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前世の姉の姿を夢に見たあの日から、私は夢に悩まされ続けている。
といっても、連日連夜彼女の夢を見るわけではないけど……。
それでも短くて数日、長くて一週間おきと言ったところだろうか?
(まさか一ヶ月経ってもまだ見るだなんて……)
あの日の夜に大声を出して飛び起きた私に控えの間にいたデリアが大慌てでやってきたけど悪夢を見たの一言で事なきを得た。
さすがに前世云々、せつめいできるわけないしね!
前世での心残りだったのかなとぼんやりとそんなことを思って終わりにするつもりだったのだ。私は。
当時……というか前世の私と姉の関係は、決して良好なものとは言えなかった。
毒親によって一方は偏愛の人形扱いを、一方は道具扱いを受けていた姉妹は互いに言葉を交わすことさえ自由にならなかったのだからそれは仕方のない話だ。
いや、仕方のない話で済ませちゃいけないのかもしれないけど……まあ、とにかく今の私にとっては過ぎ去った話に過ぎない。
文字通りね!
それでも今世で幸せになった今、あの毒親たちから逃げ出したという姉が幸せになってくれているならいいのだけれどと願っていた気持ちが夢に現れたのだとばかり思っていたのに、あの夢を見てから姉の人生はどんどん続く。
それがまたリアルでありながらやっぱり姉の顔や周囲の人たちの顔、名前はまるでそこだけ切り取られたかのように私は夢の中でさえ聞き取ることができない。
だというのに私の願望を示すにはあまりにも……あまりにも残酷な現実が、姉たちを襲うのだ。
初めて姉の夢を見た時は、彼女が幸せになったところで妹への贖罪に赴こうとするところだった。
次に、妹の所在を探そうとして知人伝いに両親が刑務所にいる話を耳にする。
会ったこともなかった遠縁だという親戚の男性が両親の身元引受人をしていると知り会いに行く姉。
そこで姉が夫と逃避行をした結果、妹の方に寄りかかろうとしてトラブルを起こしたからだと言われてショックを受ける。
もう両親とは関わらず幸せになりなさいとその遠縁は言ってくれていたが、帰りしなに夫の方にだけ何かを伝える。
そんな感じでまるで昼ドラの名場面集を見せられているみたいな感じで、私は姉の姿を夢に見るのだ。
刻一刻と私の生死に近づく姉に、それを遠ざけようとする周囲に、もういいと伝えたいのに声一つでない私という不可思議な夢はまだ続くのだろうか?
「ニア、顔色が優れない。……行かなくてもいいんだぞ?」
「いいえ、行かないと正式な聖女になれないもの。せっかく指名してくださったんだし、聖女って言う肩書きがあれば福祉問題にも取り組みやすいって兄様も太鼓判を押してくれたでしょう?」
「それはそうだが……」
なんであんな夢を見るのか。
私の願望なのか、それとも他に意味があるのか?
願望だったとして、姉が幸せならそれでいいはずなのに……少しは私のことを気にしてくれよっていう身勝手な自分がもしかしなくても存在するんだろうか。
考えたくもないけど。
誰にも前世の話なんてできるわけもなく、ただただ悶々と……それこそ夢の内容すら話せないのだから困ったもんである。
最近じゃソレイユに話すのでさえ、サルトス様に筒抜けになるんじゃないかとかエルヴェがこっそり聞き耳を立てているのでは……!? って思ってできずにいるからね!
ひたすらソレイユをモフモフしすぎて最近だとソレイユも私を見ると条件反射でモフられようとするようになっちゃって、反省しているよ……。
まあそんな感じでストレスMAXな中でも聖女になるため、私はヴァノ聖国へ向けて旅立つ予定でいる。
表向きは帝国が遍く神々に対して敬意を払うため、末姫が聖女として立つことで神々と人との間にある絆をより強固なものにするという……まあこれも政略結婚に似た提携っていうの? そんな感じで!
ただまあ元々精霊力と魔法力の両方を有する私は資格があると言われていたわけだけど、それでもそれだけじゃだめなんだとか。
精進潔斎をして偉い人と共に神事を行い、それで初めて正式に聖女として任命されるってわけ。
そのためにはヴァノ聖国に行かなくちゃいけない。
(……のに、夢見が悪くて体調が悪いとか笑えないわ~……!)
いい加減!
前世から卒業したいなあ!!