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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第八章 エルフの価値観、私の価値観
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「カーシャ様、歓談中失礼いたします。ソレイユがどうしてもアリアノット様に会いたいと言うものですから」


「ソレイユ、とは……姫が育てているそのファードラゴンの名でしたね」


 ちらりとカーシャ様がソレイユに視線を向ける。

 ソレイユは素知らぬ顔で私に甘えるばかりだ。うん、可愛い。


 ふわふわのソレイユはそれでもドラゴンだから、私以外の人があまり構うと最終的に魔法を使ったり炎を吐いたりと結構過激なんだけど……私が傍にいたらそんなことはしないけどね?


(でも、今サルトス様はなんて言った? ソレイユが『会いたい』って言ったって?)


 ドラゴンの中には意思疎通できるようになる種族もいるって話だけど、それは成長したドラゴンの話。

 まだ幼いソレイユは該当しないはずで……私を探して窓のあたりをガリガリしていたのだろうか?


「カーシャ様、僕はどうやらドラゴンの言葉がわかるようで」


「何?」


「精霊の姿は見えませんし、言葉も聞こえません。時折その影を感じ取れるかどうかすら怪しいもので、エルフとしては確かに哀れかもしれませんが……」


 サルトス様がちらりとソレイユに視線を向ける。

 ソレイユは仕方がないなあと言わんばかりに軽く体を揺らして、サルトス様が伸ばした手に乗った。


「ファードラゴンが主人以外の者の手に乗った……?」


 カーシャ様もすごく驚いていたけど、私も驚いてしまった。

 これまで父様や兄様たちがいくら構ってもツーンとしてたソレイユが、私に言われないでもサルトス様の手に乗ってあげるだなんて!


「す、すごい! サルトス様……!!」


「ふふ、これまでもソレイユとは話をしていたんです。まあ大抵が貴女と自分がどれだけ仲が良いかという自慢でしたが」


「えっ」


 なんだかサルトス様の笑顔が怖いしソレイユもなんだか挑発的なんですけど?

 仲良しなんだよね?


「……サルトス、ドラゴンの言葉がわかると言いましたね? それは本当に?」


「はい。ただ全てのドラゴンかはわかりません。少なくともソレイユとは会話できていると思います」


「そう……」


 カーシャ様が何故だか感慨深そうに微笑んだ。

 なんでだろう?

 聞いていいのかわからないし、ソレイユが私の首元でずっと擦り寄ってくるから口も開けない状況なのがなんとももどかしい。

 いや可愛いけど! ふわふわ気持ちいいけど口の中に入っちゃうからあ!


「多くのドラゴンは人と言葉を交わせない獣に成り下がりましたが、本来のドラゴンはこの世界の調停者、調整役と言われています。彼らが望むべき相手とだけ言葉を交わすとされていますが、それはあくまで彼ら主体。ごく稀にそうでなく、竜種と魂の繋がりを見出し調停者の役割を担う、もしくはそれを手助けする者が現れるといわれていますが……そう、サルトス、貴方が」


「僕はそのように大層な者ではないと思います。ですが、エルフらしからぬ僕をエルフとして扱うアリアノット様のおそばにいられたら、僕は僕らしくあれる気がします」


「……」


(えっと? なんのこっちゃ……?)


 エルフらしからぬってのはおそらく価値観、花を育てたりするってことよね?

 でもまあそれでもサルトス様は彼が思っている以上に〝エルフ〟だと思うんだよなあ、私から見たらだけど。


 しかしそれはあくまで私の観点からであって、純エルフであるカーシャ様からは足りないと思われていて、あれ? あれあれ? わけがわからなくなったぞ!


 でもなんかまあカーシャ様がサルトス様のことを認めたってことなのか?

 ついでにサルトス様がなんか私のことヨイショしてくれた感じ?


「お前はエルフとして不幸せな人生を送るのかと、わたくしはただそれが心配で」


「ええ。あの国(アルボー)にいればそうだったと思います。僕を哀れむ両親、姉弟、親戚、周囲の人々……だけれど、ここではそれがありませんから」


「……」


(あれ?)


 まるでその言葉は、サルトス様が責めているみたいだ。

 同じように思ったであろうカーシャ様も、驚いた顔をしている。


「カーシャ様のように優れた精霊の担い手でありたいと願ったこともありました。……ですが、もういいんです。僕は、僕の足並みで行こうと思っておりますので。行こう、アリアノット姫」


「え? えっ、は、はい! その、失礼いたします第三妃様!!」


 サルトス様に手を引かれるまま、私は不格好にお辞儀だけしてその場を去る。

 カーシャ様は、何も仰らなかった。


 咎めることも、止めることもしなかった。

 肩ごしに振り返った時、カーシャ様はただ私たちを呆然と見ているだけだった。


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