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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第七章 婚約者選びは波乱の予感
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 二人から連絡をもらって、その二日後にオルクス兄様がいらっしゃった。

 とても疲れた顔をしていた。どうした。


「……気にするな。母上との会話は疲れるんだ」


「え、そうなの?」


「あの人はこの国の妃ではあるものの、心の随からエルフなんだ」


「?」


「……エルフたちはかなり特殊なんだよ、ヴィルジニア」


 オルクス兄様の母といえばエルフの国アルボー。

 山を挟んで向こう側にあるという自然豊かな国で、精霊と共存する種族であるエルフが多く暮らしているという。


 彼らは独特な種族だとシズエ先生は言っていたけど……。


「エルフ族にとってこの世界というのは、エルフと自然、そしてエルフ以外の種族という考え方なんだ」


「ちょっと意味がわからないんですけど」


「そうだな、私もわからない」


 私の率直な意見にオルクス兄様も深く頷いてくれた。


 とはいえ私よりは理解しているであろう兄様は、ざっくりと教えてくれた。

 エルフ族にとって精霊が見えること、それは大前提なのだとか。

 彼らにとって精霊が『見える』ことが当たり前なので『見えない』人々のことは同じ種族であろうがなかろうが哀れな人々、ということらしい。


 うん、よくわからない。


「見えないことで差別をしたり虐げたりということはない。ただ可哀想だと哀れむだけだ」


「それはそれでどうなんだろう……」


「まあ、そういう価値観なんだ。母上は大精霊とすら心を交わす生粋のエルフ、そしてサルトスは見えない子供だった」


「……」


 あくまで人間とエルフ、隔絶しすぎず関係を保つための橋渡しとして嫁いで来た第三妃カーシャ様。

 オルクス兄様に言わせれば、皇帝との間にあるのも『契約』のようなものだし、親子としての愛情は感じるけれどそれも親という〝役目〟としてまるで苗木を育てるような目で見られているような気分になるのだとか。


 勿論それは適当だったとか、手をかけてもらっていないとか……そういう意味ではなくて、ちゃんと相手もしてもらったし教え導き、誤ったことをすれば窘めてもくれたらしいのだけれど……なんとなく、違うのだそうだ。


(難しいなあ)


 まあなんにせよ、母と息子の間にトラブルを抱えているというわけでもないからそこは心配しなくてもいいらしい。

 カーシャ様が外交に力を入れているのも、帝国に嫁いだエルフとしての役割なのだそうだ。

 そうやって『エルフは他種族ともきちんと関係を築ける』ということを大陸中に知らしめていると、そういうわけなんだとか。

 ついでに保守的なエルフに対しても大精霊と心を通わせることができるカーシャ様が活動することで他の若いエルフたちへの指針となるのだとか。

 でもエルフはエルフだから、エルフらしくあればそれで幸せと……なんのこっちゃ?


「母上は私の他にもニアがエルフの婿を取ってくれれば、今後もアルボーの若者たちにとってより良い選択肢が生まれると考えているようだ。サルトスのような〝哀れな子供〟たちが母国で困るよりは確かにいいんだろうが……」


 精霊が見えないと、アルボーではそんなに苦労するのだろうか?

 今一つ価値観がよくわからない。


 だけどオルクス兄様はとても疲れているのか、私のことを愛称で呼びながら気がつけば抱き上げて頬ずりまでして来た。珍しい。


「サルトスは穏やかないい子だ。確かにそれは私も同意するが……だからヴィルジニアに似合いだと言われても納得はできない。二人の関係は二人のものだ」


「うん」


「母上はお前が『精霊を見ることができる』子だからこそ、サルトスと娶せたいんだ。二人の子は再び精霊を見るかもしれない、そうなればサルトスは幸せなのだと……」


「うん……?」


 わけがわからない(三度目)。

 多分兄様も頭が痛かったんだろう。


「兄様、お疲れ様……」


「ああ……少々疲れたよ。だが、サルトス自身がヴィルジニアと関係を築かなければどうしようもないことだと告げればなんとか納得してくれたようだ」


「ありがとう、兄様」


 エルフの価値観、ねえ……。

 サルトス様はこれまでカーシャ様が話す中、相槌を打つ程度にしか言葉を発さなかった。

 もしかしてほぼほぼカーシャ様の意見に同意っていうことだったら会話が成立するのか不安だ。


 (頑張れるかな、私……)


 一癖も二癖もありそうな婚約者候補たちを前に、私の心が折れそうだ!

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