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徒然メシ  作者: 友好キゲン
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マッチポンプな熱々おでん

9月になってしまいましたが、このお話を投稿します。

まあ、まだまだ暑いし、問題ないよね…?ねっ?


日に当たらなくてもジリジリと焼けそうな夏。

やはりこの季節は暑くて敵わない。外に出て炎天下の中遊ぶのなんて耐えられる気がしない。


でも人類はそんな夏を涼しく過ごす遊びを思いついていた。それが水遊び、謂わばプールだ。

休日特にやることがない俺は、一人で近くの市民プールに向かう。


昼の12時くらいになると、1時間の休憩がある。普通は1時間に一度10分間の休憩があるのだが、この昼の時だけは1時間の休憩が入る。

夏とはいえ、屋外の市民プールだから、水着の格好でただ1時間待っているだけだと体が冷えてくる。そこで、プール内にある売店で何か買うのだ。カップラーメン、インスタントの味噌汁、他にもポテトチップスやチョコレートなんかのお菓子も売られている。

プールで遊ぶ人達はそこで食べ物を買って各々体を温めたり、小腹を満たしたりするのだ。


─── 体も冷えてきたし、腹も減ってきたし、俺も何か食べるか。


そう思い、水着のポケットにしまっていた200円を握り締め、売店に向かう。

カップラーメンのようなインスタント食品もいいが、この売店ではインスタント以外にも売られている温かい物がある。

それがこの売店の人気コンビ、「おでん」と「おしるこ」だ。


「こんな真夏におでん?おしるこ?」なんて思う人もいるかもしれない。

確かに2つとも冬限定の食べ物というイメージがあるだろう。だが、プールに限っては夏も旬になり得るのだ。

プールで冷え切った体に来る何気ないそよ風は、冬の凍える寒さと同じ体感だ。そして泳いだ後だから当然お腹も空いている。そこに「おでん」や「おしるこ」のような温かいものは最高の食べ物だ。

プールで身体が冷えたことによって美味しく食べられるという、所謂マッチポンプというやつだ。


俺は2つのうち、おでんを注文する。

売店では鍋に入ってふつふつと煮込まれたおでんがプラスチックのお椀に注がれて出される。

握りしめていた200円を渡して、それを受け取ってプールサイドにどかりと座る。

盛り付けられたおでんのタネは、だいこん,ちくわぶ,たまご,白滝の4つ。つゆも練り辛子もちゃんと入れてもらえた。


まずはつゆから。

お椀に口を近づけ、熱いつゆを一口いただく。プールで体だけでなく舌も冷えていたのか、つゆの熱さに火傷しそうになる。

つゆは濃口の醤油ベース。このしょっぱさが夏には有難い。

そして熱々のつゆをごくりと飲み込むと、つゆの旨味と熱が身体にじんわりと染み渡る。


大根は割り箸で4分の1くらいに切り分けて、1つ口に運ぶ。熱々の大根を一噛みすると、これでもかと吸ったつゆが染み出てくる。ハフハフと熱を冷ましながら咀嚼して飲み込むと、大根が腹の中をじんわりと熱くする。

喉元過ぎれば熱さを忘れると言うが、どうやらおでん…特に大根はこの言葉には当てはまらないようだ。

半分くらい食べたら練り辛子をちょびっと付けて食べる。つゆの旨みと共に練り辛子の辛さが頭にじんわりと刺激を与えて鼻から抜けていく。鼻に抜ける辛さに涙が滲み出てくる。

この売店のおでんで出される練り辛子は、店主自らが練ったもので、練ってから10分くらい置いた、辛さが最高潮になった状態のものを添えてくれる。故に箸先にちょびっと摘んだ程度の量でも充分辛さを感じられるのだ。


お次はたまご。熱々のつゆを泳いでいた固茹でのものを箸で摘んで豪快に齧り付く。

すると、卵の中で溜まったであろう熱が、齧り付いたところからほかほかと白い湯気を出す。

仄かにつゆの色に染まった白身は、色だけでなく味も染みていて美味い。固茹でならではのホクホクの黄身の弾力もつゆとよく合う。食べ応え抜群のたまごは、泳いで減らした小腹を満たしてくれる。

