏一皿ちょうだい。」


「銀杏ね、はいよ。あっ、そうだ、焼き栗もあるけど…食うか?」


「銀杏だけで大丈夫だよ。」


「…はいよ。うち、焼き栗屋なんだけどなぁ…」


なんて会話をしながら銀杏を頼み、300円払う。

おっちゃんは焼き栗も勧めてきたが、今日は銀杏の気分なので焼き栗は断った。

注文を終えたら、設置された机に向かい席に着く。そこには銀杏をつまみにカップ酒を呑むおっさん達の姿があった。


「銀杏にはワンカップ、これに限るよな〜!」

「やっぱこの店の銀杏食わねえと冬に行けねえよなっ!」

「大将、いい仕事してるよ〜!!」


…なんて、おっちゃんと銀杏を褒めながら酒を呑んでいる。おっさん達、ここの銀杏が美味いのは分かるけど、栗も食べなよ?

俺も他人(ひと)のこと言えないけどさ。


「はいお待ちどうさん、銀杏ね。」


そう言って、プラスチックの舟皿に盛られた煎り銀杏と、別皿で塩が添えられて出てきた。


「ありがとう、おっちゃん。」


「ついでに焼き栗も…」


「おっちゃん?」


「…気が向いたら頼んでね。」


そう言って、おっちゃんはまた屋台の方へと戻っていった。ごめん、おっちゃん、今度焼き栗頼むから今日のところは銀杏だけで許してね。


さて、おっちゃんへの心の謝りを終えたら、いよいよ銀杏とのご対面タイムだ。


「あちちっ…」


煎りたての熱い殻を剥く。煎る際に軽く割れ目を作ってくれていたのか、簡単に剥ける。

その硬い殻を剥くと、中からは翡翠のように美しい緑の身が姿を現す。

並木道で見た銀杏は黄色かったが、俺が食べるこいつは緑色…つまり鮮度が良い証拠だ。


こいつに粗塩をちょっぴり付けて、ぽいっと口に放り込む。熱々でもっちりと弾力のある銀杏を噛むと、口一杯に銀杏の香りが広がり、鼻に抜ける。そしてその香りを味わった後に、銀杏の旨みと塩の程よいしょっぱさが口に広がる。美味い。


銀杏はこの香りのせいで好き嫌いが分かれるらしい。故に煎った銀杏は食べられないけど、茶碗蒸しに入っている銀杏は匂いが無くて平気、むしろ好物!…という人もいるが、俺にとっては好きな香りだ。

故に茶碗蒸しに入っている銀杏には物足りなさを感じる時がある。もうちょい香りがあってもいいのに…


───でも、イチョウの木から落ちてくるあの黄色い実の匂いは臭くて苦手なのに、その中にある銀杏の香りが良いものに感じるのは何故だろう?


そう思いながら、また1つポイっと口に放り込む。


「うん…まあ…美味いし、別にいいか。」


俺は考えるのを放棄した。

そして銀杏の香りを楽しみながら、ふと思いついた。その理由きっと、「美味しいから」なのでは…と。


キゲンさんの住む地元の神社には昔、焼き栗屋の屋台があって、この季節にのみ銀杏が追加メニューとして出ていました。焼き栗屋のおっちゃんはいつも銀杏を頼まれて「たまには栗を食ってくれ」ってぼやいていました。

ははは、懐かしいなぁ…


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