177
神殿の奥まったところに、私たちは一室を与えられた。
同室ってことでデリアがかなり恐縮気味だったけど、私にとっては心強いことを強調して納得してもらった。
本来デリアの立場からしたら主人と同じ部屋で同じようなベッドで寝食を共にするなんてあり得ないことらしいけど、今回は特殊例だもん。
誰も咎めることはできないっていうか、残念ながらペルティナさんが私のことを敵視しているっぽい現状を考えるとデリアがいてくれることは本当に、本っ当に心強いよ。
そこからはいわゆる精進潔斎ってやつなのかな?
神殿が用意した質素な食事――決して美味しくないとかそういうのではなくて、本当に茹でた野菜や具なしのスープ、それからパンと言った質素な食事だけが一日二食。
朝は早起きして掃除をしてから水浴びをして身を清め、神に祈りを捧げ、食事をしたらまたお祈り。
お昼は食べずに写経を行い、お祈りをし、本来ならここで神官は民衆の悩みを聞いたりするらしいんだけど私はそうじゃないので夕食まで休憩となる。
そして夕食後はまた祈りを捧げ、そして眠るというタイムスケジュールだ。
(……城にいた頃よりは余裕がある日々、かな)
甘いお菓子がちょっぴり恋しいけれどこの神殿の奥まったところはとても静かだ。
他の人たちの存在は感じるけれど、おしゃべりに興じるような人たちはいないらしくみんな本当にとても静か。
といっても元々あんまり人がいない感じだけど……。
ペルティナさんとの関係は、まあ良くない。
でも彼女は決して役目を放棄したりはしない、そういうところを見る限りはとても真面目な人だ。
真面目な……人なんだよねえ、本当に。
「本日のお勤めは以上になります。お疲れ様でした」
「ありがとう」
「……何故、皇女殿下は聖女になろうと心に決めたのに皇女であり続けようとなさるのです? 殿下が興味本位でいらっしゃったのではないと、ここ数日儀式に臨むお姿を拝見して理解はしましたが……納得できません」
「ペルティナさん?」
「聖女になる素質をせっかくお持ちなのに俗世から離れることもせず、権力に固執するなど神の恩恵を無に帰する行為ではありませんか」
「あ、あー……ええと、落ち着いて、ペルティナさん」
そう、真面目な人なんだよねえ。
朝も私たちより早く起きて一連のことをこなした後に迎えに来て同じ工程を繰り返し、不慣れな私たちを急かすでもなく教えながら修行に励むその姿。
私欲を滅し神にお仕えすることこそが至上の喜びだって堂々と私たちに語る姿はまさしく清く正しい神官って感じ。
……ただまあ、伯父様から聞いている限り神官にも自由は多くあって(むしろ神は生きる喜びを与えるために多くのものを創ったって考えなので)、ペルティナさんほど自分を追い込むタイプの人はそういないらしいんだよ。
じゃあなんで客である私にそんなめちゃくちゃ信仰こそ全てなタイプをつけたのかって言うと、彼女の年齢が一番私に近かったからってだけらしい……。
「今日はもう消灯の時間だから、議論はまた明日。ね、明日にしましょう!」
「……確かにもうこのような時間でしたか。夜更かしはいけませんものね。では、また明日」
真面目で、きっといい人なだけよペルティナさん。
私に対しても皇女っていう身分に対して阿るでもなく、寄付を訴えてくるわけでもなく、ただひたすらストイックに信仰を行う彼女は私にとってちょっぴり新鮮な相手だ。
ただまあ、距離感がわかんないのが難点だね!!
今年もよろしくお願いします!!