当然だが黄身は白身より小さいため、黄身はすぐに食べ終えてしまい、白身に小さな窪みが出来てしまう。

そうしたらその窪みに辛子をひとつまみ添えて食べる。アツアツの白身のプルプルとした食感と、染み込んだつゆの味、そしてつーんと辛い練り辛子。目頭を熱くしながらアツアツのおでんをいただくのもまた良いものだ。


プルプルと言ったらこいつは外せない、白滝。

白滝は束で結んであるものがドンと入れられている。

こいつは蒟蒻故にプルプルしすぎて辛子が上手く乗せられないが、結び目にちょこんと乗せることができれば芥子との共演を楽しめるだろう。

だがその共演を味わうのに1つ問題があった。

一口齧れば、結び目は解けてしまうことだ。

故に最初の一口が重要だ。芥子ありでいこうか、それとも無しでいこうか……悩ましいところだが、あまり悩んでいるとせっかくの熱々のおでんが冷めてしまう。


─── ここは思い切ってありでいこう…!


そう心に決め、箸先で芥子を摘み結び目に添える。そして箸で白滝を掴み結び目の部分にがぶりとかぶりつく。

白滝はつゆにあまり絡まないせいか、辛子の辛さが鼻にダイレクトに来た。

鼻にツーンとくる辛さが強すぎて鼻が痛くなってくる。ここでつゆをひと啜りすると、辛さが和らいでいき、鼻の痛みが治っていく。

相変わらず白滝は淡白な味わいの分、辛子がよく効くな。それが白滝の良いところでもあるのだが。


最後は締めに持ってこいの、ちくわぶ。

ちくわと違い、小麦粉を練って作るちくわぶは、つゆに浸かると水団のようにどっしりと腹に溜まる食べ応え抜群のタネだ。

たまごもお腹に溜まるが、水泳後の空腹を満たすのならちくわぶが一番かもしれないな。

まずはつゆと共に一口。

ちくわでは感じられないちくわぶ特有のねっちりとした食感が、つゆとよく絡んで美味い。

こいつには辛子をどばっと入れる。辛子蓮根のように、ちくわぶの穴に辛子を埋めていく。入れ過ぎかと思うくらいがちょうど良い。

辛子を詰め終えたら、そいつを一口で食べる。


「ぐおあぁぁぁっ…!」


……前言撤回、やはり入れ過ぎたようだ。

辛子の主張が強過ぎて、鼻と頭に熱と痛みが走り、思わず唸ってしまう。涙もぼろぼろと溢れてくる。つゆを吸ったちくわぶが、辛子を溶かし辛さに応戦して和らげてくれているが、それでも辛子の主張は止まらない。

痛く、熱く、それでもそのインパクトでおでんのタネの旨みが引き立つ。入れ過ぎると今みたいに唸ることになるが、この辛さが練り辛子の旨みなのだ。

だが辛過ぎてこの辛子をゆっくり味わえるほどの余裕がない俺は、急いで残ったつゆを飲み干す。

温かくなったつゆが旨味を残しながら辛子を辛さを流してくれた。


「ご馳走様でした。」


食べ終わり、器を下げる。

プールで冷えた身体はおでんと辛子の熱くなっていた。


─── これでまたプールの冷たさと気持ちよさを一から味わえる。


俺は休憩時間の終わりを心待ちにしながら、身体の火照りと夏の暑さを感じていた。


はい、というわけで夏に食べるおでんの話でした。

今回思い入れが強過ぎてちょっと長くなっちゃいました。

キゲンさんの地元のプールにもプールサイドに売店があったんだけど、色々と問題が起きた結果、今はプールの入り口の手前に移っちゃったんですよね…。

プールで食べるおでん…このマッチポンプがまた美味いのに、もう味わえないのが悲しいですな…。

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