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そっからはもう、なんていうか……エルヴェは容赦がないって改めて思った。
顔面だって遠慮なく狙うし、相手が斬りかかってこようが何だろうがお構いなしに突っ込むし、なんだったら切り飛ばそうとしてふとこっちを見て考える素振りを見せる余裕まで!
「ああ~なるほどねえ、皆様がコイツらをプチッとしちゃわないのは、ひめさまのためかあ!」
プチッて。
プチッてなんだ。
えっ、いやみんなが私に対して気を使ってくれていることはわかっていたけども。
確かにグロ耐性とかはないので、血しぶきとか見せられたら悲鳴あげちゃうかもだけど!
「他の人はまだわからないけど、ユベール王子は全然こっち側でしょう?」
くすくす無邪気に笑うエルヴェ。
笑顔で手を振るような仕草をするその姿だけ見たら、すっごく可愛い男の子なんだけどな!
それが大の大人を膝蹴りして踏みつけて……って行動の上に成り立っているから脳がバグりそうだよ、本当に。
(でもちょっと待って?)
頭がこんがらがりそうだと思ったところで、エルヴェの発言に思わずハッとしてユベールを見た。
ユベールはちらりとこちらに視線を向けたと思うと、何故か頬を赤らめて目を逸らす。
いやなんで赤くなった!?
「倒すだけなら、確かに可能だ。けど、ニアは結構怖がりだし……俺が魔力解放して敵を倒せば、味方も巻き込む可能性もあったし。それに生け捕りにして情報も聞き出すことを考えていたんだ」
「巻き添えってお前……」
うわぁって顔でフォルティス様もユベールを見ていた。
そんなフォルティス様に、ユベールは少しだけムッとした顔を見せる。
「フォルティスだって何度か切り伏せるタイミングが合ったのを迷っていたじゃないか!」
「……姫の前だし、ここは神の御前だ。血で汚すのは躊躇って当然だろう!?」
ちなみに、彼らもまた近寄ってきた敵を殴り飛ばしているからね?
どうしてそんな穏やかな感じでいられるのかな?
「あ、あんな、こと……言って、ますけど、ぼ、ぼ、ぼくら、みんな、ちゃ、ちゃんと……怖い、ですからね?」
「そうそう。軽口でも叩いていないと正直膝が笑っちゃいそうだよ。でもアリアノット姫を前に、かっこつけたいから頑張っているだけ」
呆れていいのかなんなのかとても複雑な気持ちになった私に、ピエタス様とサルトス様がそっと秘密を打ち明けるように教えてくれた。
ああうん、そりゃそうだよねー……。
それはわかってるんだけども!
(それでも私よりは余裕そう……ってのがなんか悔しい)
正直私はいっぱいいっぱいですけど!?
複雑な感情に、思わず眉間に皺が寄る。
そんな中でエルヴェが加わったことで一気に劣勢となった相手方が、距離を取った。
エルヴェも決して深追いせず、私を庇うように前に立つ。
「さあて、ひめさま?」
「う、うん」
「ひめさまを怖がらせた分は十分報復できたと思うんですけど、どうしたいです?」
「どう……?」
って、どういう方向で……?
なんだか自主規制入りそうな……埋めるとか、沈めるとか、そういうことじゃないよね……!?
「もっと痛めつけたいならそうしますよ? こいつらは捕まえたところで情報なんて持ってないでしょうし、交渉の材料にもならないですし。かといって寝返ってきても使い物にはならないでしょうしねえ」
「わ、わあ……そう……」
「あれっ、オレがもしかして処刑方法をひめさまに決めてもらおうとしているとか思いました?」
「えっ、そんなこと、ない、よ……?」
「あは~、目が泳いでる~! ひどいな、ひめさま~」
エルヴェなら言い出しかねないって思っちゃった。
ていうか語尾にハートマークつきそうな甘ったるい声で言う内容じゃないと思うんだよね……!!