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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第二十章 花は花でも……
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 いつもは自然豊かな湖の畔が、いきなり豪華キャンプ場みたいになっていた。


 思わず呆然としちゃったけどすぐに気を引き締める。

 こんなことができるくらいの人がいるってことなんだから。


(エルヴェに勧められるまま来ちゃったけど、ここで私が言いくるめられちゃったら……)


 相手は歴戦の強者が如き、裏社会の商人。

 前世含めても到底私が太刀打ちできるような相手じゃないことは百も承知だ。


(けど、幸い私は一人じゃない)


 私に知恵を貸してくれる人たちが、今は五人……いや、エルヴェは面白がってそうだから知恵を貸してくれるか微妙かな?


(……そもそも、何の用なのかな)


 聖女認定が行われたからって残念ながら北方のノクスの人たちにとって何か影響があるかっていうとそうでもない。

 エルヴェの属する椿(カメリア)は、今のトップ……つまりエルヴェのお父さんが創造神の敬虔な信徒だって話だけど……。

 ノクスの人たちだってそれなりに信仰ってものは持っていたって確かにおかしくはないので、聖女に対して思うところはいろいろあるのかな。


 でも私、メディーテー様の聖女なんだけど。

 それについてはまだ公表どころか神殿関係者にも報せてないんだけど。


「こちらです」


 私たちの前を歩く人が、ゆっくりと左右に割れる。

 そして指し示された先にはまるで王様の如く、白髪頭に長い白髭を蓄えたおじいさんが一番奥……つまり私たちから見て上座にいる。


 テーブルの上には城のパーティーか? ってくらい豪勢な食事がこれでもかってくらい用意されていて、一見すると歓迎の意を示しているかのようだ。


 けど、騙されちゃいけない。


 老人は、立っていないのだ。

 客を招いておきながら座ったままで、視線だけが私に向けられている。

 商人として考えるなら、ここは客のご機嫌を取るのがセオリー……なんて経済学の雑学で聞いた気がするけど、そうする気はないらしい。


 それは格下と見て相手にする価値もないと私に突きつけるためなのか、対等の存在となるかどうか見定めているのか……。


 私もどう出るべきか、少しだけ考えてにっこりと笑顔を見せてみた。


「お招きありがとう。名を名乗りたければ、聞きましょう」


 感謝で礼儀知らずではないとしつつも、勝手に招いた以上そっちも礼儀を払えと暗に示してみた。

 これを喧嘩を売られたと考えるか、それとも会話のきっかけにするのかは相手次第。


(……思いついたのがパル兄様のやり方だったって、染まってるなあ私……)


 そう、この対応の仕方は以前パル兄様から教わったものだ。

 相手が荒くれ者だったりするなら、基本的にこっちは懐柔しようとなんかしちゃだめだって。

 軽く見られる前に言葉でパンチを効かせて、対話の席につかせろって。

 それができなかったら実力行使で護衛たちを使え、までがワンセットだけどね!

 ちなみに兄様の場合は魔法でぶっ飛ばせば最終的に解決だって言っていたので、最後の部分はまるで参考にならないとだけ言っておこう。


 あ、いや、今はユベールがいるからできるのか。

 やらせないけどね!?

 私は平和的解決を望む聖女で皇女だからね!?


 座っていた老人が、ゆっくり、ゆっくりと顔を上げた。

 それまで無表情だったのが嘘のように、満面の笑みを浮かべている。


(ひえ、こわ……)


「皇女殿下のお許しを得ましたので、名乗らせていただきましょう」


 老人は立ち上がると大きく手を広げて、そしてまた胸の前で手を組むようにして私に深々と頭を下げた。


「儂の名はフェイ。ブラックマーケット等を運営させていただいております、しがない(・・・・)商人ですじゃ。本日は無理を申しましたが、こうしてお越しいただけて感無量でございます」


 本当に嬉しそうに笑うフェイさんに、私はゾッとしてしまった。

 こちらも笑顔は崩さなかったけどね!


 っていうかブラックマーケット運営する人は〝しがない商人〟なんかじゃないと思うよ!!      

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