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「まず皇女に捧ぐ技術と知恵とはどのようなものかだな。それを示すがいい」
「では……まず、魔力の増幅を促すブレスレット型の魔道具を。こちらは魔力を使用する状況で、周囲の魔素を取り込み増幅させるものです。魔国では現在低容量に設定した品を用い、魔力の少ない方々でもあらゆる場面で不便がないよう使われているものですが、殿下に献上させていただく品は容量設定を大幅に変更させていただきました」
「ほう……」
「無論メリットだけでなくデメリットもあります。魔力の強い方が使用した場合、そうですね……たとえばこちらの国で言えば皇帝陛下、皇太子殿下などが強力な魔法を行使しようとした場合は魔素の吸収・変換効率と魔道具の性能が追いつかず壊れます。装着者に影響はありません。また、まるで魔力がない方には効果がありません」
「ふむ」
「皇女殿下の御身を守る道具の一つとしていかがかと。また、こちらの魔道具の技術を提供させていただきたく思います」
なるほど、強い人が使うとそれに比例した魔素を必要とするから、いずれにせよ道具の方が保たないってことなのか。
それを保たせられる道具が開発できたら、世界が変わりそうだなあ。
でもできないと思っているからウェールス様も堂々とこの技術を贈ってくるのだろう。
お父様は使者が差し出したブレスレット型の魔道具に視線を落として、私をちらりと見る。
「ほしいか?」
「ほしい!」
でも正直、魔力がカッスカスな私には喉から手が出るほど有用だと思うよ!
それがあれば私の弱っちい魔力量でもアル兄様が作った防御用の魔道具とか使いこなせるようになるってことでしょ!?
展開すると結界となる魔道具をアル兄様がくれたんだけど、私の魔力だと維持する時間がね……万が一なんてないと思いたいけど、そういう場面になった時に魔力切れで結界が維持できませんでしたじゃ笑い話にもならないよ。
残念ながらわが帝国は大きい国だからこそ変に狙われることも多いらしくて、カルカラ兄様も何度か暗殺者が来たって言ってたし、そうなると私が一番危ういし!!
勿論護衛のみんなのことは信頼しているし、兄様たちもたくさん私の部屋の安全に対して配慮してくれているし、父様もちょくちょく顔を見せてくれているのでそこは大丈夫だと思うけど……世の中何があるかわかんないからね!
油断は禁物だよ!!
(そうだよ、前世あれほど苦労していろいろ対策とっていたにも関わらず、あの馬鹿親どもは結局私を見つけたんだ。それを考えればこの世界でだって常に何があるかわかったもんじゃないって気持ちでいないと!)
前世も周囲の大人が手助けしてくれたからなんとかなったけど、今世はもっと身近な家族が手助けしてくれるのだ。
だからといって甘えっぱなしになるつもりは毛頭ない。
もらえるもんはもらっておきたい。
「……よかろう。それで? わが帝国で客人たちは何を望む?」
私がブレスレットを欲しがったなら、そりゃまあ相手方に協力する姿勢も見せる必要があるのだろう。
それによっていろいろ……まあ、面倒が起こる可能性もあるので、そこは考えが足りなかったなと反省しつつ私はウェールス様を見る。
とはいえ、いくら娘を溺愛しているからって娘の機嫌と引き換えにどうにもできない厄介ごとを受け入れるほど父様は甘い皇帝ではないという信頼があるからこそ、小さな我が儘を言ったわけだけど!
ウェールス様はにっこりと笑った。
「我々はとある人物を探しております。その為に帝国内を捜索する権利、そして協力していただけたらと……」




