191
「さて、そろそろ限界かな。これ以上は君があちらに戻ったら保たないと思うし……望むことはあるかい。できること、できないことはあるけど多少なら聞いてあげられる」
「えっもう!? じゃ、じゃあまたこういう質問の機会を設けてもらえたら……!」
「それは難しいかなあ。君が精進して耐えられるならともかく……神官たちもなかなか適合者が少ないからこちらとしても大変なんだよねえ」
「うう」
ペルティナさんみたいに巻き添えで倒れるとかはさすがにあれだもんね……!
私が弱い(?)せいで周りに迷惑がかかるのはやっぱりよろしくないからそこは無理を言えないな。
「あっ、じゃあソレイユ経由とか!」
「ドラゴンか。でもなあ、確かに人間よりはいいかもしれないけど人語を喋るタイプじゃないんだよねえ」
「そこかー!!」
そうだよね、まだ赤ちゃんとはいえソレイユはいつも可愛い鳴き声だもんね!
急に流暢に喋り出したら私が腰を抜かすかもしれないね!!
「じゃ、じゃあわかりやすくメディーテーの子っていう印みたいのを私の体の一部分に刻むのは!?」
「それも難しいかなあ。あれってこっちの神としての力で刻むから、何の力もない君みたいな人間にそれをやると魂に傷がつくか肉体に後遺症が出るかだけどどうする?」
「すみません忘れてください」
後遺症とか魂に傷とかそんな恐ろしいのは結構です。
うーん、ただわかりやすい目印があったら便利だろうなあって思っただけなのにままならないなあ……。
「……でもそうだね、目印か。ならこれを贈ろう」
パアッと私の目の前が光る。
光は収束したかと思うと、小さな石になった。
青緑色で、澄んでいて……私が知るどの宝石とも違うそれの中に、光る模様が刻まれている。
「特に何か力があるわけじゃないし、綺麗なだけだけどね。それを身につけるといいよ、様にはなるだろう?」
「あっ……ありがとうございます!」
確かに何の力もないっていうのだと説得力はないかもしれないけど、その気持ちが嬉しい。
何もない私のために、きっと考えてくれたのだろう。
「うん? ちょっと待って……他の神々も手を貸してくれるというから、その石を加工してくれるそうだ」
「え?」
コロッとしたなんとも言えない形状の石が再び光り出して、更に光のわっかが生まれたかと思うと石の周りを取り囲んだ。
不思議な光景だと見守る私の前で光のわっかは鎖の形になり、ぎゅるりと石に巻き付いたかと思うと今度はまた光の塊になったではないか。
「わっ……」
そしてその光は私の手首に今度は飛び移ったかと思うと、おしゃれなブレスレットに変わったのである。
「すごい!」
「喜んでもらえたようでなによりだよ。まあさっきも言った通り、特別な力はその石にはないけれど……後は神々の名を好きに使って君は自由に生きるといい」
風もないのに花が揺れる。
その声はとても優しくて、なんだか私の胸がポカポカした。
「それじゃあ気をつけていくんだよ。特に何かしてあげられるわけじゃないけど、メディーテーは君をいつだって見守っている。君に何かあっても世界は壊れないし、万が一の時は必ず責任を持って魂を次の世界でも幸せになれるよう導くからね!」
「止めてください、縁起でもない!!」
感動がどっかに吹き飛びそうなんですけど!?
神様って人間とは情緒が違うのかな?
まあとにかく応援はしてもらっているようだし、神様の名前を存分に使って今後は私も活動していいってお墨付きをもらったんだから、そこは感謝しておこう。
次はいつ会える(?)かわかんないし、お礼を伝えるってのは大事だからね。
そう思ったところで視界がぼやけていく。
ああ、戻るんだな。
「ありが……」
「そうそう! 言い忘れてたけど、下山したらすぐに君は襲われる。その際後手に回ると、君の周りの人間が攫われて酷い目に遭うはずだから気をつけるんだよ」
「ええっ!?」
「それじゃあね、頑張って生きるんだよ! ヴィルジニア=アリアノット!」
「ちょっ……」
遠のく意識に私は『そういうことは早く言え』と思わずにいられないのだった。




