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つまり私は聖女とか寵児とか、特別な存在ではなかったってことだ。
たまたま実の姉がそうだったから、その償いとして神々と繋がりの深いツィットリア家の子として生まれた。
その血筋の女性が、たまたま皇帝に嫁いでいたから、皇女だっただけの話。
(そうだよね、やっぱりそうだったんだ……)
特別な力もなければ、記憶があっても何か成し遂げるようなことができるわけでもない。
ただ幸せになりたいと願うだけの人間でしかないってわかって、落胆と同時に安心した。
「……がっかりはしてないんだね」
「少しはがっかりしてますよ」
「そう? それにしてはさっぱりした顔をしている」
「確かにそれはそうです。私、自分が特別でないってわかってホッとしましたから」
特別だったらいいなとか、チートがほしかったな……って気持ちはある。
それでも、そんなことより私を愛して大事にしてくれる家族と出会えたってだけで十分だと思う。
そんな中で私が〝特別〟なせいでその大切な人たちに迷惑をかけるんだったら申し訳ないって気持ちが、あった。
実際どっちだったにしろ、父様も、兄様たちも、そして婚約者候補の彼らも私の味方でいてくれるって今はわかっているから心配はしていないよ!
ただ巻き込んで申し訳ないなってだけ!!
(とはいえ、凡人であるけど巻き込んでいることには間違いないっていうか)
結局、神様が縁を持っているからツィットリア家の子として私を転生させたんだとして、凡人である証明……というか、寵児ではないっていう証明はできないんだものね。
「私を聖女に据えても、私は結局これといって特殊な能力とかが現れて奇跡が起こせるわけではない……」
「うん。その通りだよ」
「かといって本来の寵児のように、みんなに幸せを呼ぶってわけでもない……?」
「うん、まあそれもちょっと人間たちの考えの違いっていうか」
「違い?」
「そうそう」
なんと、寵児についても私たちは思い違いをしていたことが発覚した!
それは寵児だから幸運が訪れるのではなく、寵児を見守っている神様が寵児にとって過ごしやすい環境を与える=寵児の周辺の人も恩恵に与る=寵児は幸運を呼び込む! という図式が成り立ったからそう言われるんだそうだ。
「聞いていると思うけど、昔はみんなが君らが言うところの寵児? ってやつだったからさ、どこに行っても可愛い我が子たちがいて、その子たちの幸せを願ってあちこちを豊かにしていたんだよねえ」
「なんで寵児じゃないと恩恵ないんですか」
「なんていえばいいのかなあ、こっちが幸せを願っても、それを受け止める人がいて世界にそれが届くっていうか」
「アンテナと電波……!?」
「なにそれ」
つまり寵児は神々の恩恵を直に受ける最先端電波……いや、絶滅危惧種だから廃線決定路線なのか!?
じゃあ神様からの恩恵を大多数が受信できていないなら、世界にそれが行き渡らないのでは……!?
「よくわかんないけど、もうこの世界はある程度完成されているから大丈夫だよ? この世界はこの世界に生きるものたちに譲り渡した箱庭だから、こっちとしてはただもう行く末を見守る中で時々手助けできたらなあって思っている程度だから」
「そ、ですか……はは、ははは」
「大丈夫? 話についてこれてる?」
花が不思議そうに揺れるのを眺めながら、私はいきなりの情報過多にただただ乾いた笑いが出るのだった。




