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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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食欲解放、風林火山と陣中食

ついに来たぞ、食欲の秋!

書きたいことが一杯あって、どれから書こうか決められない…でも、最初に出したいのはこのお話。

食欲スタートにはもってこいのこの料理!!

秋と言ったら何を思うだろう?

運動の秋?読書の秋?それとも…食欲の秋?

俺は断然、食欲の秋だ。

読書も運動も好きではあるが、秋は旬の食べ物が沢山あるから、どうしても食欲の方が勝ってしまう。

これは、人間である前に生物ならば仕方ないこと。他の獣も冬を越すために、秋という実りの季節にたらふく栄養を摂る。

謂わば、本能で秋を感じる食欲は、運動や読書に勝ってしまうのだ。


そんな食欲の秋…

その最初の一歩は山や畑の幸をたらふく味わいたい。


そんなわけで、俺は今、友人と山梨に来ていた。山梨にはこの欲を満たせる最高の陣中食が存在するからだ。

その名は…「ほうとう」。

かつて、甲斐の戦国大名…武田信玄も食したと言われるほうとうは、食べ応えのある麺とたくさんの野菜をいっぺんに味わえるのだ。


目的の駅に到着すると、すぐ目の前にその店がある。が、今回行きたいのはその店ではない。

故にここから数十分歩くことにした。


「なあ、ここでよくないか?駅前にあるんだし、そこで食おうぜ?」


「ダメだ。今まで電車で座ってるだけだったんだ。もう少し腹を空かせるためにも歩かないと。」


そう言って駅から俺の目的の店に向かって歩き始める。

友人は食に関しては妥協することが多い。確かに食べる店の名は同じだが、せっかく山梨に来たのだから、もう少し景観が良いところで食べたい。これは妥協とか拘りとかそういうのではなく、ただの我が儘なんだが、本場のほうとうはもう少し自然の多いところで食べたいのだ。


2,30分くらい歩いた頃だろうか。動いたおかげで良い感じに腹が減ってきた頃、街並みに少々マッチしない和風な建物が見えてきた。

どうやら目的の店に辿り着けたようだ。


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」


「2名です。」


店に入り、店員さんに人数を応える。

この店に飲み物以外のメニューはなく、頼める料理はほうとうのみだ。だが、それがいい。

ほうとうとは一対一で挑まなければいけないからな。

そうして、ほうとうを2つ頼み、来るのを待つ。


待っている間に少し話をしよう。

武田信玄が掲げたといわれる文言、「風林火山」を知っているだろうか?

『その(はや)きこと風の如く、その(しずか)なること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如し。』……というものだ。

どうしてその話をしたかというと、俺にも、ほうとうを食す時に掲げている「風林火山」があるからだ。

『冷める前にいただくこと風の如く、色とりどりの野菜は林の如く、一心不乱に食らうこと火の如く、満たされた腹は山の如し。』

…武田信玄が掲げる風林火山と比べたら少々格好悪いだろうが、これが俺にとっての風林火山だ。


「お待たせしました。ほうとうでございます。」


こんな話をしている間に、もうほうとうがやってきた。これだけのお客さんがいるわけだし、頼む前から作り始めてくれていたのだろう。


ここのほうとうは専用の鍋で出してくれるので、鍋まで熱々の状態で提供してくれる。

まずは熱いうちに木製のレンゲで汁を掬い、一口飲む。


「はちぃ、はちぃっ…!」


「蜂?」


「熱いって言ってんだよ!」


猫舌な友人が出来たて熱々の汁を飲もうとして舌を火傷しそうになっていた。出来たてのものを鍋ごと持ってきてくれているからそれは熱いだろう。

かくいう俺も唇を火傷しかけた。

それでも口の中に流し込むと、野菜の旨みと味噌のコクが熱と一緒に口の中に広がる。

この店のほうとうの具材は…白菜,キャベツ,南瓜,大根,人参,なめこ、そして油揚げ。

それらの旨み、甘みがこの汁に溶け込み、味噌と混ざり合うことで極上のスープが出来上がる。


汁を一口ごくりと飲んだら、麺をいただこう。

ほうとうの麺は、きしめんのように太く、うどんのようにコシがある。

太くコシのある麺は噛めば噛むほど味わい深く、満腹中枢も刺激されるので腹も膨れてくる。やはりこの店まで歩いて正解だったかもしれない。


麺を食べつつ、合間に具材もいただく。

とろりと蕩けるように柔らかい白菜、その白菜と対をなすようにシャキシャキときた歯応えのキャベツ、ホクホクとしてほんのり甘い南瓜、柔らかく煮込まれた人参、旨い汁をよく吸った大根、味噌とよく合うぬめりを持たぬなめこ、汁を吸った肉厚ジューシーな油揚げ。

具材で肉や魚は入っていないのに、野菜と茸と油揚げだけでもの凄い満足感だ。

ほうとうの麺がなくても、これだけで一品料理として出せるほどに美味い。


色とりどりの具材と、具材の旨みが溶け込んだ味噌ベースの汁と、汁によく絡むコシのある太麺。この黄金の組み合わせは腹だけでなく幸福感も満たしてくれる。

友人もこの組み合わせの虜になったのか、さっきからハフハフと熱を逃しながら夢中になって麺啜り、野菜を食べ、汁を飲んでいる。

おっと、こうしちゃいられない、俺も自分の掲げる風林火山に則って、ほうとうを味わうとしよう。

そうして、俺も友人も夢中になってほうとうを味わった。

麺も野菜も食べ終わり、最後にはまだ少し熱い鍋に口をつけて汁まで飲み干す。唇が熱かったが、それよりもこの汁を最後まで味わい尽くしたいという本能が勝ったのだろう。


「食ったな。」


「ああ。じゃあ、そろそろ行くか…。」


俺達は空っぽになった鍋を見て、ほうとうを食い切ったことに満足感に浸りながらお会計をして店を出た。



「はあ〜、食った食った〜。」


「なっ、美味いかっただろ?」


「…だな。ここまで歩いた甲斐があったぜ…おかげで残さず食えたし。まあ、あれほど美味いなら、別腹というか別のスペースにするっと入ってくれそうな感じはするけどな。」


「ほ〜、それならもう一杯食いに行くか?俺はもう満腹だから食わないけど。」


「嫌だよ。いくら腹に入ったとしても、あの一杯と同じように味わえる気はしないしな。」


「…だよな。俺たちはほうとうを食いに来てるのであって、流し込みに来てるわけじゃないもんな。」


「そういうことだ。さっ、腹一杯になったし、腹ごなしに駅まで歩くか!」


「おうっ!」


そうして、俺達は満たされた腹を摩りながら、駅まで歩く。

秋はまだ始まったばかり。今年の実りの秋、食欲の秋も存分に楽しもう。


キゲンさんは山梨に行くと必ずと言って良いほど、某白いドームが目印のほうとう屋さんに行きます!

コシのある麺、味噌の塩気とよくマッチした汁と野菜…これはまさに、黄金の組み合わせ!

うどんや中華麺とはどっしりとコシのある麺は、お家ほうとうでは味わえない山梨の味!はあ、また食べたいな…

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