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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第五章 私にできること
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 シエルが何に対して動揺したのか、私にはわからない。

 クラリス様とウェールス様についてだろうかとも思ったけれど、その二人の名前や特徴を言ってもシエルは特別な様子ではなかった。


(人を、女性を探しているって言ってからだ)


 十年前に行方不明となってしまったウェールス様の妹、そしてクラリス様の弟君の想い人。

 何も知らされないままに権力争いに巻き込まれてしまった、ただの女性。


 同じように追いかけられた身として鳥になったその日のことを思い出して苦しくなってしまったのだろうか?


 言葉が交わせないことがこんなにもどうしていいかわからないことが辛い。

 私はただシエルに寄り添うことしかできないのに、皇女としてのお勉強やその他やらなきゃいけないことをする時は離れなくちゃいけなくて、その時はデリアにお願いするしかなくて。


 でもデリアに言わせるとシエルは私が部屋からいなくなると、止まり木の高い位置の隅っこに、できるだけ体を小さくするようにしてずっとそこにいるというのだ。

 私以外を拒絶するようなその様子を聞いて、酷く胸が痛んだ。


 飼っているペットの調子が悪いからしばらくは外出しないと周囲には伝え、私は勉強の時以外はシエルの傍にいることにした。

 父様はちょっと不満そうだったけど……上目使いで『お願い!』ってしたら『うちのニアはなんと優しくて天使なんだろう。これは記念日として制定すべきか?』なんておかしなことを言い出したのでそこはヴェル兄様に押し付け……お願いしておいた。


 ものすごい苦い顔をされたけど、よろしくお願いします。


「シエル……シエル?」


 いつものようにそっと撫でていると、普段とは違うことに気づく。

 シエルの魔力はふわふわといつもその周りでキラキラ小さな粒が光っているみたいに見えていたのに今はそれが全部内側で渦を巻いているように見えたのだ。


「シエル!」


「姫、どうしたの!?」


「シエルが変なの、いやだ、魔力が全部内側に向かって……」


「え?」


 今日の護衛であるロッシとテトが怪訝な表情を浮かべるけれど、彼らには魔力の流れが見えない(・・・・)ことを思い出して私は何と伝えるか難しくなって泣きたくなってしまった。

 こんな時は子供だからなのか、感情が前面に出てしまうのがまた悔しい。

 理性と感情のせめぎ合いに、まだ体がついていかない。

 大人とそう変わらない年齢だった『前世(わたし)』の感覚では届かない高さや、持てない荷物、走る速さ、そしてこうした言葉が追いつかなくて、それが悔しい。


(だめだ、泣くのはあと!)


 私に寄りかかるようにしながら、ぐったりとするシエル。

 寝かせてやろうと手を伸ばすロッシに小さく威嚇の鳴き声を出す姿は、他の誰にも手を出してほしくないのだと伝わった。


「シエル」


 私はそっと手を添える。

 いつもはふわふわで、少しひんやりする羽毛が熱い気がする。


(少しでも苦しいのが和らぎますように)


 治癒の魔法について使い方は習っている。

 だけど、皇女である私が魔法を使うことは殆どないはずだと言われて表面上をさらっとなぞった、その程度にしか習っていない。


 だからこの治癒の魔法がシエルのこの状況にどんな効果があるのかなんてわからない。

 ただ、苦しんでいるシエルを放っておけるはずがなかった。

 手の平から広がって、弱々しい私の魔力の輝きが手の平からシエルに広がっていく。

 押し戻される感覚があった。


 それがシエルの、大人たちへの反応みたいな拒絶で。


(シエル。私がいるよ)


 私は、どうにかしてシエルを抱きしめてあげたかった。


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