表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第二十章 花は花でも……
197/220

194

 麓が見えてきて、私たちの姿を見つけてワッと喜ぶ声が聞こえた。

 神官服を着た人たちがこちらに駆け寄ってくるのが見える。


(出迎えの、人たちかな?)


 行く時も随分大勢で見送られたので、彼らも気を揉んでいたに違いない。

 きっとメディーテー様からの言葉がなかったら、私は彼らのところに駆け寄るまではいかなくてもなんの疑いもなく歩み寄っていたかもしれない。


 でも今は、あそこに刺客が紛れ込んでいるのかもって思うと足が動かなかった。


「何人刺客が紛れ込んでいると思う?」


「全員だ」


 そう呟くと、フォルティス様が応えた。

 それはもう早かった。


「え」


「全員、この土地と違う匂いがする。それから妙な音もするな。神官たちから聞いたことがない」


 すごいな獣人! そんなこともわかるの!?

 いやウサギって嗅覚も聴覚もすごいんだっけ……天敵から身を守るための術だもんね。


 っていうか全員ってなによ。

 これってピンチなのでは!?


「六人か。下が騒がしくないってことはこいつらが本物の神官の可能性は?」


「それはあるんじゃないかな。毒虫はどこにでもいるもんだよ」


 ユベールとサルトス様がそんなことをいつもの調子で言っているのがこっちとしてはしんじられないんですけど。

 なんでそんな落ち着いているのさ!?


 困惑する私を宥めるように、隣にいるピエタス様が「だ、大丈夫、です……よ」って微笑んでくれたけどこれ安心するとかそういう問題じゃなくてね……?

 ええと、うん。


 私の婚約者候補たち、思っていた以上に肝が据わっているというか、覚悟がすごいっていうか……私がおかしいのか? これ。


「よし、そこで止まれ。全員だ」


 そうこうしているうちに、麓からこっちにえっちらおっちら登ってきた集団が……いやうん、麓のあの門から先は儀式でもない限り登ってこないって言っていたのにおかしいよね。

 もうあちらも隠す気がないってこと?


 でも一応まだすぐに敵対する気配を見せないのか、彼らは顔を見合わせて笑顔を浮かべている。


「大変察しがよろしい方々で、ええ、ええ、敵対の意思はございません」


 その代わり胡散臭さがログインしたね!?

 神官っていうよりもまるで商人のような声音と愛想笑いに、思わず眉間に皺が寄る。


(……みんな同じような笑顔を貼り付けていて、気持ち悪いな)


 偽りの笑顔なんてものは、私だっていくらでも知っている。

 私自身、皇女としてよそ行きの笑顔を浮かべることなんて良くある話だし……そういう意味では社交経験者たちは笑顔の仮面を被っているようなものだって聞いているし。


 でもこの人たちのそれ(・・)はなんかこう……なんかこう、違うんだよなあ!

 得体が知れない? 胡散臭い?

 とにかくそういう感じ。


 一団の中で序列があるのか、それとも話し手を一人にすることで動きを悟られないようにしているのか。

 そのあたりは私にはちょっとわからないけど……とにかくその人が喋っている間はあちら(・・・)も動く気はないらしい。


「我々はただ、聖女様をご招待しに来ただけでございます。お互い、騒ぎは起こさず、穏便に……それは双方意見が合致していると思われますが、いかがでしょう?」


「……名もなき者たちは随分と遠慮のない物言いをするのね」


 名乗れ、というのもおかしい話だなと思ったのだ。

 名乗ったところでこれまでエルヴェから聞いていたことを考えれば、彼らが裏社会の人たちだと仮定して……名前は一つの契約で、彼らが個々に最初から(・・・・)持つ名前に意味がどれほどの価値があるのかはわからない。


 それに名乗られたところで、ぶっちゃけ皇女と暗殺者(仮)で対等かと言われると……いや前世の感覚で言えば命は同じでしょって思っちゃう部分があるものの、身分的なものではアウトでしょ?

 名乗られたからはいオッケー! ってなるわけでなし……私はとりあえず、この場でもっとも高貴な存在として振る舞う必要がある。


 堂々と。臆してはいけない。

 何があっても。


「伝言をまずはお伝えいたします」


「そう。どなたからの伝言かしら」


(ロータス)の長より、新たなる聖女様に茶席を設けますので同席をお願いいたします。どのような形であれ、この招待を受けていただく旨、確かにお伝えいたしました」


 それね、招待って言わないの。

 脅迫って言うんだよ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