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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第九章 ツンの底には…?
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 ピエタス様は、人族の国ヴェイトスにある侯爵家の出身。

 末っ子の五男で見た目は真っ赤なくせっ毛がふわふわしていて、ちょっぴり猫背の十二歳。

 私の二つ年上だけど、ちょっとだけ小柄で身長は私よりほんの少しだけ上で、いつもオドオドしている印象があった。


 本を抱えていることが多くて、きっと読書家なんだと思う。


「ピエタス様は、帝国での暮らしで困っていませんか?」


「は、はは、はい! も、問題ありません! よ、よくしていただいてます……」


「ならよかったです」


 カトリーナ様の件が落ち着いてようやくお茶会をするようになって、ピエタス様も断ることなく現れてお喋りをするようになってくれたのだ。


 少々どもりやすいのは元々らしく、人見知りもあってお恥ずかしい……と照れる姿が可愛いのよ!


「あら? ピエタス様、手に……それは絵の具ですか?」


「えっ! あ、あ、す、すみません! あ、洗ったつもりだったんですけど……」


「いいえ、大丈夫です。絵を描かれるんですね」


「は、はい。しゅ、宗教画を……」


「まあすごい!」


 本当にすごいな!

 私なんて絵を描いたらシアニル兄様に『……それは抽象画かな、うん、ヴィルジニアは独特の感性を持っているんだねえ!』ってフォローにならないフォローをもらったことしかないよ!

 前世でも今世でも美術の先生には『努力は認める』って言われるんだーははは。

 ごめんなさいね! 美的センス壊滅的で!!


 絵だけじゃなくて粘土も彫刻も私の苦手分野ですけど!?

 兄様の絵や彫刻を見ても『すごいね』しか感想が出ない凡人ですけど!?


 もうね、描けるってだけですごいよ……称賛しちゃうよ……。

 あ、でも今世では音楽の方で褒められることも多いしダンスも踊れるようになったので無才能ってわけではない。フフン。


「ピエタス様は宗教画に興味があるんですね!」


「あ、は、はい……そ、その、婚約者候補にしていただいている、のに……あれ、なんですけど」


「はい?」


「こ、ここ、これだけ、は……言わなくちゃって、ずっと思ってたんです」


「……ピエタス様?」


 普段のピエタス様はカトリーナ様がすごくお喋りってこともあって、聞き役に徹するって言うか……そういう雰囲気で。

 最近お茶を一緒に楽しむようになって他愛ない話をする時も、大抵私が話しかけてピエタス様が受け答えしてっていうのが、私たちの間での流れだ。


「ぼ……ぼく、は宗教学、が、好きで……、だから、その、宗教画を描くのも、その好きの先で……」


 もごもごと口元を隠すようにして話すピエタス様は、私と目を合わせない。

 多分、彼にとってはこの話をすることが勇気の必要なことだったのだろう。

 どうして学びたいことを話すことに勇気が必要なのか、それは私にはわからない。


 だけど、一生懸命話してくれている姿に私は背筋を伸ばしてきちんと話を聞こうと思った。


「祖国、では。僕、は……末っ子の、お荷物、だったから。期待も……されてなくて。本当なら、こ、こんな大国の……姫君と、会うことさえ……ままならない、くらいで」


「ピエタス様、ピエタス様」


「は、はい!」


「手を貸してください」


「えっ……こ、こう、ですか?」


「はい!」


 差し出された手は、震えていた。

 そこかしこに絵の具の跡があるのは、きっと私とのお茶会に遅れないよう絵を描いている途中で慌てて来てくれたのだろう。


 時間ギリギリまで、つい忘れてしまうほどのめり込んでしまうくらい、ピエタス様は宗教学に興味があるんだなあとそれだけで感心してしまった。


 そして私はギュッとその手を握る。

 どうせ子供同士の戯れだ。周囲からもそう見られていることはわかっている。


 もう少し年齢が上同士だったなら……別の意味合いも出てくるでしょうけれどね。

 十歳くらいで初恋なんて珍しい話じゃない。

 前世だと早い子は幼稚園から一途に恋していた子だっていた。


 まあ私には……そういうの、なかったけど。


「ピエタス様が描いたという絵もいつか見せてくださいね!」


「えっ……」


「カトリーナ様やご実家から、あれこれ言われていると思うんですよ。私も早く婚約者を決めろとかそういう雰囲気あるし。ピエタス様もそうでしょう?」


「そ、そ、それは……その、はい……」


「でもね、サルトス様もお花をたくさん育てながら私と仲良くなれたらいいって仰ってるし、ピエタス様もこの国で宗教学を学びながら私と仲良くしてくれたら、嬉しいです」


 そうだ。

 ピエタスはかつての私と同じ。

 いないも同然の扱いなのに、責任だけ押し付けられている。


 だけど、この国に連れてこられたことでそういった圧から少しでも逃れて好きなことができるなら、たくさんしていってほしいと思うのだ。


「カトリーナ様については大丈夫! ヴェイトスの人たちも、こうやって私たちが仲良くしてたらきっと文句なんて言いませんよ!」


「そ、そそ、そう……で、しょうか……? そう、かも……?」


「そうです!」


 私の勢いに押されて首を傾げ始めるピエタス様。

 押しに弱すぎないかな? チョロすぎて大丈夫かな? って心配になった。


 でも私はにっこり笑顔でピエタス様の手を、両手で握る。

 必殺、美少女スマイルだ。


「今度はお茶会だけじゃなくて、大聖堂や図書館に行くのもいいですね!」


「は、はい……!」


 ピエタス様が髪の毛と同じくらい真っ赤になるのを見て、私も満足だ。

 兄様たちならこの方法でイチコロだけど、それが他の人にも効くかどうかはわからないじゃない?


 まあ少なくともピエタス様が卑屈になったり勉強にのめり込みすぎて不健康にならないように、今後は外に連れ出す計画を立てようかなと改めて脳内で計画を練るのだった。


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