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「父様、私はこの国を出るつもりはありません。まだ父様や、兄様たちから学びたいことがたくさんあります。聖女や寵児という問題についてはわからないことだらけですし、私自身がそうかどうかなんてわかりません」
「……ヴィルジニア」
「聖女になったらどうなのかとか、寵児だから子孫を残さなきゃいけないのかとか……周りの人に迷惑をかけちゃうのかなとか、いろんなことで悩んだけど」
そうだ。
私の願いはささやかなものだったと思う。
まあ恋愛したいだの穏やかな家庭を築きたいだの、そういった類いのものなんだけど……それに関しては前世の記憶のせいで上手く出会える気がしなかったから、今になってみれば婚約者候補を用意してもらえて良かったんだと思う。
ただ、それが四人ってのはね! 悩みの種ですけども!!
うう……本当に私は選べるのか……?
こんなイケメンばっかで……? とはなっているけども。
え? だって恋愛はともかくその先に結婚があるんでしょ?
いやいや……キスもその先も想像できるのかって話! 私まだ十歳!!
想像は……うん、まあ、でき……できるかあ! はれんち!!
「聖女ってのが魔力と精霊力、両方を兼ね備えているのなら少数とはいえそれはこの広い世界にきっともっと大勢いるはずです。探せていないだけの話」
なら私が旗頭になって、思いっきり目立って、その上で幸せになっちゃえばいいじゃないかと思うのだ。
聖女ってのが特殊で特別で囲い込んでしまえ! っていうこの状況を打破したい。
大国の皇女が聖女として任命された、だけど皇女は神殿に籠もらず精力的に活動を続けるし結婚もするよってなったら世間の見方はまた変わるんじゃなかろうか?
そんでもって、寵児ってのもそこに……聖女と一緒に紛れ込ませちゃえばよくない?
むしろ寵児ももしかしたらもっと増えるかもしれないし……。
幸せをもたらす存在っていうなら、別に一人とは限らないと思うし……。
私がいつか結婚して子供が生まれたら、それはきっと幸せだなって思うのだ。
将来、あの四人の誰と結婚するかはまだわからないけど、きっとどの彼でも大事にしてくれると思う。
私自身、あのくっそたれな前世の親……おっと口が悪くなった、とにかくあの人たちのせいで『素敵な家庭を築きたい』という気持ちとは別に『あんな連中の記憶がある私が立派な親になれるだろうか?』っていう心配はあるのだ。
それでも、今の家族に大事にされていることを考えればきっと私もいつか私のところに来てくれるであろう我が子を愛したいと心から願っている。
(そもそも赤ちゃんっているだけで人を笑顔にするって言うしね)
勿論、苦手って人もいるだろう。
アル兄様みたいに先祖返りだからって拒否される子供がいたように、全ての子供が受け入れられる優しい世界……なんてのは難しい話だ。
そんなハッピーワールドだったらそもそもエルヴェみたいに怖い子は育たないし!!
「あれっ、ゴシュジンサマ今何か変なこと考えませんでした~?」
「ソンナコトナイヨ」
「そうかなあ~」
察しが良すぎて怖いんだって。
エルヴェは楽しそうにしているから、決して不機嫌にはなっていないっていうか……多分エルヴェ的には『おっこの皇女おもしろいこと始めたな?』くらいなんだろうけど。
こっちゃぁまじめなんだぞう!
「なるほど……ニアの気持ちはわかった」
「……父様?」
「マルティレス神父は皇女を聖女になるべく説得していたことにする。それを認める代わりに余は皇帝として、第七皇女ヴィルジニア=アリアノットの聖女としての行動を支援すると決めた。これでいいな? マルティレス神父よ」
「……複雑な気持ちではございますが、それで。わたくしめは今後も聖女様の傍にてお仕えする神官として、今後も城に滞在させて戴きます」
「しれっと要求しおってからに……!!」
父様と伯父様は大丈夫そうだ。うん。
皇帝として支援するって大きく出てくれれば、それに異を唱えるメンツがどこかもわかるしね!
そうじゃない勢力も勿論いるだろうけど……私がどうしたいかを知ってくれているなら、兄様たちやエルヴェはもっと動きやすいはずだ。
(やっぱ私、冴えてたね!)
いやこの考えに至るまでが時間かかりすぎだったなあって反省はしている。
難しく考え過ぎちゃったよね、ははは……。