田舎のご馳走、野菜の天ぷら
親戚のお泊まり最終日、今日の夕飯は豪華だ。
献立は、親戚のおばちゃんが作ってくれた天ぷら。直売所で売られる獲れたてで新鮮な野菜を使って作る天ぷらは、ここでしか食べられないご馳走なのだ。
今は台所からじゅわ〜っと奏でられる音が聞こえてくる。この音が食欲を掻き立てくれる。
作る時から既にこの音で味を感じられるのは、家で食べる揚げ物の醍醐味だ。
揚げ物のオーケストラが終わりしばらくすると、ちゃぶ台の真ん中にドンと天ぷらの山が運ばれてきた。
その山は、オクラ、ナス、大葉、にんじん、カボチャ、とうもろこしなどの色とりどりの天ぷらで出来た山だった。
まずはにんじんの天ぷらを1つ取り、口に運ぶ。
サクッとした衣と柔らかいにんじんの食感、新鮮なにんじんでないと感じられない土の香りと甘さが口いっぱいに満たされる。
新鮮なにんじんを細く切って束ねて揚げる……たったそれだけの手順なのに、にんじんがご馳走に化けるのだ。
油で揚がったニンジンは仄かに食感を残しながらも柔らかく、甘い。その甘さはカボチャやサツマイモの天ぷらと並ぶレベルだ。
「にんじんが苦手でもこの天ぷらだけは別だ」と言う子供もいるくらい、こいつは格別に甘く美味いのだ。
小さい頃、初めて親戚の家に行った時に食べて美味しいと言って以来、おばちゃんは毎年にんじんの天ぷらは必ず入れてくれる。
そしてにんじんの天ぷらは塩で食べれば酒も進むと言うことで毎度取り合いになるためこうして最初に食べるのだ。
にんじんの甘さを堪能したら、次はナスだ。
たわわに実った茄子は火を通すと果肉がとろりととろけるように柔らかくなりながらも、ジューシーな茄子の肉汁が溢れ出す。
ナスの天ぷらは塩でいただくと更に美味い。
ナスの水分が塩と適度にマッチして、夏で水分と塩分を失った身体に染み込んでくる。夏だからこそこの塩での旨みを体で感じられるのかもしれないな。
お次はとうもろこし。粒々のとうもろこしをかき揚げのようにまとめて揚げた物だ。
天ぷらの熱で甘さが増して美味い。これはもう天ぷらというよりスナックだ。
こいつには断然塩だ。天つゆも良いが、塩でいただくと、とうもろこしの甘味がより引き立って、お菓子と化す。これは西瓜に塩と同じ原理なのだろう。
オクラはどうだろうか…?
オクラの糸を引くような粘りが好きなのだが、ああいう粘りは火を通すと弱くなったり無くなったりする。オクラの天ぷらは果たして…
しっかりと粘りが残っていた。
オクラには天つゆだ。多少粘りがなくなってしまうが、天つゆによって食感で味わう「粘り」も味に変わるのがまた良い。
さて、天ぷら界隈の甘味に行く前に口の中をさっぱりさせよう。
その役目に向いているのが、大葉だ。
サクッとした衣に大葉の香りが口に広がり鼻から抜ける。本当はちゃんとした味わい方があるのかもしれないが、薬味の天ぷらはこういう食べ方しか分からない。
大人達からは「大葉もちゃんと美味さがある」と言われるが、正直分からない。
俺がまだまだ子ども舌なのか、「大葉は薬味である故にサッパリさせるもの」としか思えないのだ。
さあ、気を取り直して、最後はこいつだ。
自然な甘さを感じられる、カボチャの天ぷらだ。甘い天ぷらと言ったらサツマイモもあるが、俺は正直カボチャの方が好きだ。
しかもカボチャだけはおばちゃんが手塩にかけて育てた愛情も甘さもたっぷりなカボチャだ。甘くないわけがないだろう。
カボチャには初手から塩、それもカレー塩でいただく。塩のしょっぱさとカレーの風味が、カボチャの甘さをぐんっと引き立ててくれる。
「カボチャは甘いからあんまり食わない」と言う父も、このカボチャの天ぷらwithカレー塩だけは別だ。ビールを片手にカボチャ、カレー塩、ビールのトライアングルから抜け出せなくなっている。
皆が各々の食べ方で天ぷらにがっついているのを見て、俺も負けじと天ぷらに手を伸ばし、食べる。
「そんなにがっつかんでも、まだまだ一杯あるからね。」と、嬉しそうに言うおばちゃんの言葉に頷きながら、親戚と家族団欒で天ぷらの山を囲んで皆で天ぷらを味わうのだった。
田舎で食べる野菜は新鮮で美味いよね。
自分も昔東北に行った時にキャベツ食って感動したな…野菜って新鮮なものはめちゃくちゃ美味いのよ。
野菜から甘みを感じられるし、とうもろこしは砂糖みたいに甘いし……そりゃ、猪や鹿も食べに来ちゃうよって思いますよ。だが、こいつらは知らない…野菜の天ぷらが美味いことを…