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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第六章 小さな姫の大冒険
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「そういえばさっき、神父様があちらの建物は怪我をした人たちがいるって……」


「ええ、そうです。この辺りには病院が少なく、地元のお医者様にお願いして往診をしていただくのが一般的なのですが……この教会には、身寄りのない方など、ご自身でどうにもできない方をお預かりすることもございます。先ほど神父様とお話していた方が、往診に来てくださっているドーソン医師ですわ」


「それは公費で賄えているのか?」


「正直なところ、厳しいとしか申しようがございません。町の方々が善意で食糧などをわけてくださって、ぎりぎりというところでしょうか……ドーソン先生もお忙しいでしょうに、いつも気にかけてくださって……。これも神のお導きにございましょう」


 パル兄様の問いかけにシスター・ルーレは困ったような笑みを浮かべながらそう答える。

 まあそりゃそうだろうなって思う。

 身寄りのない人で働けないほどの人がこの教会に集められているのだとしたら、教会に寄せられている寄付で基本的には賄っているはずだ。

 とはいえ教会の総本山に国からお布施を出していて、それが分配されているって話だけど……国内にある教会全部に配ったら、結局雀の涙ってところじゃなかろうか。

 全体でまとめたら大きな金額だろうけどね。


 必要なところだけにピンポイントに……ってのは現状、難しいんだろうなあ。

 政治ってそういうところが難しいから適当に考えずに候補者の主張とかを読んでちゃんと投票に行けよって言ってた先生のことを思い出すなあ。


 結局よくわかんないしまだ私は成人してないからいっか! くらいの甘ったれた考えだった前世の私よ、あの頃もっと社会の勉強を頑張ってくれていたら私ももう少しだけ皇女として脳みそが役立ったかもしれないのに……!!


 残念ながら私の中には歴史とか公民とかを『習った』ことしか記憶にない。

 内容? いえ、それはちょっと……。


「ねーえ、シスター・ルーレ。行っちゃダメって言われたけど、ちょっとだけ私、治癒魔法が使えるの。ほんのちょびっとだけ。お見舞いに行ったら、だめですか?」


「まあ、回復の……素晴らしい才能をお持ちなのですね。きっと優しいお心をお持ちゆえに、神が授けてくださったのでしょう。……ただ、あちらには重症の方もいらっしゃるので、一応神父様に確認を取って参ります」


「悪いな、妹が無理を言った」


「いいえ。皇族の方に気をかけてもらえたと知れば、皆の心の支えにもなりましょう」


 そうだ。

 私は本当に『ほんのちょびっとだけ』しか治せないが、私が行動をしたという事実がどこかで役に立つかもしれない。

 シアニル兄様は言っていた、私たちが興味を持つとそれに対して気に入られたいと思う人がいろいろと(・・・・・)行動してくるって。


『迷惑なことも多いけどね、それを利用するってことを覚えると役に立つかもよ』


 聞いた時には五歳児に何を教えてんだこの兄はって思ったもんだけど……今こそそれが役に立つ時では!?


 そう、皇帝が溺愛する第七皇女アリアノット=ヴィルジニアは教会の活動に興味津々です……ってね!

 そして私がここで医療の現場を見て心を痛め、父様に訴える……まではしなくてもいいかもしれないけど、そうした話が回れば私にではなく(・・・・)父様に気に入られたい貴族たちがこぞってこうした人々のために寄付をするのでは?


 もしくは、お抱えの医師を派遣するとか。


 今のところ私自身は、貴族たちとの繋がりってないのよね……。

 公式行事らしい公式行事に参加したのだって、この間のクラリス様たちをお出迎えしたあの時くらいじゃない?

 そう考えると宰相と父様の侍従、それから一応将軍の顔はわかるけどそれ以外はわかんないんだよなあ。


 もっと大勢貴族っていると思うし、あのお城の中にはたくさんいると思うのに……いやあ、不思議不思議。

 五歳児ゆえに私の世界はまだまだ狭いな。

 まあこれから広げて行くにしても助けになる人を見定める目を養わないといけないっていう難題が待っているわけだけど。


「……お前、意外と(したた)かだな」


「シアニル兄様が教えてくれました」


「アイツか。あんまりそういう姑息(こそく)な手を覚えてほしくねえけど……まあ使えるもんは使ってなんぼか」


「兄様お口が悪いのよ?」


「お前に言われたくねえわ」


「ぷぎゅー」


 両ほっぺを親指と人差し指で挟むようにするもんだから変な声が出たじゃないか!

 兄様がケラケラ笑いながら私のほっぺをモチモチするもんだから、グノーシスが止めるべきかどうか困っている。


「お待たせいたしました、両殿下。神父様から許可をいただきましたが、幼い殿下にはお辛いところもございますのであまり奥には行かれませんようにとのことです」


「ああ、そこの判断は俺がする。いいな? ヴィルジニア」


「はい!」


「殿下たちは本当に仲がよろしゅうございますねえ」


「仲良し!」


「あーはいはい、仲良し仲良し」


 シスター・ルーレがそう微笑ましそうに笑うので、私は満面の笑みを浮かべる。

 なんだかとっても嬉しかったから。


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