日本の秋のご馳走、おこめ様
秋といえばどんな食材が思いつくだろう?
さつまいも,かぼちゃ,栗,柿の甘味四天王…椎茸やしめじなどのキノコ類…サバやサンマ、サケなどの魚たち…秋になると旨くなる物は数多く存在する。
だが俺にとって、いや俺たち日本人にとって忘れてはならない秋のご馳走がある。
それは…米だ。
秋といえば新米の季節。
日本の秋の香りをふんだんに吸った新米は、まさに秋の代表格と言えよう。
我が家では、毎年、最初に食べる新米のメニューが決まっている。昔からある米料理で、米の甘み旨みをストレートに味わえる料理…そう、おにぎりだ。
それもほんのり塩がついた塩むすびを食べるのが我が家のルールだ。この日は親父もお袋も早く帰ってきておにぎりが一番美味しい時に食べるのがある種の決まりになっている。
まあそんなわけでメニューも決まっているので、今日届いた新米を洗い、炊飯器いっぱいに入れて炊いていた。
あと5分で炊ける。気のせいか、新米を炊いている時のこの匂いはいつも食べる米のものとは違う気がする。
なんというか、玄米と似て非なる香ばしい秋の香りだ。この匂いに誘われてきっと2人ももうすぐ帰ってくるだろう。
ここだけの話だが、俺の両親は過去に一度新米で喧嘩が起きたことがある。
その喧嘩というのが、おにぎり論争だ。
親父は最初に食べる新米は「塩むすびを食べたい」派だったのに対し、当時のお袋は「梅干しや昆布の佃煮などを入れて食べたい」派だった。
今はというと…美味い塩むすびとの出逢いと親父の熱弁の影響もあって、お袋も毎年の初の新米は塩むすびで食べる派になった。
「「ただいま!」」
おっと、噂をすれば2人とも帰ってきた。
我が家のルール故か、それともこの匂いに釣られたのか
「おかえりなさい。」
「この匂い…正義、おこめ様は今どこだ?」
「お察しかと思うけど…おこめ様は今、この炊飯器の中でお待ちしているよ。」
と、興奮気味な親父の問いかけに答える。親父は初の新米を食べる時敬意を払いすぎて、新米を「おこめ様」と呼んでいる。
俺も親父の敬意とノリに合わせてそう呼ぶ。
まぁ呼び方がなんであれ、2人が帰ってきたわけだし、これで新米…いや、おこめ様を美味しく味わえるな。
ピロリラリラリ〜ン
2人が帰ってすぐ、炊飯器からメロディが鳴った。
ここから更に30分間蒸らす。
炊き上がったおこめ様をさらに蒸気のサウナに入れて、おこめ様の肌をふっくらと美しいものに仕上げるのだ。
この30分の間に親父とお袋を風呂で身を清める。秋のおこめ様に触れるのだから、失礼のないように体を綺麗にするのだ。
身を清め、着替えたら調理開始だ。
清めた手におこめ様を乗せたら、両手でそっと包み込むように握る。力加減からすると、握るというより「包む」と言った方がいいかもしれない。
おこめ様が押し潰されないように、かといって柔らかく包みすぎて崩れないように、絶妙な力加減で形を作っていく。
ある程度形作ったらふんわりとした優しい塩加減の「雪塩」をほんの少しまぶし、おこめ様に薄く雪化粧を施すのだ。
あとは化粧が馴染むようにまた包んであげれば、塩むすびの完成だ。
出来上がった塩むすびを自分の皿にそっと乗せ、また炊飯器でお待ちいただいているおこめ様をそっと手に乗せ塩むすびを作るのだった。
皆、自分が食べたい量の塩むすびを作ったら食卓に置き、自分たちも座る。
「「「いただきます!」」」
今日の献立は塩むすびのみ。
いつもなら栄養面を考えて色々なお菜を用意するが、今日は新米をたらふく味わう日のため特別だ。
早速俺たちは塩むすびを手に取り一口頬張る。
ふっくらと炊き上がったおこめ様は、もっちりとした食感を出し、噛めば噛むほど甘みが出てくる。また新米特有のこの仄かに香ばしい秋の香りが口の中に広がり脳を刺激しながら鼻から抜ける。この香りと味わいは米好きな日本人なら誰でも幸せになれるはずだ。
そしてほんのりと感じる雪塩の味が、おこめ様の旨み甘みを引き立たせ、更に美しい味に仕上げられている。
「やっぱり塩むすびは美味しいね。」
「…だろ?」
塩むすびを食べたお袋があまりの美味しさにそう言葉を溢す。
それを聞き逃さなかった親父は満足気に同調する。親父にとってあのおにぎり論争は自分の武勇伝でもあるからか、お袋の言葉に少々ご満悦の様子だ。
お袋はそんな親父のことなど気にも止めず、ただ塩むすびを堪能している。
それを見た親父も再びおこめ様の旨さに酔いしれるのだった。
新米の季節がやってきましたね。
皆さんは最初に食べる新米はどうやって食べますか?
シンプルに白飯?塩むすび?
きっと、色々な食べ方があるのでしょう。
日本人の体の源ともいえる米…その米が新米として登場するこの季節、皆さんも思う存分おこめ様を味わってみるのはいかがでしょうか?