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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十八章 聖女認定、頑張ります!
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(これは考え方のすれ違い、これは考え方のすれ違い……だから誰も悪くない。うん、それで押し通していこう!!)


 デリアに調べてもらってきたところ、ペルティナさんは世話をするべき対象……つまり私と言い争いになったことについて、お説教を喰らって自室で反省するようにと言われて食事も一日一食に減らされているようだ。

 ぐぬ……申し訳ない。


 いや、確かに世話をする役割を担っておきながら嫌味を言ったり意見の押しつけをするってのはいけないことなので、そこは反省してもらった方が今後のためにもいいかもしれないけども。


(……あそこは私がちゃんとスルーできればよかっただけの話だもんな……)


 ここんとこ、また前世の姉の夢を見てナーバスになっていたから、なんてのは言い訳にならないし言い訳として通用するわけもない。

 私は皇女としてここに来ているのだし、そういう意味でも自分の表情コントロールくらいできなければならんのだ。


 できるかできないかじゃない。やるんだよ!


 そういう意味では私も失態を犯しているので、罰は平等に受けるべきだとそこも進言しておこう。うん。


 私は緊張しながら伯父様たちが待つ部屋へと足を進める。その足取りは重いけども。

 脳内シミュレーションはばっちりだし、伯父様たちだってきっと理解してくれるとわかっちゃいるし、なんだったら皇女っていう身分がいい方向に働いてくれて私の意見を尊重してくれるに違いない。


 ペルティナさんがそれを聞いてどう思うかはまた別だけどね?

 まあ次は穏便に意見交換ができたらいいと思うよ! 難しいかもだけど!!


 扉の前で深呼吸を一回、二回。


(よっし、覚悟は決まった! いっちょビシッと決めてやるんだから!!)


 中に入ると伯父様と、初日に会って以来そういや会ってなかったわ……な神殿の偉い人。なんだっけ、そう、オディナルさんだ!

 それから同じく当事者であるペルティナさんと、なんでか婚約者候補たちがそこにいた。


 なんだか会議室みたいなところでみっちりしてんな!


「マルティレス司祭様、お時間をとっていただきありがとうございます」


「……皇女殿下におかれましては、我が不肖の弟子が大変失礼をいたしました」


「いいえ、私も多くの意見を耳にしなければいけない立場として、あのような振る舞いをお見せしたこと恥ずかしく思っております」


 お互いにそんなことを言って歩みよりの姿勢があるよ! って感じで終わりにしたい。

 が、ペルティナさんにちらりと視線を向けてみると、私の方を見ないけどやっぱりどこか不満そうだ。


「私はペルティナさんが仰っていたことも理解はできるのです。しかし、皇女として祈りを軽視しているわけではないことを教会の方々にも理解していただく必要を感じました」


「祈り以外にも、必要なことがあると仰るのですな」


「勿論です。私たちは私たちでできること、それを私は皇女として努力を重ね成し遂げるべきだと考えています。それこそが、皇女として、聖女としての役割と思っておりますから」


 使える権力は使うべきで、誰かを助けるためのお金や人を動かすのはやっぱり権力が最適だ。

 人の心を救うのが教会だとしたら、心を潤すための生活水準を上げるのが皇族としての私の勤め。

 私がそう訴えると、ペルティナさんがちらりとこちらを見た気がする。


「これからも皆様には祈りを捧げていただきたいと思っております。私は聖女になれるかもしれませんが、神の前ではきっと等しくただの人間ですもの」


 そもそも聖女の条件が精霊と魔力をダブルで所持か、寵児かってだけだしね!

 まったくもって私の素養っていうより運じゃね!? と思っているので……。


 まあラッキーガールならラッキーガールでその幸運、利用したってよかろうって話。

 誰かを不幸にしたり、幸せを独り占めにしようっていうわけじゃないんだからいいでしょ。


「ですから今回の騒ぎは私の不徳の致すところ。教会の皆様にはご迷惑をおかけしましたが、これからも私のお世話はペルティナさんにお願いしたいです。帝国の皇女だからと怯むことなく、自身の意見を言ってくださる希有な方ですもの!」


 そして婚約者候補たちが何かを言う前に私がそう笑顔で言い切ったら、みんなすごく不満そうな顔してたけど……見えない! 見えないぞう!!


 私はこのヴァノ聖国の残りの滞在期間、穏便に過ごすって決めてんだよぉ!!


「……皇女殿下の寛大なお言葉に甘えることにしようではないか」


「マルティレス司祭様、しかしそれでは示しが……」


「そうでした。私も罰を与えていただかねばなりませんね! 神の前では人の子は皆平等と教えていただきましたもの。神殿内を騒がせたのはペルティナさんだけでなく私もですから、どのような罰があるのかしら?」


 無邪気な子供の振りをして私がそう言えば『フハッ』と誰かが笑う声がして、視線を向ける。

 婚約者候補たちはしれっとしてたけど、今の声はサルトス様とユベールだな?

 案外あの二人、笑いのツボが浅いからな……ってどこが面白かったのかな? ん?


「ば、ば、罰ならぼくが代わりに……!」


 ピエタス様、それはダメだって。

 私が騒ぎを起こしたのに代理が罰を受けたら私が悪い子みたいじゃないか!


「双方反省しているなら、それでいいんじゃないか。あれだったら、腕立て伏せ百回とか」


 フォルティス様、脳筋が過ぎる。

 ちょっと私には難しいかな……お掃除の箇所増やすくらいがいいな!


「……皆様のご厚情に感謝しよう。事前にペルティナが受けた罰は世話役としての役割を超えたものであったことのみとし、今日より通常の生活に戻すとお約束しましょう。皇女殿下には罰として写経を追加とします。それでご理解いただけたらと……」


 オディナルさんがとても疲れた顔をしながらそんなことを言うのを見て、私は『勝った』と誰に対してでもなく思った。


「ペルティナも、それで良いな?」


「わ、わたしは……――!」


 意見を求められたというか、結論を告げられてペルティナさんが何かを訴えるように勢い良く立ち上がる。

 それに対して候補者たちが警戒する気配を見せたところで、突然ペルティナさんが糸の切れた人形のようにかくりと俯き、両手をだらりと下げたではないか。


 思わずぎょっとする私をデリアが背に庇うようにしてくれた。


「ペルティナ……?」


 異様な雰囲気に、伯父様が真っ先に手を伸ばして彼女の肩を掴もうとして弾かれる。

 そうしてゆら、ゆら、と体を左右に動かしたペルティナさんは、すぅっと私を指さした。


『 来たれ、神の子。我は山で待っている。疾く、来い 』

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