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クラリス様の隣にいたのっぽで少し肌の色が浅黒い男性が旦那さんのウェールスさんらしい。
いくつかの魔道兵器、そして魔国で魔力の少ない人間が生活するために魔力を補うための道具などを提示して興味を持ってもらおうと必死な様子が見て取れた。
「……というもので、ですから……」
対する父様はさほど興味を惹かれないようだ。
まあ、軍事的なことは帝国の方が上だしね……魔道兵器って正直魔力の高い人が使うものだけに、この国だと使える人が限られてしまう可能性もあるからなあ。
あればあるに越したことはないけど、別に無理に買う必要はないよねってところだろうか?
なにせ人海戦術プラス、王家の魔法ってのが我が国の強みだから。
勿論、魔国には魔国のあれこれがあると思うので、だからこそこの兵器を売りつけても余裕があるんだと思う。
(それにしたって……なんであんなに必死なのかな)
人捜しをするのに自由に動く許可がほしいとか、そんなところかな?
そんな風にぼんやりと考えていると、ウェールス様と目がパチリと合った。
「歓談中失礼いたします。皇帝陛下、よろしければ麗しき姫君にご挨拶する栄誉をいただけませんか?」
「……ふむ、殊勝な心がけであるな。妻の失態を夫が担うか」
(父様、それは何か間違ってます!)
私に挨拶しないからすげない態度をとっていたとかそんなことないよね!?
さすがにそれは一国の主としていかがなものかと幼女でも思います!!
しかしパッとクラリス様もウェールス様を見て悔しそうな顔を一瞬見せたからやはりそこがポイントだったのか。
思わず私が宰相さんに目を向けたら小さく首を横に振られたよ! 頑張って!!
「先ほど紹介に与りましたウェールスと申します。猛き炎が宿る帝国の新たなる灯たる姫君に、ご挨拶を」
のっぽのウェールス様は、声もとてものんびりした雰囲気がある。
優しい笑みを浮かべているが、その目からチカチカした魔力が漏れ出ているのが気になって思わず目を逸らした。
それを人見知りととったのか、父様がそっと私の耳元で言った。
「ニア、皇女なのだから怖がってばかりいてはならんぞ」
「……はい、父様」
しっかりとそこは注意するんだねと感心したが、私を抱く手はがっちり掴んだままだったので膝の上から挨拶をしろと……?
上がった好感度が下がるよ、父様!
しかしここでそんな攻防戦を繰り広げても仕方がないので、私はさっさと諦めて顔だけウェールス様に向けて小さくお辞儀をした。
「ご挨拶ありがとうございます、ウェールス様。第七皇女、ヴィルジニア=アリアノットです」
「わ、わたくしからも! 帝国の新しき灯火たる姫君にご挨拶申し上げますわ! 大変可愛らしい方ですのね、滞在中にお茶などできたら嬉しいですわ!」
「クラリス様、ありがとうございます。お時間が合えば、嬉しいです」
そして父様の許しが出ればね!
いや、父様が許す前に兄様たちがどうかな。
最近過保護が増している気がするし、私があまり魔国の人たちと関わらないようにしたいと言ってあるし……まあ表面上は上手いこといって誤魔化しておけば大人たちがなんとかしてくれると信じている。
「……さて、子らが疲れて来たようなのでな。魔道具の披露目は済んだであろう。我らは下がるゆえに後は宰相と話すがよかろう」
「お、お待ちください! まだ、話が……!!」
父様が話を切り上げようとするのを、クラリス様が食い下がる。
その必死な顔を前にしても、父様の顔色は何の変化もなかった。
「いやはや、そう焦らず。どうか我らをお救いくださいませんか、皇帝陛下。代わりになるかはわかりませんが、我らが技術と知恵を皇女殿下にお渡ししますゆえ」
「ほう?」
のんびりとしたウェールス様のその提案に、ようやく父様が小さく笑ったのだった。
えっ、待って?
私に何か技術と知恵を渡すとか言ってた?
面倒そうなものをもらっても困るんですけど!?