徒然なる築地巡り コロッケ編
続いて向かったのは、玉子焼き屋のすぐ近くにあるといわれるコロッケ屋。
玉子焼き屋で焼きたてを買うため並んでいた時、お姉さんや外人さんたちが美味しそうにコロッケらしき物を食べながら歩いているところを何度も目にし、食べようと思ったのだ。
目的の店にはすぐに着いた。
分かってはいたが、中々の行列だ。
というのも、道行く人達が美味しそうに食べているのもあって、やはり人気があるらしくコロッケ目当てのお客さんがずらりと並んでいた。
かくいう俺もそのコロッケ目当てのお客さんの1人なわけで、そのコロッケを求めて出来た列の後ろに並び始める。
長蛇の列だったが、俺の番は思っていたより早くやってきた。きっと回転率とやらがいいのだろう。
俺は自分の番が回ってきた時にスムーズに注文ができるよう、メニューが書かれた札を眺める。
築地もんじゃコロッケに、ピリ辛もんじゃコロッケ…他にも明太もんじゃ、鮭もんじゃ、カレーもんじゃなどがある。
─── ん、待てよ?コロッケに…もんじゃ?どういうこと?ホクホクのポテトコロッケの上にもんじゃが乗っているとか?
俺はもんじゃコロッケなる物に疑問符を浮かべる。
だが、「案ずるより産むが易し」…色々考えるよりもそれを買って味わったほうが、この築地グルメを楽しめるというものだ。
─── よし、明太もんじゃコロッケにしよう。
こういう初体験のグルメには決断が重要だ。でないと、店の前で迷って決められなくなってしまうからな。
それに、仮にポテトコロッケに明太もんじゃが乗っているスタイルでも、明太とじゃがいもの相性が至高なのは知っている。きっと明太もんじゃが掛かっていても美味しいはずだ。
「明太もんじゃコロッケを1つお願いします。」
そう注文してすぐに揚げたてのコロッケが出来上がり、その上にピンク色の明太ソースが掛けて完成させる。
どうやら奥の厨房に人がいるようで、そこでいつでも揚げたてを提供できるようにコロッケを揚げてくれているようだ。
通りで列の進みが早いわけだ。
「はい、明太もんじゃコロッケね〜。」
そう言って店員さんは紙の包みに入ったコロッケを渡してきた。
俺はそれを受け取る。受け取った瞬間、真っ先に感じたのは匂いではなく…熱だった。
紙の包み越しにその熱がじんわりと伝わってくる。これは揚げたてでしか味わえない、手から感じられる味だ。
包みの中にはサックサクの揚げたてコロッケがあり、その上に明太のソースが掛かっている。
これが、明太もんじゃコロッケなのだろう。
だが…肝心のもんじゃが見当たらない。まさかこの明太ソースのことをもんじゃと呼んでいるのだろうか?
そんなことを考えながら一口齧る。
「…美味い!」
美味いとしか言いようがない。
ざくりと心地良い音を立てた衣の中から、ジャガイモとは思えないほどにとろりとした食感。これはジャガイモコロッケというよりクリームコロッケに近い食感だ。
「こいつは…」
ふと断面を見て気づいた。
衣の中からジャガイモではない、とろりとした淡い琥珀色の餡が流れ出てくる。
もんじゃだ、衣の中にもんじゃが入っているんだ。
サクサクの衣、とろみのある具沢山のもんじゃ、潮の香りが漂う明太ソースの至高のコラボレーション。ピンク色で愛らしい見た目とは裏腹に、強いインパクトを持った美味しくて面白いコロッケだ。
そこから俺はこの明太もんじゃコロッケをがっつくように食った。コロッケを齧るともんじゃが溢れ出て包みの底へとこぼれてしまう。そうして包みに残ってしまったソースともんじゃすら惜しいと思うくらいに美味いのだ。
俺はコロッケを平らげると、包みに残った明太ソースともんじゃをズズズと啜る。
道中でしかも人混みの中でその紙に付いたソースを啜るのはマナーが悪い。
が、マナーなんて気にしてはいられない。それで美味しいものを残してしまう方が損な気がするから。だから意地汚いと言われようと知ったこっちゃない。
俺は残ったソースも一滴残らず味わい尽くした。
「美味かった…」
まさかコロッケともんじゃの意外な組み合わせが、ここまで深い味わいを出すとは思わなかった。正直、このコロッケは全種類食べてみたい。きっとそれぞれ違う驚きと味わいを楽しめるはずだから。
だがそんなことをしたら数多の築地グルメを食べられずに終わってしまいそうなので、それは次の機会に楽しむとしよう。
─── さあ、次はどんな面白いグルメに出会えるだろう?
俺は次の驚きを求め、コロッケ屋を後にした。
築地の明太もんじゃコロッケはキゲンさんに新たな発見を教えてくれました。
まさかコロッケともんじゃがあれほど合うなんて…
きっと築地グルメは、そんな「食」に秘められた無限の可能性を教えてくれるのかもしれませんね。