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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第五章 私にできること
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 目が覚めると、部屋の中は暗かった。

 そのことに『ああ、夜なのか』とどこか冷静にそう思ってからハッとする。


「シエル……!」


 私は気づかなかったけれど、室内には医師もデリアもいた。

 なんかわかんないけど部屋のすみっこには箱が山積みにされていた。なんだあれ。


 部屋を見回すけれど、フクロウの姿はない。


「あ、シエル、シエルは? デリア!」


「シエルならば別室で休んでおります。大丈夫です、アリアノット様。大丈夫ですから……今は姫様の方が」


「大丈夫? ほんとに? だいじょうぶ?」


 息が、荒くなっているのを自分でも理解できた。

 デリアが私のことを心配しているのもわかる。


 だけど、そうやって冷静な私よりも感情的な私が前に出る。

 どうしようも抑えられなくて、ああ、これが幼さ(・・)ってやつなのかとまたどこか遠くで冷静な自分がそう思った。


「ニア!」


「と、さま……」


「ニア、ニア! 良かった……目が覚めたのだな。本当に良かった」


 ぎゅうっと抱きしめられて、ヒゲがいつものように痛くて、そのことにほっとする。

 ほっとすると今度は涙が出てきて、よくわからないぐちゃぐちゃな感情のままに縋って、泣いた。


「うえ……うぇええええん!」


「ニア……よしよし、大丈夫だぞニア。父がいるからな。怖いことは、何もない。大丈夫だ」


 ただただこれがどうして泣いているのかも説明できない私を、ただ父様は抱きしめてくれた。

 その手が優しくて、泣いてもいいのだと思ったらまた泣けた。


 そうしてしばらくただただ泣いて、お医者サマに苦くない薬湯をもらって、私はようやく今の状況を教えてもらった。


 どうやらあの私が魔法を使ってシエルの苦しみを和らげたいと願った日から、なんと私は丸二日眠っていたらしい。

 そして同様にシエルも。

 同じ部屋にいないのは、シエルが人の姿に(・・・・)戻った男の子(・・・)だからだ。

 皇女の側仕えと言い訳はできるだろうが、それでも同じ部屋で休ませるには無理がある。

 私が必死にシエルを守り続けていたことは父様も知っていることだったし、私が倒れるまで回復魔法を使い続けたシエルに対して父様も処分は考えていないとのこと。


 そこには心底ホッとした。


 サイドテーブルには例の増幅機能魔石があしらわれたネックレスがあったけれど、壊れていた。

 これについての推察は、相手の魔力が逆流した結果ではないかとのこと。

 ちなみにアル兄様とパル兄様の見立てなので、まず間違いないと思う。


「シエルは……これから、どうなるの?」


「そうだな、まずは小僧から話を聞かねばなるまい。目を覚まさねば何も始まらんが、医師によれば身体に異常はないそうだ」


「そっかあ……よかった……」


「その上で小僧がどうしたいかにもよるが、お前の側付きとして正式に任じることもやぶさかではない」


「父様!」


 なんと嬉しいことだろうか。その苦虫をかみつぶしたようなお顔じゃなきゃ最高ですよお父様!

 いいえ、最高のプレゼントだわ!!


「ありがとう、父様。大好き!!」


「ははは任せよ」


 私の大好きという言葉一つでこんなにも機嫌を直してくれる父親に、本当に愛されているって実感してまた涙が出そうだ。

 前世での父ってのは母親のヒステリーが怖いから私を視界に入れず、お金が足りないなら可愛い娘より労働力の娘がいるじゃないかって人だったから。


 今世の父はどうだろうか。

 権力フル活用で娘のためになんかしちゃいそうなところは怪しいけれど、それでも抱きしめてくれて私自身を、活用できるかどうかじゃなくて一人の子供として見てくれる。

 私にとって望んだ、父親の図そのものだ。

 権力はいらなかったけど。ないよりはいいのか?


(今回のことを考えたら、あったほうがいいんだ。私だけなら、シエルを守れないかも知れないもの)


 皇女だったからこの庭に落ちたシエルと出会えた。

 身元もわからない不思議なフクロウを飼うことも許されたし、鳥人族だとわかってからは兄様たちも守ってあげようと言ってくれて頼もしかった。


 今は、父様も味方。


(私には味方がいっぱい)


 この手はまだまだ小さくて、ふくふくで、頼りないけど。

 でも私がシエルを守るなら、父様たちは私ごと(・・・)シエルを守ってくれるに違いない。


「ふふ」


「どうした?」


「ううん。私の父様はかっこ良くて素敵だなって、嬉しくて、なんでだろ、涙がね」


「……ニア」


「涙が出ちゃうの」


 ああ、ああ、この嬉しい気持ちをどう表現したらいいのだろう。

 愛されるということは、こんなにも胸がいっぱいになってしまうなんて!


 私はこの溢れた気持ちが少しでも伝わりますようにと願って、父様の首に縋り付くようにして抱きつくのだった。


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