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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第八章 エルフの価値観、私の価値観
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 手を繋いだ私たちは、庭園の小径を行く。

 広い庭園だから、お茶会をするような四阿(あずまや)から先に進んでもまだ庭園。

 サルトス様に目的があるようには見えなくて、ただなんとなく……あの場から、とにかく脱したかったんだろうなとは思った。


 でもね、でも……。


「サ、サルトス、様……! 早い……!!」


「あ……」


 そうなのだ、十五歳の男の子と十歳ではコンパスの差がだね……!

 決して私が短足ってわけじゃないぞ!?


 私が声をかけたことでサルトス様はそっと手を離して、頭を下げた。


「すみません。夢中で……」


 胸の前に持って行ったその手が、震えているのを見て私は首を傾げる。

 先ほどまでカーシャ様を前にあんなに堂々としていたのにどうしてだろうか。


「サルトス様、あそこの噴水のところで休憩しましょう?」


 止まってくれるならそれで大丈夫。

 私の腕にくっついていたソレイユも賛成するように「キュウ」と鳴いた。


 提案に少しだけ困ったような笑みを見せてくれたサルトス様は、これまで茶会で見せてきた余裕なんてなくて、育てている植物の話をしている時みたいに……なんていうか、普通の男の子みたいだった。


 いや、普通の男なんだけど。超美形な。


 そうして私たちは噴水の傍にあるベンチに座った。

 サァアっていう水の音が、涼やかだ。

 色とりどりの花と穏やかな風が走って疲れた体を癒やすみたいだった。


「……初めて、あんなに強く自分の意見を言葉にしたんです」


「サルトス様」


「いつか……いつか言ってみたいなって、もっと幼い頃は思っていたけれど。この国に来る前には、もう言っても仕方ないんだろうなって、ずっと思っていて」


 サルトス様は、きっと諦めていたんだろうと思う。

 もし私との婚約話が出なかったら、今もアルボーの町中で『可哀想な男の子』として周囲から大事にされていたのだろう。


 サルトス様は、決して可哀想じゃないのに。

 自分の足でどこでも行けて、自分の頭でものを考えられるのだ。

 それがエルフらしからぬってだけの話。


(でも価値観ってやつは、難しいんだろうなあ。エルフだからとか、人間だからとか……魔族だからとか、獣人だからとか、みんな好きに生きることができたらいいのにね)


 でもそんな単純なことが一番難しいってことくらい、私にもわかっている。


 親を、家族を、心配してくれる友人を、近所の人たちの……そんな気持ちを無下にもできず、優しいから全部受け入れて自分が我慢すればいいって思ったのだろうなって思った。

 前世の私も、もしも親がそうだったらきっと我慢してたろうなって思うから、わかる気がした。


 結果としてそんなことはなかったからあくまで想像でしかないし、そうだったとしても未来は違ったかもしれないけどね!


「……ずっと、僕は僕の道を歩んでみたいと思っていたんです。もう諦めていたつもりでした。その気持ちは枯れてしまったのだとばかり……」


「え……?」


「でも、アリアノット様と話をしているうちに、思い出すことがたくさんあったんです。一緒に土いじりをして、葉が、茎が伸びることを喜んでくれて。僕らは、自然に活かされています。確かにその通りです」


 エルフが語る、自然の中にあるという私たち。

 それはきっと正しいんだろうなって私も思う。


「作った自然だとしても、そこに命があれば精霊は宿るんだと思います。これまで僕はドラゴンの声なんて聞こえませんでした。でも今ははっきりと、ソレイユの言葉がわかります」


「……ちなみに今はなんて言ってるんですか?」


「キュゥゥ~ウ。キュキュッ、キュゥー!」

 

「眠いから早く戻ろうって。……僕はとっとと自分の部屋へ戻れ、ですって」


 幾分か低くなった声でそう伝えてくるサルトス様に、私は思わず焦ってしまった。

 もしそれが正しいならうちのペットが大変失礼いたしました!


「ちょ、ちょっとソレイユ?」


「キュッ」


 そしてまるでそれを肯定するかのように尻尾でペチペチとサルトス様を追い払うみたいな仕草をしてみせるソレイユ。

 挑発的だね!?


「す、すみませんソレイユが……」


「いいえ。ソレイユは本当にアリアノット様のことが大好きなんです。……今日はすみませんでした。また後日、お時間をいただけたらと思います」


「は、はい! また……」


 もうすっかり落ち着きを取り戻したらしいサルトス様は優雅にお辞儀をして去って行ってしまった。

 残された私はただ呆然とするばかり。


「……結局、何がどうなったのかさっぱりわかんないや……」


 賢くなりたいなあ。

 そう思うのだった。


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