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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第九章 ツンの底には…?
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「ピエタス様」


「その、き、き、今日は突然お時間をいただいて本当にありがとうございます! そ、そ、それじゃあご案内しますので! はい!!」


「えっ、あ、あー……」


 ちらりと視線を向ける。

 カーシャ様とカトリーナ様が目を丸くしていた。


 視線をデリアに向ける。


「それではまいりましょう、姫様。せっかく婚約者候補様がお迎えに来てくださったのですし!」


「え、ええ……?」


 勢いに思わず頷いたけど。

 あ、なるほど。

 ピエタス様はこの状況から助け出そうと勇気を出してくれたのか!


 察せなかった自分、まだまだである。

 さすがデリア、できる侍女はチガウネ!


「それではカーシャ様、カトリーナ様、失礼いたします」


「え、ええ」


「……し、仕方ないわね……ピエタス、しっかりエスコートするのですよ! ヴェイトス紳士として恥ずかしくない行動をなさい!!」


「は、はいぃ」


 カトリーナ様からの激励なんだか叱咤なんだかよくわからない声に肩を跳ねさせながらも、ピエタス様は私の手を取って一目散にその場を後にした。


 といっても広い庭園だ。

 端から端へと移動するだけでもう人の声は遠のくし、生け垣や噴水を間に挟んでしまえば姿だって見えない。

 この城にはたくさんの庭があって、たくさんの植物がある。


(サルトス様はそれがとても素敵だって褒めてくれたっけ)


 ここでの暮らしを楽しんでいると言っていたサルトス様は、カーシャ様に対して宣言していた通り堂々と園芸に勤しむようになった。

 勿論、それ以外にも植物学の勉強にも余念がない。

 非常に帝国での暮らしを満喫していると言っても過言ではないだろう。


(じゃあピエタス様は?)


 母国にいた頃よりは息がしやすいと言っていた。

 だけどそれはイコールで幸せという意味ではないということくらい、私にもわかっている。


 彼にとって学びたかったこと、プレッシャーをかけられないこと、役割があること、それら全てが帝国で叶っているけれど……それは本当にピエタス様が望んだ場所でのことではない。


 意に添わぬ婚約、それも期待されていない状態でただ『頑張れ』と言われるのは辛いだろう。

 でもだからと言って私に選ばれても、嬉しくないだろうし……私も、それを理由に選ぶようなことはしたくない。


「ピエタス様」


「あっ、す、す、すみません!」


 必死で我を忘れていたのか、私の手を掴んだままのピエタス様は呼びかけにハッとした様子を見せて慌てて手を離した。

 その顔は、髪色と同じくらい真っ赤だ。


「大丈夫ですか? ……ありがとうございました」


「あっ……い、いえ。よ、余計な、お世話かと思った……ん、ですけど」


 軽く下を向いて困ったような笑みを浮かべて、一歩下がる。

 ピエタス様は、いつだってそうだ。


「わっ?」


「ピエタス様、私を見てください」


「えっ、えっ……?」


「私はここにいます。私を、見てください」


 ピエタス様は優しい。

 いつだって優しくて、人の話を聞いて、嫌なことも何もかも全部呑み込むのに『嫌いだ』って誰かを切り捨てることができなくて、だから全部諦めちゃうんだ。


 彼の目は、フラットに周りを見ている。

 誰もが彼にとって等しく(・・・)優しくする相手なのかもしれない。

 ……嫌われたくないから。


「ピエタス様、私のことを見てください」


「……ぼ、僕は」


 目深に伸ばされた前髪の奥にあるピエタス様の青い目が、困っているのが僅かに見えた。

 それでも私はなんだか悔しかったのだ。


 私もまた、彼を困らせている一人だとしても。

 それでも、それを『仕方がない』って受け入れられてしまったことが、悔しく思ったのだ。


 まるでピエタス様を見ていると前世の私を見ているようで、たまらなく悔しかったのだ。


(ああ、私はなんて身勝手なんだろう)

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