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「はっ!?」
がくん、と自分の体が不自然に揺れて『あれ、私寝落ちしかけた……?』なんて思ったのも束の間。
握りしめていた真珠色の花に、さっきまでのあれは夢じゃなかったと知る。
「ひぇ……」
情報過多! 情報過多だった!
もういっぺん頭の中を整理したい! が、それどころじゃない!!
「エルヴェ!」
「はいはーい。どうしたの」
「今すぐ先に下山して、警戒に入って。私たちの下山のタイミングで襲撃があって、普通に対応したら後手になって人質を取られる」
「……へえ」
エルヴェが笑顔のまま、彼の周囲の温度が下がった気がした。
えっ、何こわぁ。
でもそんなことを言っている場合ではないのだ。
「グノーシスたちがいるのにそこまで来ているってことは、相当な手練れか……あるいは、その、身を潜めるのがすごく上手い人たちってことだと思うの」
「ひめさまは、それをどこで知ったの」
「ううんと……説明が難しいな。とりあえず簡単に言えば神託、かな……」
神様の世界でいろいろと説明されていたわけだけど、それを説明するのもまた難しいっていうかね?
前世の話から始まって巻き添えで転生しましたってのはまあ省いていいかなって思うけども!
「細かい話は後でちゃんとするから、エルヴェがこういうのは適任でしょ!」
「そうだけど、正直オレの仕事ってひめさまの執事兼護衛だから他の人たちとかどうでもいいんだよね」
「……攫われて酷い目に遭うってわかってるのに放置はできないよ」
皇女としては、その立場から『騎士たちがいるのに皇女以外を見捨てた』って思われることを危惧しなきゃならないとは理性で理解している。
けど、根底にある考えは甘っちょろいままだと自覚していて、皇女としての考えよりもそっちを優先してしまうような言葉が出てしまった。
「ひめさまは甘っちょろいなあ~」
「うっ……」
「そこは建前でいいから『ここでいいところを見せないと有利に立てない』とか言うところだよ」
「わかってるよ……」
「まあ、オレはひめさまの命令に従うよ。先に少し片付けておけば婚約者候補サマたちでも対処できるだろうし」
肩を竦めたエルヴェが、ふわりと礼をとる。
相変わらず貴族でもないのにすっごく様になっていた。
「ご命令のままに、行って参ります」
「うん。……お願いね」
ぎゅうっと花を握りしめる。
もう神様の威厳も何も感じない、ただ綺麗なだけの花。
「みんな、聞いてほしい。エルヴェには先に指示を出して行ってもらったけど、神託が下った」
振り向いて、私の言葉を待っていてくれたであろう四人を見る。
エルヴェと話している間も、視線は感じていたよ!
それでも待っていてくれた彼らに感謝。
正直、私には手の余る問題ばっかで困っちゃうんだよね。混乱もしている。
けどそんなことを言っている場合でもないし、私が一人で何もできないなら……一人で立ち向かわなければいいだけの話なのだ。
(これが知識系チートなら状況を利用して華々しく聖女デビューを飾るだろうし、能力系チートなら覚醒イベントってとこだったんだろうなあ)
残念ながらそんなものがないのが、巻き添え転生の私なのだ。
でも私の神様……メディーテー様も言っていた。
頑張って生きろって。
見守ってるって。
そして私が下山したら襲われるって言われた……ってことはよ?
「下山する前に、準備をしよう!」
長居をする装備じゃないから引き延ばしは無理だけど、作戦を立てるだけの猶予はあるってことだよね!