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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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徒然なる築地巡り マグロステーキ編

本当に美味しいものに出逢うと、頭の中には「美味い」しか出てこなくなる……キゲンさんは築地に行ってそれを実感しました。築地はグルメを書く人にとっては恐ろしい場所なのかもしれませんね…


───築地グルメ4品目にして最後の品は何にしようか?


俺は築地を回りながら悩んでいた。

確かに美味しそうものは沢山あるのだが、敷居が少し高いのがネックだ。

ん?築地の〆は海鮮丼じゃないのか…って?

確かに海鮮丼は築地名物と言えるグルメだろう。でもそいつらは軽く3000円を越えていたり、予約が必要だったり、メニューに「時価」と書かれていたりと…高校生が気軽に手を出せる物ではない。だから今日のところは辞めにした。海鮮丼はバイトの給料日のお楽しみにしておこう。


───とはいえ、築地巡りの〆に相応しいインパクトのあるものが食べたい。


そんなことを考えていると、大通り沿いで何やら行列を発見した。その行列は、藍色の暖簾に「とんぼや」と書かれたキッチンカーに続いていた。

そのキッチンカーを覗いてみると、料理人がバーナーを二刀流で扱い、熱々の鉄板の上で寝そべっている串焼きに勢いよく火力を与えていく。

何を作っているのかとメニューを見てみる…そこには「マグロステーキ」とだけ書かれていた。なるほど、ここはマグロステーキ串のお店だったのか。

そして、その店に出来た長蛇の列。これはきっとこの店のマグロステーキが美味いという証拠だろう。


───よし、〆はここにしよう。


そう思い立ち、俺はその列の最後尾に並び始める。何せ、これほど視覚的に強いインパクトを与えてくれる料理は見たことがなかったからな。

しかし、ここからが長かった。料理人さんが一本一本こだわりの焼き方で焼いている分、焼き上がるのに5分は掛かる。そして特に外国人のお客さんは4,5本は買うので、なかなか列も進まない。

『数量限定』と書かれているのもあって、「もしや自分よりも前の人で売り切れになってしまうのでは…?」と、緊張が走る。


───もっと早く食べに行くべきだった。


そんな考えを頭の中で何度も過らせ、自分の分が残っていることを祈りながら列が進むのを待った。


あれから30分ほど経った頃だろうか…列もだいぶ前に進み、次の焼きで自分の番が回ってくるであろうところまで行った。

だがまだ緊張を解いてはいけない。ここでもし前の人が「5本!」とか「あるだけ下さい!」なんて言われたら自分の分は残らないだろう。

心の中で更に祈る。普段は神頼みなんてしないのだが、この時ばかりは何度も願った。「どうか自分の番が回ってきますように…」ってね。

そして漸く…


「そこのお兄さんは何本にする?」


店員さんの声が掛かった。

俺はすかさず「一本下さい!」と応える。

『やった、遂にマグロステーキが食べられる!』…俺は心の中で喜びの声を上げた。因みに、マグロステーキは俺の3つ後ろのお客さんで完売してしまった。本当に運が良かったよ。

食べられることに安堵したのか、漸くここでマグロステーキの味を想像してワクワク感が湧いてきた。


それから暫く待っていると、俺の番が回ってきて、店員さんがマグロステーキの串を舟皿に乗せて渡してくれた。

俺はその皿を受け取り、代金を払う。マグロステーキは一本500円だった。

キッチンカーの隣には小さな机が設置されていて、その上にペッパーミルやレモン汁のボトルなどが置かれていた。

料理人さん曰く、「このステーキ自体に下味にニンニク醤油を漬けてある」というので、俺はシンプルにそのままいただく。


「うおっ、これは凄えっ」


一口食べてからの第一声は「美味い」ではなく「凄い」だった。

というのも、普段焼いた魚といえば、水分が多少抜けて火が通った魚特有のしっかりした食感を味わえる物のはずだ。それが火を通した魚料理の常識であり宿命だ。


でも、このマグロステーキは違う。

焼いた魚特有の香ばしさがあるから焼けているのは間違いない。が、食感はマグロの刺身を食べているかのように瑞々しく、噛むとジューシーな肉汁が溢れてくる。

そう、「焼いている」のに水分が全く飛んでいないのだ。

ここでローストビーフや鰹のタタキを想像する者もいるだろう。しかし、その2つとは似て非なるものだ。正直、「食べてみないと分からない」というやつだ。


驚かされるのは食感だけではない。

味も勿論、美味だ。ニンニクの香りと醤油の深み…そしてそのニンニク醤油にも負けないマグロの力強い旨み。それが噛むたびに溢れる…いや、押し寄せてくる。


「瑞々しくて香ばしいマグロステーキ」……まさかこんな矛盾したような言葉が出てくるグルメに出逢えるとは思わなかった。


─── まったく…築地には驚かされてばかりだな。


築地グルメの美味しさと新たな可能性に、驚きすぎてもはや呆れてしまう。それほどに築地グルメは奥が深く、未知の味に溢れている。まだまだその味たちを楽しみたいものだ。

…とはいえ、今日のところはもう腹も心も満たされたので、それは次の機会にとっておこう。


「今度は給料が入った日に行こう。その時はもっと、お腹を空かせて…」




「徒然なる築地巡り」はこれにて一旦終了。

いやはや、築地メシには驚かされてばかりでしたよ。

特に今回のマグロステーキは衝撃的な美味さで、「もし店側の数量に余裕があればまた30分ならびたいか?」と聞かれたら、その時キゲンさんは迷わず首を縦に振ると思います。

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